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サイボウズの企画フレームワーク『コンセプト』:「誰に」「何と言ってもらうか」で企画の方向性をシンプルに定義する

様々な職種で欠かせない「企画」というお仕事。「新しいものを作る」という行為の性質上、関係者で方向性の共通認識を持って進行することが難しいと感じた経験がある方は少なくないように思います。

施策やプレゼン、記事など何かを企画するとなったら、サイボウズでは「コンセプト」というフレームワーク・共通言語を用いて進めています。

このフレームワークについて説明しているウェブページが現時点では意外となさそうで(たぶん)、社外の方とのやりとりや議論で取り入れたい際に不便であることに気がついたので、いち社員としての理解の範囲になりますが解説を書いておきたいと思います。

社員の方たちへ:
間違ったことを言っていることに気がついたらこっそり教えてください😇

サイボウズの「コンセプト」とは

「コンセプト」は、一般的には「企画の方向性」といった意味で使われていると思います。しかし、抽象度がやや高くふわっとした概念のため、実際にコンセプトをうまく表現したり、そこから関係者の認識を合わせることは難しいと感じた経験はないでしょうか。

この問題を踏まえて、サイボウズ社内では「コンセプト」を

  • 誰に

  • 何と言ってもらうか

の2点に絞って示すように定められています。それぞれ「ターゲット」「バリュー」と呼ぶこともあります。

たとえば同じ「先進的なグループウェア」でも、誰にとっての「先進的」かでその中身は変わってきます。そのため、まずは「誰に」の認識を合わせます。

次に、同じ「先進的なグループウェア」でも、全く見たことがない機能が搭載されているのか、見た目が現代風なのか、とにかく使いやすさが今までのものよりずば抜けているのかなどで解釈がブレることがあります。そのため、「ターゲットがその企画を受け取ったときに、具体的にどんな言葉を発したり思い浮かべたりするか」(何と言ってもらうか)を明確に言語化することでブレにくくします。

つまり、こちら視点の「何を伝えるか・届けるか」ではなく、ターゲットが実際に口にしてしまいそうな言葉でターゲット視点で「何と言ってもらうか」を考えて定義することで、企画する側本位の企画になってしまうことを防止します。ターゲットの声を徹底的に想像して、「 」(カギ括弧)付きで定義するのです。

例:
・ITツールにそこまで慣れていない日本の50代以上のビジネスパーソンに
・「今までのものと比べて、シンプルでとてもわかりやすい! これなら私でも毎日なんとか使えるかも」と言って(思って)もらう

ターゲット「誰に」を定めて、ターゲット目線で「何と言ってもらうか」を言語化する。この2点で簡潔に「企画の方向性」を定義して共有する。これがサイボウズの「コンセプト」です。

「コンセプト」をもとに企画内容について検討・議論する

コンセプトを定めたら、そのコンセプトをもとに企画内容を検討・議論します。

ここは社内でも人によって異なる部分が大きいように思いますが、僕の場合はコンセプトを用いて、下記のような観点で企画内容を吟味することが多いです。

ターゲットが実在しそう(実在する)か

実在しないターゲットのために企画しても、届く・刺さる人がいなくて無意味なのは当然です。

「具体的にはたとえばこの人 or こういう人」と例を挙げられるかどうかが1つの判断軸になるでしょう。プロモーションの企画では「このユーザー様のような人」「このTwitterアカウントのような人」などで示すこともあります。

ターゲットが一定以上の数、存在見込まれるか​

たとえ実在する・しそうなターゲットだとしても、とくにプロモーション企画では「母数が一定以上見込まれない場合は非効率」と判断して見送りにすることがあります。

「ちゃんと多くいそうだよね」と複数人の感覚や経験をもとに議論することもありますし、いくつかの定量データを持ってきて「ちゃんといるね」と明確に判断することも当然あります。

ターゲットとバリューが合致しているか​

「このターゲットのような人物は実際にいると思うけど、果たしてそんなことを言ってくれはするだろうか?」と検討します。

可能であれば、「このターゲットだったらそんな言葉使いはしないよね」といった言葉選びの点まで考え抜けると、より精度高い企画内容づくりにつなげられると思います。

「ターゲットはなぜそんな悩みや課題を抱えているのか?」を説明できるか

「なんとなくこんなターゲットがいて、こういう悩みや課題を抱えていますよね」からできればさらに踏み込み、「では、そのターゲットはなぜそんな悩みや課題を抱えているのか?」まで言語化するようにします。

  • こういう環境で過ごしてきたから

  • こういう失敗を経験したことがあるから

  • こういうジレンマがあるから

  • こういう思い込みがあるから

など。単に「こういう悩みを解決してあげるぞ!」という心意気ではターゲットの心を動かすことは難しく、その背景を調べたり見抜いたりしないと心を動かす企画を立案することは難しいものです。

企画内容がコンセプトと合致しているか​

あとは具体的な企画の内容がコンセプトと合致しているかを確認します。「この企画を実行することで、コンセプトで定めたターゲット(誰に)がバリュー(何と言ってもらうか)を感じてくれるだろうか?」と考えます。

上述の「ターゲットはなぜそんな悩みや課題を抱えているのか?」を言語化できていれば、それと照らし合わせて「その悩みや課題はこの企画で解決できそうか?」と考えることもあります。

シンプルなフレームワークだからこそ使いやすい

企画のフレームワークは、探せば世の中たくさんあります。サイボウズのコンセプトは、その中でも非常にシンプルな部類かと思います。それゆえ、万能ではない部分も当然あります。

しかし、これだけシンプルなフレームワークだと、少しのコツを押さえるだけで職能に関わらず誰でも使えるという特長があります。企画といえば主にマーケティング系のお仕事と思われやすいかもしれませんが、サイボウズのコンセプトは(僕が知る限り)すべての部署で共通の言葉として使われています。

こうなってくると、他部署の施策を見て「おや?」と思っても、企画書を探してコンセプトの記述さえ見れば、ひとまずその狙いを理解することは可能になります。もちろん、コンセプトを見ても、そのコンセプトやあるいは企画内容に違和感を抱いたときはフィードバックしますが、狙いを理解した上で議論しやすくなるので、いずれにしてもコミュニケーションコストを下げられて大変助かっています。

また、他の人とのコミュニケーションだけでなく、企画の実現を具体的に進める過程でなんだか迷走・混乱してきた際に、自分自身が目的を確認し直す用途にも便利です。僕がコンセプトについてチームメンバーに説明するときは「企画を進めたり振り返ったりするための"方位磁針"」と喩えることもありますね。

ご参考になればと思います。

参考書籍

コンセプトの説明は、社長の青野さんが書いた『チームのことだけ、考えた。』にも記載されています。ご興味ある方はご覧ください。

そんなわけで、書籍に載っている記憶はあったので、てっきりウェブにもどこかに載っているだろう・・と思ったら意外となかったことに気づいた、というのがこの記事を書いたキッカケなのでした。

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