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【いちごる読書note】スターバックス成功物語

『スターバックス成功物語』

こちらの本は、スタバの元CEO・ハワード・シュルツ氏が書いた経営者自伝である。昨年10月に初めて読んだのだが、僕にとっては非常に示唆に富む内容であり、今回改めて読んでみた。

この本も、いちごるが読んだ他の経営者自伝(『Airbnb Story』『ピクサー流創造するちから』『ディズニーCEOが実践する10の原則』など)と同様、一つの企業の成長ストーリーを通じて、イノベーションや組織論、リーダーシップ論について学ぶ格好の題材である。

この【いちごる読書note】シリーズのご多分に漏れず、本書の内容の要約を紹介する、というよりは、この本を読んで感じ取った、もしくは考えたことを以下に記そう。

1.スターバックスの目指したこと~ローテク業界とイノベーション~

以前別の機会にも触れたことではあるが、「イノベーション」というと多くの方がイメージするのは、例えば90年代でいうところのインターネットの勃興とその後のGoogleの隆盛や、近年でいうとチャットGPTをはじめとするAIに関連する業界、すなわちハイテク産業に関連する現象だと捉える向きがある。

しかしながら、イノベーションは、ハイテク産業だけでなく、それ以外の産業(テクノロジーの重要性がより劣るミドルテクやローテクの分野)でも生じるものである。

その一つの事例が、スターバックスの成し遂げた(成し遂げつつある)ことではないだろうか。

スターバックスが当初展開したのは、コーヒー豆の販売やコーヒー喫茶といった分野で、これらは古くから個人経営的には存在したローテク産業である。

ただ、彼が他と異なったのは、「アメリカにおけるコーヒー文化」と、彼自身が体験した貴重な「本場イタリアのコーヒー文化」のギャップからスタートしたことである。

彼のイタリアでの本物のコーヒー文化の原体験をきっかけに、彼にはそのビジョンが「見えた」のだ。

こうしてスターバックスを、地元のシアトルから、全米、そして世界へと広めたシュルツ氏は、ローテクであるコーヒー小売業界において、古くも新しい文化・価値観を定義し、イノベーションを推進していったのである。

イノベーションが、ハイテクだけでなく、ミドルテクやローテクの分野でも起こりうること、そしてむしろ、ミドルテク・ローテク分野のイノベーションこそハイテクのイノベーションの土壌ともなるべきことは、P・F・ドラッカー氏がその著書「イノベーションと企業家精神」においても繰り返し主張していたことである。(*1)(*3)

また、イノベーションのタネとなるものの一つに、イノベーター自身の原体験に基づくものがあることは、クレイトン・クリステンセン氏の「ジョブ理論」においても提示されている。(*2)(*3)

ここでは、ドラッカー氏やクリステンセン氏の著作との関連について、これ以上の言及はしない。

だが、イノベーションに関わりがある方、もしくは興味がある方にはこれだけは伝えたい。

『イノベーションと企業家精神』や『ジョブ理論』はイノベーションを推進していくための概念や方法論の全体像を示し、一方で『スターバックス成功物語』においてシュルツ氏が実践してきたことは、その一つのケーススタディーとなっており、これらを関連付けて読むことにより、「イノベーションとは?」ということの理解が深まるはずだ、と。

イノベーションは特別な人にしか引き起こせないものではない。

それを理解し、「であれば、私には何が出来る?」と、少しでも多くの人が気付けたら、社会はより良くなるのでは。


*1 スターバックスの場合は当初はコーヒー豆の販売や、喫茶スペースというまさにローテクの分野における革新的な試みを推進しているが、その枠組みを超えてさらに事業領域を拡大するきっかけになったのは、コーヒーエキスの抽出技術を採用したことである。

これこそまさに、ローテクにおけるイノベーションが、ハイテク(バイオテクノロジーを活用したコーヒーエキス抽出技術)のイノベーションの土台となった例と言える。

*2『ジョブ理論』においては、「イノベーションの5つの肥沃な土壌」として「生活に身近なジョブ(≒原体験)」、「無消費に秘める可能性」「間に合わせの対処策」「出来れば避けたいこと」「意外な使われ方」を挙げている。

*3 新しい文化・価値観の普及という点では、Airbnbの民泊ビジネスも同種のイノベーションである。また、これは着眼点としてはローテク分野(古くからある外泊ニーズ)だが、運営面ではハイテク分野(おススメ民泊案件の高度なアルゴリズムなど)を活用した例といえる。


2.いちごる自身が心に留めておきたい点

同書は、スターバックスの創業(正確には第2創業)前から、株式上場、そして上場後のさらなる拡大の企業成長プロセスと、シュルツ氏がその中で経験したことの反省的洞察を記したものである。

この観点から、いちごるの未体験ゾーンを先取りした実践知は、これから起こり得ることとして、心に留めておきたい。

シュルツ氏の強い信念は、彼の中にある夢想家精神が生み出したものといえる。(実際、同書で彼自身が「私の本性は、夢想家である」と語っている)

そして、新しい事業を推進していく上で、最初に重要になるのはこの種の強い信念であることに違いはないと思われる。

だが、信念だけではそれを具体化していくために十分ではなく、単なるアイディアで終わってしまう。

そこで、彼が経験したのは、3つの自己変革だという。

夢想家としてスタートし、実際に事業を起こし起業家(1つ目の変革)となった。さらにその事業が拡大していく中で、専門的経営者へと転身(2つ目の変革)し、最終的には指導者(3つ目の変革)となった。

そしてその中で、例えば規模拡大に伴う様々な分野での課題には、それに強みを持つ者と共同し、権限を委譲することが必要なこと。そして、その時に感じる不安と戦う必要があることなどが、同書には記されている。

これを実際に自分自身が経験することになるかは分からない。

だけど、いちごるのビジョンがそうである以上、偉大な先達のアドバイスとして頭の片隅に残しておきたい。

また同書では度々、夢想家を後押しするコトバが散りばめられている。

その中でもプロローグで出てくる文章をここに残しておこう。

挫折しそうになっても、また立ち上がれるように。
そして常に前を向いていられるように。

「私が本書を執筆したのは、どんなにあざけられようとも勇気をもって自分の夢に挑戦し続けてもらいたい、と思うからだ。無責任な批判にくじけてはならない。どんな障害にも、しりごみすることなく挑戦しよう。プロジェクト(国営低所得者共同住宅)で育った私の前に、何度大きな障害が立ちはだかったことか?

・・・中略・・・

あなたが自分の事業、あるいは働き甲斐のある職場に真心を注ぐとき、人には不可能に見える夢を実現することができるのだ。そのとき、生きがいに満ちあふれた人生が開かれる。」

『スターバックス成功物語』はじめにより

3.その他関連書籍

同書で取り上げられていて、読みたい本リスト入りしたものたち。

『アントレプレナー マネジメント・ブック』ダイヤモンド社
企業の成長に伴う痛み(原題:Growing Pain)に対する指南書。シュルツ氏がこの観点で助言を求めたエリック・G. フラムホルツ氏の著書。

『サードプレイス』みすず書房
スターバックスが提供しているものは何か?とシュルツ氏が問いかけ、スターバックスの価値を再発見したこと。それが、「第三の場所」。いつのころからか「いちごる体験」というコトバを使うようになったのは、シュルツ氏の言うサードプレイスに端を発しているのだろうな。


※その他の【いちごる読書note】はこちらにリスト化しています。
繰り返し読みたい本リスト


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