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「Think clearly」を読んで

昨年、書店で平積みにされていたThink Clearlyを読んでみた。
内容としては、人生を充実させる考え方を52の小さなチャプターで解説しており、全体としては長いものの1つ1つが短いため読みやすい。
自身の人生を充実させる思考法を、心理学や哲学、人類史などの観点から解説し、比較的説得力のある構成となっている。
特に印象的だったのは、人間の身体的進化と文化の発展のスピードが合っておらず、我々の置かれている状況に対して脳が追いついていない、という観点からの解説だった。

具体的に印象に残ったフレーズとしては、
「自分の感情は、あらゆる鳥たちだと捉え、飛んできては去っていくようなものだと思った方が良い。結局はどの鳥も居なくなるものだと考え、自分の感情が自分の一部とは感じられなくなる状態が良い」(チャプター11)

「人生のたかだか0.1%を過ごすだけのホテルの部屋や飛行機のシートの狭さよりも、狭い考え方の方がずっと始末が悪い。つまらないことに意識を集中させては、人生を浪費するだけ」(チャプター13)

「人生における「瞬間」とは約3秒間で、いくつもの瞬間の連続として私たちは人生を体験している。短期間に集中して得られる喜びを過大評価しがちで、長期にわたって手に入る静かで平穏な喜びを過小評価しがちなのは、「思い出している」私の勘違いが原因。エクストリームスポーツをする人などは、その体験中は苦行でしかないものを、後から振り返って良い体験と感じており、思い出を増やすために現在の幸せを犠牲にしている」(チャプター22)

「人類は、ちょっとした変化に気がつくことができることで、生き残ってきた。ただし、その変化への過敏さが現代の人間に害を与えている。現代的な刺激の集中砲火に抵抗できなくなってしまっている。そのため、情報やニュースとの付き合い方は長年かけてでも身につけるべき」(チャプター36)

「人生は完璧ではないことを受け入れ、自分だけではなく、他人の人生すらも同じく完璧ではないと認識する。過去に不幸だったからといって、今も不幸でいなければならないということはない」(チャプター41)

「ジェネラリスト願望の起源は石器時代であり、当時の人間はなんでも自分1人でやらなければならなくなった。だが、人類が定住し人口が増えるようになってからは、それぞれの人間の役割が細分化され始めた。こうした背景があるため、現代社会の人間にとって、特定の知識しか持たない自分が、立場の弱い不完全な人間に思えて後ろめたさを感じてしまうのである。多才さを良しとするのはそろそろやめた方が良い。もう1万年も前から職業上の成功を手にするにも社会の豊かさを実現するにも、専門性は欠かせなくなっている」(チャプター44)

「現状を維持するためには、周囲の変化に合わせて進化し続けなければ、生き残ることはできない。(赤の女王仮説)軍拡競争も同じで、他国より優位に立つために、自国の軍備もひたすら増強せざるを得ない、ということ。大局的に見れば、実は全く不毛な争いでしかない。軍拡競争に巻き込まれないためには、軍拡競争のない活動領域を見つけること。良い人生を手にしようと人々が競い合っている場所で、良い人生は見つからない」(チャプター45)


以下、読みながら記載したネタバレを含む読書メモである。

1.考えるより、行動しよう
• 何を書くかというアイデアは、考えているときではなく、書いている最中に浮かぶ。
• 先行きを見通せる人などおらず、最高の教養を身に着けても先が読めるのはせいぜい数メートル程度。
• 考えるだけでは、時間とともに新たに得られる知識はどんどん小さくなり、飽和点に達してしまう。
• 往々にして、実行するより考えるほうがラク。ただ、人生において自分が何を求めているか知るには、何かを始めてみるのが一番だ。
2.なんでも柔軟に修正しよう
• 重要なのはスタートではなく、修正技術のほうである。最初の条件設定ばかり気にして修正がおろそかになると、どんなパートナーとの関係も崩れてしまう。
• 人間が修正を嫌うのは、どんな些細な修正も、「計画が間違っていた」という証拠に見えてしまうから。
• 例えば、良い大学で学位を得ることは、より良い条件で社会人生活をスタートさせると思いこまされるが、実際、学位と職業的な成功の関連性は時を経ればどんどん弱くなる。
• 早いうちに軌道修正した人は、長い時間をかけて完璧な条件設定をつくりあげ、計画がうまくいくのをいたずらに待ち続ける人より得るものが大きい。
3.大事な決断をするときは、十分な選択肢を検討しよう
• 多くの人は採用する応募者を決める自分のタイミングが早すぎるのに気づく。
• 興味のあるものだけに限らず、できるだけたくさんのものを試してから、最終的な判断を下す。
• 私たちが決断を早くしてしまうのは、労力の問題。いろいろなことを試す手間を省きたくなってしまう。
• 私たちが抽出するサンプル数は少なすぎて全体を代表していないにもかかわらず、それだけの情報をもとに性急に決断を下してしまう。
• 常にオープンな姿勢を崩さず、偶然が与えてくれたものはすべて試すようにしよう。
4.支払いを先にしよう
• お金よりもストレスを節約するように心がける。
• 例えば所得税のことは考えず、今住んでいる国や都市そのものや景観を他と比べてみる。
• 起きたことの解釈は変えることができる。ストレスは心と体をむしばんでいくが、いらだちを避けるだけで、一生のうちに費やす時間は長くなる。
• 失った時間とお金は取り戻せないが、起きた出来事の解釈の仕方は変えることができる。
5.簡単に頼み事に応じるのはやめよう
• ちょっとした頼み事をされたときに、ついつい好かれたくて引き受けてしまい、あとから引き受けたことを腹立たしく思ってしまう。
• こうした好かれたい病はどこからくるのか。次にその仲間がお返しに獲物を分け与えてくれることを期待する、互恵的利他主義にあたる。
• 互恵的利他主義の危険。
①誰かから好意を受けると、その人にお返しをする義務があるように感じてしまう。結果的にその人の意のままに動かざるを得なくなる。
②相手が何かお返ししてくれるという期待から引き受けてしまい、結果的に後悔しても、もっともらしい言い訳を考えて自分が引き受けたことを正当化しようとする。
• 頼み事をされたとき、無理な要求を検討する時間は、きっかり5秒にすること。結果的にほとんどはノーとなる。
6.戦略的に頑固になろう
• 選択肢はひとつだけ、という状況を自ら作る。退路を断つ。
• ビジネスの世界で、選択肢を多くしたり、状況に合わせて柔軟に判断することは大切とされているが、こうした頑なな行動が、長期的な目標達成に寄与することがある。
• 柔軟に判断を変えることで、判断力が鈍る「決断疲れ」になってしまうこと。さらに、評価が確立されるという利点を得られる。徹底的な誓約に基づく仕事をすれば、周囲はとやかく言わなくなる。
• ウォーレン・バフェットも、事後交渉は受け付けない、頑なな誓約をもっており、主義を曲げないという評判を築き上げ、交渉の無駄な時間から解放された。
7.好ましくない現実こそ受け入れよう
• 失敗からの学習というアプロー地は、優れた思考の道具として生かすことができる。
• 人は失敗から目を逸らしてしまいがち。例えば体重が増えつつある人は、気持ちを体重からそらす方が痩せるよりも楽なので、別のことに興味の中心を移していく傾向がある。
• 好ましくない現実こそ、受け入れる必要がある。そのために一番良いのは、あなたのありのままの真実を示してくれる「人生のパートナー」や「友人」を持つこと。
8.必要なテクノロジー以外は持たない
• テクノロジーの多くは、一見それによって時間とお金を節約できているように見えても、実際にかかったコストを計算してみた途端に、その節約分など消えてしまう。
• 例えば、パワーポイントが普及する前は必要なかったスライド準備に極めて大きな工数が割かれるようになった。
• 反生産性の視点で、生活を検討し直す必要がある。孔雀のように、目立つ羽を持てば持つほど、捕食者に見つかりやすくなる。本当に必要なものを取捨選択する必要がある。
9.幸せを台無しにするような要因を取り除こう
• ダウンサイドという危険をできる限り取り除くようにしていれば、アップサイドは自然に姿を表す。
• 勝つことではなく、負けないことが大事。
• 例えば、特定のもの「以外」を取り除く、という考え方のもと、「幸せを大きく損なうものは何か」や「良い人生を脅かすもの何か」と考えて、それらを取り除くことで、幸福は現れる。
• ウォーレン・バフェット「私たちはビジネスにおける難問の解決法を見つけたわけではない。難問は避けた方がいいと気づいただけだ」
• 何を手に入れたかで人生の豊かさが決まるわけではなく、何を避けるかが大事。
10.謙虚さを心がけよう
• 卵巣の宝くじ。生まれた場所や国、都市といった要素で、すでに格差が生まれている。つまり現在のあなたに有利にも不利にも働くあなた自身の価値観も、ものの見方も、思想も、あなたが自分で身につけたものではない。
• 人生における様々な選択を自分自身で行なってきたとしても、その意思決定にはそれまで育ってきた環境(=運命)が影響しており、それは幸運に恵まれていたからできたこと、と解釈できる。
11.自分の感情に従うのはやめよう
• 目の前の風景は言語化することは非常に簡単。一方で自分の感情を表すのは非常に難しい。実際に多くの言語において、感情を表す言葉は極めて多く存在するが、それでも自分自身の感情を描写するのは困難。
• 自分の感情は、不正確で信頼性に欠け、当てにならない。心のコンパスは無数に存在し、全てが違う方向を向いていると思った方がよく、あてにしてはいけない。
• 実は、30分間の面接での採用はあまり効果がなく、それよりは実績を細かく分析したほうがあてになる。そのため、自分を知るためには、過去に何度も起こった出来事というファクトから自分を考えた方が良い。
• 自分の感情は深刻に捉えすぎるべきではない。特に、ネガティブな感情は重く受け止めない方が良い。
• 自分の感情は、あらゆる鳥たちだと捉え、飛んできては去っていくようなものだと思った方が良い。結局はどの鳥も居なくなるものだと考え、自分の感情が自分の一部とは感じられなくなる状態が良い。
• 周りの人の感情は真剣に受け止めるべきだが、自分の感情とは真面目に向き合う必要はない。自分の感情はあたりを羽ばたかせておけばいい。感情はどのみち、自由気ままに行ったり来たりを繰り返すものだから。
12.本音を出しすぎないようにしよう
• 自分の本音をオープンにしすぎるのも考えもので、一定の礼儀やマナーや自制心はあって然るべき。
(インターネット上ではすでに私たちはそういったものを失っているが)
• 本音を語りすぎない方が良い理由は、
①私たち自身が、自分のことを本当にわかっているとは言えない。(自分の心の声、感情は当てにならない)
②本音をあけすけに語っても、自分を滑稽に見せるだけ。尊敬は集まらない。
③どんな生物の細胞も、常に外側との境界線を持っているように、境界のない世界では生きられない。攻撃されてしまう。
• 安定した信頼を勝ち得るための、職業上の外向き第二人格を作るべき。「本音を晒そう」といったことを言うコーチングセミナーは疑うべき。
13.物事を全体的に捉えよう
• フォーカシング・イリュージョンに惑わされてはいけない。人生における特定の要素だけに意識を集中させると、その要素が人生に与える影響を大きく見積もりしすぎてしまう。
• 特定の要素だけを過大評価しないよう、十分な距離を置いて比べてみること。
小さな子供はおもちゃを取り上げられるとこの世の終わりのように泣き叫ぶが、大人は冷蔵庫にビールがなかったとしても泣き叫ぶことはない。
• 別の仕事についていたら、と思うことがあっても、まずは自分の人生をできるだけ距離を置いて捉えてみること。
• 人生のたかだか0.1%を過ごすだけのホテルの部屋や飛行機のシートの狭さよりも、狭い考え方の方がずっと始末が悪い。つまらないことに意識を集中させては、人生を浪費するだけ。
14.買い物は控えめにしよう
• 高級な車そのものを持つことに幸福は感じても、運転する車が高級でも中古でも運転する喜び自体に変化はない。
これもフォーカシング・イリュージョンの幻惑で、車のことだけ考えていれば幸せでも、運転という日常生活に視野を広げるとそう幸せは感じないもの。
• 「ヨットを所有して一番嬉しかったのは、買った日と手放した日」。高級なものには維持コストがかかるもので、買ったその日から損失が生まれていく。
• 仕事においても同じで、たとえ大金は稼げても、喜びをもたらさない仕事につくのは馬鹿げている。就職した時に感じる喜びではなく、仕事のプロセスそのものを楽しめるかどうかが大事。経験を通して得られる喜びはずっと心に残り続ける。
15.貯蓄をしよう
• 限界効用逓減の法則。消費する水が増えるごとに、水によって得られる満足感は小さくなっていき、一定量を過ぎると満足感は全く得られなくなってしまう。
• 年収はいくらあれば満足できるのか?実際、世帯収入が1200万円を超えると、追加収入が幸福度に与える影響はゼロになる。億万長者出であっても、生活における喜びが年収とともに右肩上がりになるわけではない。
つまり、基本的な需要が満たされていれば、生活がより豊かになっても幸福度は変わらない。
• お金における相対的な価値が決まるのは、他者との比較(例:1人で100万円もらう、同僚が200万円・自分が120万円だと後者の方が幸福度が下がる)。さらに、過去によっても変化する。例えばキャリアの前半より年収アップした人は、その絶対額より「上がったこと」に喜びを感じる。
• お金との上手な付き合い方は、
①年収1年分くらいの貯金を持つこと
②所得額や資産額のわずかな変動にいちいち反応しないこと
③裕福な人と自分を比較しないこと
④大金持ちになっても、生活は質素にすること。お金があれば誰でも買えるものに価値はなく、人生そのものをよくすることに価値がある。
16.自分の向き不向きの境目をはっきりさせよう
• 人間は、自分の「能力の輪」の内側にあるものはとてもよく理解できる。だが「輪の外側」にあるものは理解できない、あるいは理解できたとしてもほんの一部だ。(ウォーレン・バフェット)
• その能力の輪の大きさは大事ではなく、大事なのは、輪の境界がどこにあるかをしっかり見極めること。
• たとえ高待遇のオファーが舞い込んできたとしても、自分の能力の輪の範囲外のことであれば断るべき。
• 能力の輪を無闇に広げようとするのはやめた方が良い。人間の能力は、1つの領域から次の領域へと転用が効くわけではない。
• 能力の輪を作り上げるには、時間と執着が必要。何かの中毒になるほど熱中して執着し、何千時間も費やしたからこそ、その分野のエキスパートになれる。
• 自分に不足している能力に不満を感じるのはやめた方がいい。平均や平均点以下のことはどうでもよく、1つでも抜きん出ていることがあれば、欠点がいくつあろうと帳消しになる。
17.静かな生活を大事にしよう
• 投機家と投資家では、大きな成功を収めているのは投資家。両者の最も大きな違いは、費やす時間の長さである。
• そもそも人間の脳は、短期間に一気に状況が変わるような展開を好むようにできている。一方で、長期的に売れているものの方が人気である。
• 人生は、静かな方が生産性が高い。1つのことに長期的に取り組む方が良い。せわしなく動き回るのを控え、何事にも落ち着いて、長期的に取り組むことが、人生を向上させる。
18.天職を追い求めるのはやめよう
• 天職を見つければ幸せになれると言うのは空想に過ぎない.執念深く天職を追い求めても、ただの執念深い人間になるだけ。冷静に客観的に目標を追求していくことはいいことだが、盲目的に追いかけても絶対に幸せにはなれない。
• 天職を見つけたというサクセスストーリーの裏には必ず敗北者がおり、天職を盲目的に追いかけたが絶望した人たちがいることを忘れてはいけない。
• 天職は憧れの職業と同義語と捉え、夢見るような天職は存在しないと考える。あるのは才能と嗜好だけ。
誤った思い込みではなく、自分の能力に基づいて仕事を選び、得意なもの・好きなもの、高く評価してくれるものを選べば良い。
19.SNSの評価から離れよう
• 現代の有名な数学者であるペレルマン氏は数学界のノーベル賞であるフィールド賞の授与を断った。彼にとって重要なのは数学だけで、世の中が自分をどう思おうが、成果をどう評価しようが、本人にとっては全くどうでもいいことだった。
• 世間の評価を気にしても、本の出来が変わるわけではない。いちいち書評に反応したところで、書いた本の質が変わるわけではない。自分で作り上げた他人の評価という監獄から自由になるべき。
• 自分の内側にある自分自身の基準が大事か、それとも周りの人の基準が大事か。
両親が、自分の子供の世間的な評価を気にする評価基準を持っていれば、子供は自然と自分の世間的な評価を気にするようになる。これは良い人生の芽を初めから摘み取っているようなもの。
• 他人の評価を気にするのは人間の本能。村社会で生きていた人間にとって、他人から評価され、いざというときに助けてもらえることが生き残る術だったから。
• 他人の評価から自由になった方がいい理由は、
①感情のジェットコースターに乗っている時間を節約できる
②他人の評価を気にしすぎると、自分が本当は何に幸せを感じるのかがわからなくなってしまう
③ストレスを感じていては良い人生にならないから
• SNSで他人の評価ばかり気にしていると、Approval Seeking Machineになってしまう。結果として他人の評価の網に囚われ、自分の意思で自由に動いて良い人生を送るのが難しくなってしまう。
• 他人の評価や噂話など、自分にコントロールできないことばかりである。そしてそれはコントロールする必要もない。
• 私のしたことが周りの人間にとって気に入らないことであっても、私自身が自分の仕事に納得できればそれで満足。逆に周りが褒めてくれたとしても、私自身が自分の仕事に納得できなければ不満に感じる。(ウォーレン・バフェット)
20.自分の波長の合う相手を選ぼう
• 自分は変えられても相手は変えられない。20年前の自分を思い浮かべると、性格や気性、価値観、好みなどは少なからず変わっている。一方で、これから20年でどれくらい変わるかを想像すると、「そう変わらない」と思う人が多い。
• これは、歴史の終わり幻想という錯覚で、これからも自分自身は変わっていく。
• 自分の性格の変化をコントロールするのは難しいが、変化を及ぼす期待ができるのは、「自分自身の性格を、自分が慕っている人に近づくように意識すること」である。
• 逆に、自分以外の人たちの性格を変えることはできない。そのため、人生のルールにおいて、「誰かの性格を変えなければならないような状況を避ける」ことが大事。
そのため、性格の改善が必要となりそうな人間は雇わないし、波長の合わない人間とはビジネスをしない、ということが大事。
• 性格はそう変えることはできないが、スキルは変えることができる。そのため、サウスウエスト航空では、会社に性格的に合う人間を雇い、スキルは後から身に付けさせている。
21.目標を立てよう
• 人生には大きな意義と小さな意義がある。大きな意義は、「私はなぜこの世に生まれてきたのか?」という問いの答え。これに対して答えを出せているのは神話くらいで、答えを探す労力は大き過ぎて時間の無駄になってしまう。
• 一方で、小さな意義を見つけることは大事。個人的な目標や、意欲的になれること、やるべきことのことである。
• 若い頃から経済的な成功を目標としていた人の方が、大人になってから経済的に恵まれている可能性が高く、人生に対する満足感も非常に高い。
• 人が幸せを感じるかどうかは、所得額ではなく、目標を達成できたかどうかで決まる。目標があると、意思決定の際にも迷う余地が少なくなる。
• ただし、達成困難な目標を立てている人は、人生に不満を感じやすくなるため、非現実的な目標設定はNG。大事なことは、自分が今どこに向かっているのかをきちんと把握しておくこと。
22.思い出づくりよりも、いまを大切にしよう
• 人生における「瞬間」とは約3秒間で、いくつもの瞬間の連続として私たちは人生を体験している。
• 人生において不特定の「あの瞬間」をピンポイントで思い返すことは不可能で、人間の記憶の中には体験したことの100万分の1も残っておらず、私たちは壮大な体験の無駄遣いをしていると言える。
• 一方で、「思い出している」というものは「ここ最近のあなたは幸せですか?」といった問いへの答えである。
• 現在体験中の私と、体験を思い出している私では、同じ出来事にも評価が異なることがあり、俗に言う「思い出の美化」である。例えば、夏休みを体験中の学生の幸福度と、夏休み後の学生の幸福度では、夏休み後の学生の幸福度の方が高い。(ピーク・エンドの法則)
• 短期間に集中して得られる喜びを過大評価しがちで、長期にわたって手に入る静かで平穏な喜びを過小評価しがちなのは、「思い出している」私の勘違いが原因。
• 危険度の高いエクストリームスポーツをする人などは、その体験中は苦行でしかないものを、後から振り返って良い体験と感じており、思い出を増やすために現在の幸せを犠牲にしている。
23.「現在」を楽しもう
• 「経験」は「記憶」よりも価値がある。
• 最も価値のある経験は、「人生の最後まで記憶に残り続けた、ポジティブな経験」と思われがちだが、最終的に記憶に残らなくとも、その1つ1つが素晴らしい経験であれば、経験すべきである。
• 思い出に浸って幸せな気持ちになるより、いま素晴らしい経験をすることに労力を使った方が良い。
• 経験を記憶の口座に入金しても人生最後の日にその口座は消えてしまうため、いまこの時の体験を重視すべき。
24.本当の自分を知ろう
• 人間の脳はコンピュータのようにメモリを増やせば無尽蔵に全てを覚えていられるようにはできておらず、経験した全てを記憶することはできない。また、メモリを圧縮するために、ビットではなくストーリーとして記憶を圧縮している。
• 過去の出来事は、「思い出している」私によってストーリーへと転換され、記憶される。ストーリーへの転換にあたって、過去の出来事同士を繋げて発生する矛盾は取り払われてしまう。
• 人間が自分の過去に対して持つストーリーはリアリティではない、かつそれが危険な理由は、
①自分が思っている以上に自分自身が変化しているにもかかわらず、無理に1つのストーリーとして繋げているから
②ストーリーがあることで、人生が実際より計画可能なものと思えてしまう(本来人生は驚くほど偶然に左右されている)
③ストーリーによって、出来事に特別な意味づけをして、事実をありのまま評価できない(失敗しても言い訳になって改善できない)
④実際の自分より、自分自身が優秀など過信してしまう
• 日記をつけることで、自分自身を客観的に振り返る機会になる。
25.死よりも、人生について考えよう
• 死ぬ直前に自分が想いを巡らす時間などないことが多い。また、その際に呼び起こされる記憶自体が間違っていることが多い。つまり、死ぬ時のことを考えても何もならず、良い人生から目を逸らしているだけになる。
• 脳は、ピークエンドの法則に則って、「一番良い時、悪い時」を過大評価してしまう。一方で、「持続の軽視」という法則に則って、長く続いている平穏で幸福な日々といったものを過小評価してしまう。
そのため、60年間の人生が幸せであっても、残り5年が不幸であれば、不幸な人生だったと評価してしまいがち。
• つまり、人間の能力では、ある人生が魅力のある人生かどうかを上手く判断ができない。人生最後の衰えた時期だけで、人生を評価してはいけない。良い人生を過ごした後に死の淵で辛い数日を過ごす方がよほど良い。
• 加齢と死は、私たちが良い人生を過ごせたことに対する対価だと考えるべきである。
26.楽しさとやりがいの両方を目指そう
• 人生において「楽しいこと」と「有意義なこと」は異なる。(例:一時的な快楽は楽しいこと、社会貢献は有意義なこと)
• 人生における出来事は、「快楽の要素」という直接的な楽しみか、「意義の要素」というその瞬間に意義を感じる感情、どちらかを内包する。過去のハリウッド映画は、快楽の要素をふんだんに盛り込んだものが多かったが、最近は意義の要素を盛り込んだものも人気を博している。
• 人生においては快楽の要素、意義の要素両方をバランスよく配分した方が良い。良い人生には、意義のある何かと楽しみのための何かを交互に繰り返すこと。
27.自分のポリシーを貫こう
• 自分自身のポリシーである、どんな事情でも妥協できない、個人的な優先事項や主義の明確な領域を、「尊厳の輪」と呼んでいる。
• 尊厳の輪も、能力の輪と同じく、輪の大きさは重要ではない。境界をはっきりさせることが重要で、あまり論理的である必要はない。論理的に完成された尊厳の輪を持ってしまうと、それを論破された時に、自分の尊厳の輪が崩れ去ってしまうから。
• 尊厳の輪は人生を重ねると浮き出てくるが、小さいままで良い。輪が小さければ、輪の中で矛盾は生じないし、信念に対して責任を持って守りやすくなる。
• 時に信念を守るためには、他人を失望させることもある。これは尊厳の輪を守る代償として覚悟すべきこと。
28.自分を守ろう
• 自分の中にある信念を外に向かって発信しなければ、あなたは次第に、操り人形になっていく。
• 収容所生活を描いた書籍は多くあるが、極限状態で生き残るためのヒントなど実際はなく、生き残れたのは偶然の結果に過ぎない。
• 私たちは現在、生を突如奪われるような過酷な状況ではないものの、尊厳の輪への攻撃は日々受けている。
• 社会というものが個々人の尊厳を攻撃するのは、社会と個人では利害が異なるから。 個人的な考えは社会においては害悪と見做されがちで、同調圧力のもと攻撃をされてしまう。そうした攻撃に対して、尊厳の輪は自分自身の誓約を取り囲む壁である。
• 本当に尊厳が傷つけられそうな場面があれば、その相手に対して、そうした口撃を「もう一度言ってみてください」と言えば良い。
29.そそられるオファーが来たときの判断を誤らない
• どんな時代にもどんな文化にも、ビジネスの対象にするのがタブーとされることが存在する。
• どんなにお金を積まれても他人には渡したくないものがあるか。良い人生には、「自分の判断の基準となる、小さく強固な尊厳の輪が必要」である。
• 尊厳の輪がなければ、悪魔との契約にも魔がさしてサインしてしまうかもしれない。
• 年金生活者の生命保険を商品にして、顧客が早く亡くなれば大きな利益を手にする、というビジネスがある。経済の論理によって、悪魔的な行為に法的規制がかかることはあまり期待できず、こうした悪魔的行為を防げるかは個々人の尊厳の輪にかかっている。
• 尊厳の輪の中にあるものに交渉の余地はない。どんなにお金を積まれてもその基本を変えてはいけない。
30.不要な心配ごとを避けよう
• 不安センサーの適正は、動物の進化とともに比較的高くなっており、臆病さを強めてきた。
• ただし、昨今の人間社会において、命を奪われる危険はほぼ無くなってきており、不安に抱くことの90%は不要なもの。
• 動物実験においても、恒常的な不安は慢性的なストレスにつながり、寿命にまで影響を与えることが確認された。人間においては、不安は健康だけではなく、間違った判断にもつながってしまう。
• 不安に対する3つの対処法は、
①心配事を毎日メモに書き出してみる。毎日同じ心配事に悩まされていることが分かったら、その心配事について必要以上に考え込んでみる。考えられる限り最悪の結果を想像しているうちに大抵の心配事は無くなっていく。
②保険をかける。お金ではなく、心配事を減らせる。
③仕事に精神を集中させる。仕事への精神集中はや満足感は瞑想以上に不安の抑制に効果的。
31.性急に意見を述べるのはやめよう
• 例えば政治的な事案など、そう簡単に答えを出せるほど簡単なものではない事案が多く存在する。
• 一方で私たちの脳は意見を吹き出す火山のようなもので、常に個人的な見解を発信している。
• 答えを出す際に犯しがちな間違いは、
①自分が興味のないテーマにも意見を述べてしまうこと
②答えられない質問にまで発言しまうこと
③複雑な質問に、性急な答えを返してしまうこと
• 複雑な質問に対して人間は、直感で答えを出す傾向がある。さらに、直感を正当化しようと、脳の中で無理やり理由づけをしてしまう。
• そうしたことを避けるためにも、精神的な「複雑すぎる質問用」のバケツを用意し、上記①〜③を入れておき、無理に答えないようにする。
• 無理に質問に答える必要はない。意見がないのは、「知能の低さ」ではなく、「知性の表れ」だと考える。現代が抱える問題点は、情報過多ではなく、意見の過多である。
• 軽率に意見を述べる頻度が少ないほど、人生は向上する。軽率に何かを述べる前に、書いて考えを整理する、自分と考えの異なる人の意見を聞く、といったことを心がけるべき。
32.「精神的な砦」を持とう
• ボエティウスの「哲学の慰め」に登場する「哲学」という女性が教えてくれたこと、
①運命の存在を受け入れること。フォルトナという女神の「運命の輪」に乗って成功するためには、いつかまた運命が下り坂になることを受け入れなくてはいけない。
②所有しているもの、大事にしているもの、全ては永遠ではないと理解しておくこと。それらを執拗に手に入れようとするのはやめ、気楽に構えて運命がそれを与えてくれたことに感謝する。運命が幸運を与えてくれている間は、それは脆く儚く、永遠に続くものではないと常に覚えておくこと。
③全てを失ったとしても、人生においては良いことの方が多く、良いことにも負の要素はつきものだったことを忘れないこと。
④人間一人ひとりの思考や、思考の道具、精神的な対処法だけは、誰も取り上げることはできないこと。(精神の砦)
• 夜と霧のヴィクトールフランクルも、「考え方の選択は、人間に残された最後の自由」と述べている(精神の砦と同じ)。
• 人生において、運命の打撃に襲われることはある。どれも不幸ではあるものの、死ぬほどのことではない。
• 人生における最も大きな波を、あなたはすでに乗り越えている。この世に生まれるまでの確率の低さである。
• 本当の幸せは、一瞬で奪い去られるような、お金やものや社会的地位といったものではなく、「精神的な砦」の内側に存在する、と考える。
33.嫉妬を上手にコントロールしよう
• 嫉妬はあらゆる感情の中でも最も無意味で役に立たない有害な感情である。嫉妬をコントロールする能力は人生には不可欠であり、そのコツを身につけられればよい人生を手に入れるための基本的な条件を満たすことになる。
• 嫉妬に対して特筆すべきは、自分と同レベルの相手の方が、嫉妬の対象になりやすいこと。
• FacebookのようなSNSは他人との比較を際立たせており、多くのユーザーを苛立たせ、疲弊させている。例えばいいねの数や友人の数といった客観的な指標がそれを助長する。
• 気をつけるべきは、フォーカシングイリュージョン。隣人の生活を自分の生活と比較するとき、無意識のうちにたった1つの相違点だけに絞られていることに気がつこう。
• 自分の中に嫉妬の炎が燃え盛ってきた時には、嫉妬を感じる相手の「人生における最大の問題点」を意識的に探し出し、そのせいで相手自身もどれだけ困っているかを妄想する。
• 自分自身が嫉妬の対象にされた時はとにかく謙虚になること。
34.解決するよりも、予防しよう
• 人生の困難は解決するより避ける方が早い。
• 賢明さとは、単なる知識の蓄積ではなく、実際的な能力を指し、困難に対して予防措置をほどこすことである。
• 頭のいい人は問題を解決するが、賢明な人はそれをあらかじめ避けるものだ(アインシュタイン)。
• しかしながら、氷山に衝突しながらも乗客全員を救った船長は世間からもてはやされる一方、事前に氷山に気付いてそれを避けた船長は称賛されない。船長として優秀なのは後者であるにもかかわらず、世間は目立った方に注目してしまう。
• 目につきやすい業績を上げた人間に注目をしがちだが、問題を事前に防いでいる人たちの方が真のヒーローであることを忘れてはいけない。
• 予防措置のためには、知識だけではなく、想像力も重要。
• 1週間に15分でいいので、人生で起こりうる大きなリスクについて集中して考える時間を持つべき。(結婚生活の破綻、破産、心筋梗塞など)
• その想像したリスクを遡って、大きな問題の引き金となった原因を取り除いておくこと。
35.世界で起きている出来事に責任を感じるのはやめよう
• 個人でできることには限界があることを忘れてはいけない。「世界をより良いものにする」と掲げている世界経済フォーラムですら、その役目を果たせていない。自分を過信せず、1人の力で難題を解決などできるものではないと認識すべき。
• 自分の時間を最も効率的に使えるのは、「能力の輪」の中のことであり、能力の輪の中であれば1日あたりの生産性は最大化できる。そのため、ボランディア活動で無理に自分ができないことをやるより、得意なことで稼いだお金を寄付する方が全体的には最も効率が良い。目先の満足感でボランディアをするより、寄付してプロに任せたほうが世界はより良くなる。
• 災は時も場所も選ばず、無くならない。ある程度はやむを得ないこととして冷静に受け止めるしかない。社会に対して無責任でいることは決して罪ではない。
36.注意の向け方を考えよう
• 成功の一番の理由はフォーカス。どこに注意を向けるかが、成功を手にするための大きな要因であるということ。
• 世界中からスマートフォンに情報が集まり、私たちの注意を引こうと、ひっきりなしにハラハラさせてくる。情報は私たちに何かを与えているのではなく、逆に私たちから何かを盗んでいると思った方が良い。無用な情報に関わった途端に注意や時間、お金まで奪われてしまう。
• 注意・フォーカスとは現代においてお金や時間にも劣らない重要な資源である。それらを奪われないためには、
①「新しいもの」と「重要なもの」を混同しないようにする
 革命的、と言われる新しいものであっても、実はそれが取るに足らないものであることが多い
②無料のものやテクノロジーは避けるべき
 その手のものは、広告収入でやりくりするために無料で人の注意を引きつけようとする罠である
③マルチメディアからはできるだけ距離を置く
 画像や動画といったものは、人の感情を揺り動かしやすい一方で、信憑性は疑われいる。文字での情報収集を心がけるべき
④注意を分散させない
 FacebookやInstagramを見ている間は、自分の向いに座っている人には注意が向かなくなってしまっていることに気がつくべき
⑤弱者ではなく、強者になろう
 SNSの友人や広告を受動的に見ているのは弱者であり、それらは自分に何も与えてくれないということに気づくべき。
• 人類は、ちょっとした変化に気がつくことができることで、生き残ってきた。ただし、その変化への過敏さが現代の人間に害を与えている。現代的な刺激の集中砲火に抵抗できなくなってしまっている。
• そのため、情報やニュースとの付き合い方は長年かけてでも身につけるべき。
• あなたがどこに注意を向けるかで、あなたが幸せを感じるかどうかが決まる。あなたの体がどこにあろうと、あなたの意識は常にあなたが注意を向けている場所にある。どこに注意を向けるかを意識した方が、人生は豊かになる。
37.読書の仕方を変えてみよう
• どんな人間であっても、読んだ本の内容を克明に記憶していることはない。
• 読書の価値は、頭の中への浸透だけでなく、読書体験とも言えるが、やはり記憶に残らないということは、自分の人生の注意を捧げた価値を生み出すことができていない。
• 音楽と同じように、厳選した本を続けて二度読むことがおすすめ。
• 二度読むことで、初回は3%程度しか記憶に残らないものが30%程度に引き上がる。
• また、若いうちは本は乱読するように、できるだけ多くを読むべき。抜き取り検査をしているうちに、文芸の世界の全体的な傾向を把握できるようになる。
38.自分の頭で考えよう
• 私たちは、何かについての説明を求められるまで、「比較的多くのことを知っている」と思い込んでいる。そしてきちんと説明しようとして初めて、自分たちの知識が不完全なことに気づく。(知識の錯覚)
• 自分の意見は、周りの影響のもとにできている。複雑な問題に関する意見をいう際には、本や専門家に頼る代わりに、自分たちが属する社会集団の意見をそのまま借用してしまう。自分の周りの知識コミュニティの知識に頼ってしまう。
• 私たちの意見は、洋服の流行と同じようなもので、自分が属する社会集団が着ているものを真似して身に纏っていると思った方がよい。
• また、それら社会集団の意見が進化したイデオロギーには近づかない方が良い。
• 自分の意見を述べるときは、考えなしに自分の周りの人々の物言いや表現を取り入れるのではなく、自分自身の言葉を見つけた方が良い。
39.心の引き算をしよう
• 心の引き算。今までの人生を振り返りながら、もし仮に片腕、両腕、視力がなかったら、と想像を巡らせる。そうすると今の人生はだいぶそれよりはマシだと思えるようになる。
• 抽象的に考えを巡らせるのではなく、その状況に入り込んでみることが大事。
• 自分の恵まれた状況に感謝するにおいても、「誰に」感謝すべきかがわからないこと、「慣れ」が感謝を難しくする。人生におけるポジティブな出来事の99%は、新しい出来事ではなく、ある程度長期にわたって続く一定の状態であるため、最初に感じた幸せは慣れによって消えてしまう。
• 起きた素晴らしい出来事についてただ考えるより、心の引き算の方が幸福度を上げる効果がある。まだ持っていないものについて考えるよりも、今持っているものを持てていなかった場合、どのくらい困っていたかについて考えた方がいい。
40.相手の立場になって考えよう
• 自分と対立する相手の立場になってものを考えることは、なかなかうまくいかない。相手をきちんと理解するためには、想像の中だけでなく、「本当に相手の立場に立つ」のが一番だ。
• 育児書などを読んで、子育ての苦労がわかっていたとしても、実際に子供を持って子育てをしてみて初めて育児の苦労に気がつく。
• 思考と行動は、両方とも世界を理解するためのアプローチ法ではあっても、根本的には全く異なる。実際に倫理学の講師が取る行動は、一般人の行動とそう変わるものではない。
• まずは、誰かの立場に身を置いて、その人の状況を体験すれば、相手に対する理解が深まる。それができないのであれば、できる限り小説を読んで、入り込んで経験することが大事。
41.自己憐憫に浸るのはやめよう
• 人生で災難が降りかかった時に「自己憐憫」に浸ったところで何もならない。それで何かが変わるわけではない。長く自己憐憫の渦の中で泳いでいても、深みにはまるだけ。
• 自己憐憫はここ数十年で驚異的な出世を果たした。自己憐憫には、
①数百年前の出来事を含め、自分自身を「過去の出来事の犠牲者」だと感じる人々による社会的な総括。被害者意識の歴史的な原因を解明する学問まである。
過去の不当な扱いは過去のこととして許容し、今でも残る課題を処理したり、それに耐えたりする方に力を注いだほうが前向き。
②個人的な総括。セラピストの前に座った患者が現在の状況の責任をなすりつけるにはうってつけの過去の出来事を見つける。
自分が抱える問題を他の人間のせいにし続けるのは、未熟な証拠。また、子供時代の不幸が必ずしも将来の成功や満足度には影響を与えないことが立証されている。
• 人生は完璧ではないことを受け入れ、自分だけではなく、他人の人生すらも同じく完璧ではないと認識する。過去に不幸だったからといって、今も不幸でいなければならないということはない。
42.世界の不公正さを受け入れよう
• 実際の世界はドラマの世界と異なり、かなり不公正である。世界の不公正さは、現実としてそのまま受け入れて、冷静に耐えた方が良い。
• 世界は、道徳とは全く無関係にできている。けれども私たちはその事実を事実としてなかなか受け入れられない。ただし、誤解してはいけないのは、世界が公正ではないからと言って、社会における不公正を放置してはいけないということ。
• 世界に公正さを保つためのシステムは存在しないのだから、自分自身の人生に集中すべき。自分の人生において阻害要因となる雑草に意識を集中させ、それらを取り除くことに尽力した方が良い。
• 不運や失敗は、冷静に落ち着いて受け止めよう。逆に、大きな成功や幸運についても、同じように落ち着いて受け止めること。
43.形だけ模倣するのはやめよう
• 太平洋戦争後の東南アジアの島々では、アメリカ軍を真似た「カーゴ信仰」が行われていた。当時のアメリカ軍のマネをすれば、大きな鳥(飛行機)が食料を持ってきてくれると信じていたから。
• 自分の格好だけヘミングウェイのマネをしても、上等な小説を書くことはできない。
• こうしたカーゴカルトは現代社会に浸透しきっており、例えばGoogleを真似してオフィスをリニューアルする企業などがその例。失敗例として有名なのは、公認会計士で、彼らは書類の形式が正しいかという表面に囚われ、リーマンブラザーズといった企業の財務リスクに全く気が付かなかった。
• 形だけを追い求めるようなカーゴカルトには拘らないほうが良い。意外に形式主義は自分たちが考えるよりずっと社会に蔓延しているため、気をつけた方が良い。良い人生にしたければ、形式主義をきちんと見抜き、人生から締め出すようにした方が良い。
• 成功している人の行動をただ模倣するのではなく、なぜその人が成功したのか、理由をきちんと理解すべきである。
44.専門分野を持とう
• 「〇〇オタク、〇〇バカ」と言われるように、特定分野の専門知識が尖った人を揶揄しがち。多くの人間は特定一部の専門知識だけではなく、広く一般知識を持ち得たいと思っている。
• こうしたジェネラリスト願望の起源は石器時代であり、当時の人間はなんでも自分1人でやらなければならなくなった。だが、人類が定住し人口が増えるようになってからは、それぞれの人間の役割が細分化され始めた。
• こうした背景があるため、現代社会の人間にとって、特定の知識しか持たない自分が、立場の弱い不完全な人間に思えて後ろめたさを感じてしまうのである。
• 多才さを良しとするのはそろそろやめた方が良い。もう1万年も前から職業上の成功を手にするにも社会の豊かさを実現するにも、専門性は欠かせなくなっている。
• 最近はグローバル化によって、市場が合体したことで「一人勝ち」現象が顕著になっている。また、職業の専門化がどんどん進み、さまざまな専門分野が存在している。
こうした中で必要な考え方は「他人のレース(専門分野)で勝とうとしないこと」である。
• 自分のレースを見つけて勝つためには、
①自身の専門分野と能力の輪を意識し、自分ができることの中で何に焦点を絞るかを考え続けること
②第一人者になるよう、専門分野をさらに深く追求すること
③仕事のチャンスを広げようと、できるだけたくさんの知識を詰め込もうとするのはやめること
45.軍拡競争に気をつけよう
• 若い人の多くは、輝かしいキャリアを築くには、大学を出なければならないと盲信する。だが、総体的にみて、大学を出るまでにかかる期間、大学に払う学費、それまでの教育費などを換算すると、大卒か高卒かで人生における所得はそう変わらない。
• 現状を維持するためには、周囲の変化に合わせて進化し続けなければ、生き残ることはできない。
(「鏡の国のアリス」における赤の女王がアリスに言った言葉「この国では、同じ場所に止まりたければ全力で走り続けなければなりません」、赤の女王仮説と言われる)
• 軍拡競争も同じで、他国より優位に立つために、自国の軍備もひたすら増強せざるを得ない、ということ。大局的に見れば、実は全く不毛な争いでしかない。
• ほぼ誰もが大学を出ているような状況では、大卒という学歴は今や目立たない。理想の仕事に就くためには、有名大学をでる必要があり、そのために教育も軍拡競争のように不毛な争いを続けるしか無くなる。
• ライバルとの競争の中にいると、自分が軍拡競争の中にいる、と気が付きにくい。そのため、自分が置かれている状況を見極め、意に反して軍拡競争の中にいると気がついてら身を引くべき。
• 軍拡競争に巻き込まれないためには、軍拡競争のない活動領域を見つけること。(例:書籍要約サービスを立ち上げた時にはどんな競合もいなかった、プロの演奏家を目指すならばピアノやバイオリンといった人口の多い楽器は避けるべき、等)
• 良い人生を手にしようと人々が競い合っている場所で、良い人生は見つからない。
46.組織に属さない人たちと交流を持とう
• スピノザは有名な哲学者だが、当時はユダヤ人共同体から破門され、誰とも交流を持つことができなくなっていた。
• 現代社会では、ほとんどの人間は1つもしくは幾つかの組織に所属している。しかし、中にはどんな組織にも属さない人間がおり、多くは変わり者だが、その中に変革を起こす人間がいる。
(例:アインシュタイン、ニュートン、サッチャー等)
• 組織に属さない人たちは、組織人よりも迅速に行動できるため、早く結果を出せることが多く、メリットを享受できる。ただし、どこにも属する組織を持たないと、社会から拒絶されてしまう。
• そのため、片方の足は社会の組織に固定しておくことが良い。ビルゲイツやスティーブ・ジョブズも、熱烈なテクノロジー愛好家と顕密なつながりを持っている。こうしたつながりが新しいアイデアを生む。
• ゴッホのような生き方をするのではなく、できるだけ多く、現代のゴッホたちと交流を持つこと。彼らの斬新な視点は自分自身に良い影響を与えてくれる。
47.期待を管理しよう
• 脳は常に何かを期待している、絶えず期待を生み出し続ける機械のようなもの。
• 脳は、「不定期に起こる出来事」に対しても期待しており、期待が幸福に決定的な影響を与えるのは、研究に裏打ちされた事実である。
• 期待への対処は「トリアージ」である。頭の中にある考えを、「しなければならないこと(必然)」、「したいこと(願望)」、「できればいいなと思うこと(期待)」に整理する。
①しなければならないこと
 「どうしても子供が欲しい」といった一見必然に見えることは、実は本当に「しなければならないこと」ではない。本当にしなければならないことは、生きるために必要不可欠なことである。願望を必然と取り違えている人は、気難しく、不機嫌な人間になってしまう。
②したいこと
 願望の実現を人生の至上目標にしてはいけない。願望は必ずしも叶うものではないと頭に入れること。世界には自分ではコントロールできないことが非常に多い。
③できればいいなと思うこと
 大きな失望を感じる時、その原因の多くは期待をきちんと管理できていないことにある。周囲の人が自分の期待に応えてくれる確率は、天気が期待に応えてくれる確率と同じくらい。
 一方で、広告は人の期待感を煽るように、私たちの期待は他人にいいように利用されてしまう。
• これから何かをしようとするときは、必ず、必然・願望・期待をはっきり区別すること。
そして期待を0から10の間で評価すること。0は悲劇的な出来事、10は一生かけた夢が叶うレベルで評価し、自分がつけた評価点から2点を差し引き、その数値を頭の中に入れておくこと。そうすることで、期待値は控えめに維持することができ、失望を避ける余地ができる。
48.本当に価値のあるものを見極めよう
• 本や映画、テレビといった娯楽だけでなく、学問においても、あらゆる分野の90%はクズである、というスタージョンの法則。世界に生み出されたものの90%には価値がない、ということを念頭に置いた方が人生の質は向上する。
(自分が考えたビジネスプランの出来が悪いと感じても、自分のビジネスセンスが問題なのではない。人が作るものは往々にしてそれくらいのものだ)
• 90%の価値のないものを排除するというより、無視することを心がける。原始人類にとっては、その時起こっていること全てが生きるために価値のあるものだったが、今はそうではない。
• スタージョンの法則を自分自身にも当てはめる。自分が考えていることの90%、感情の90%、願望の90%は全て馬鹿げたものであると自覚しよう。
• 世の中の多くのものがくだらないものだと考え、もしこれが価値あるものか確信が持てないときは、やはりそれもくだらないものだと思って良い。
49.自分を重要視しすぎないようにしよう
• 歴史上どんなに名を馳せた人物でも、4世代も過ぎれば覚えている人はほぼいなくなる。ましてや一般人であれば数十年経てば気にかける人はほぼいなくなるだろう。
• 自尊心とはどんな人間も祖先から受け継いでいるが、過敏にセットされすぎて人生を台無しにすることがある。「あまり褒めてもらえない」「見合った評価をもらえない」「招待を断られた」、といった、原始時代の人間が直面していたことに比べれば些細なことにも過敏に反応してしまう。
• 自分が重要な人間だ、という思い込みを避けるには、次世紀の視点から自分を眺めてみること。自分を重要視する度合いが低ければ低いほど、人生の質は上昇する。
• 自分を重要視するためには、「自分を発信し、その結果を受け取る」ために大きな労力を払うことになる。
• また、自尊心が高まるほど、「自己奉仕バイアス」に陥りやすくなる。この状態だと、何かの目標達成のための行動ではなく、自分をよく見せるための行動が増えるようになり、結果として判断ミスを犯しがちになる。
• さらに、こうした人物は他人を過小評価することで自尊心を保つため、敵を作ってしまいがちになる。
• 尊敬される人間になるために大切なのは、謙虚であり自分自身に正直に生きること。
50.世界を変えるという幻想を捨てよう
• 個々の人間が世界を変えられる、という思想は現世紀を象徴するイデオロギーの1つで、幻想である。
• 思い違いの1つ目は、フォーカシングイリュージョン。世界をより良くするためのプロジェクトにのめり込んでしまうと、その意義は実際よりずっと大きく見えてしまう。
• 2つ目は、「意図スタンス」と言われるもので、何か世界に大きな変化があったとき、必ずそれは誰かの存在が不可欠だったと思い込んでしまうものである。(例:ジョブズがいなければスマートフォンは隆盛を見なかった、等)
意図スタンスは、進化の過程の中で生まれたもので、原始時代の人間は茂みの中の音を何か動物の立てる音だと連結しなければならなかった。そのため、私たちは誰かの意図とは無関係に起きた出来事に対しても、誰かの意図やその出来事の背後にいる誰かの存在を感じてしまう。
• 世界の歴史に歴史を作った偉人などはいない。マルティンルターがいなくとも、いずれ宗教改革は行われていた。
• 歴史上の重要人物は、当時起こった出来事の登場人物の1人に過ぎないと考えるべきである。
51.自分の人生に集中しよう
• 鄧小平が行ったとされる中国への市場経済の導入は、実は鄧小平の政策ではなく、一般市民の自発的な動きだったと確認された。自発的な農民の試みが地域幹部の目に留まり、それを鄧小平が中国全体に広めた、ということである。
• エジソンやベルのような発明家も同じであり、高度な科学技術に関する大発見ですら個人の功績ではない。どんな偉大なCEOですら、基本的には取り替えのきく人材である。
• あなた自身が大きな成果を挙げたとしても、それはあなたでなければ得られなかったということはない。どんなに優秀でも世界全体の構造から見ればさして重要ではなく、取り替え可能な存在でしかない。
• 自分自身が重要な役割を担っているのは、自分自身の人生においてのみ。だからこそ自分の人生に集中した方が良い。与えられた役割を完璧にこなせるよう努力することは必要だが、その役割を全人類が期待していたといった思い込みは捨てた方がよい。
52.内なる成功を目指そう
• フォーブスなど、数多くの雑誌が成功者をランキング化しているが、それらにおける成功とはどういったものだろうか。現代社会は人々を物質的な成功に導こうとする。時間的なゆとりや満ち足りた人生のランキングは存在しない。
• 成功の定義は時代の産物である。例えば石器時代の成功者はより多くのタンパク質を持ち帰った猟師や多くの敵を倒した戦士であったように、時代によって成功の定義は変わり、これからも変わる。
• また、物質的な成功を手に入れられるかどうかは、100%偶然によって決まる。もちろん成功者は努力をしているが、それとともに運が必要。
• 内なる成功こそが真の成功。心の平穏や充実さが大切。内なる成功のためには、自分自身が影響を及ぼせることにだけ意識を集中させ、それ以外のことは意識から切り離すこと。外の世界ではなく、自分の内側に意識を集中させること。
• 実際に、外の世界の成功を全く気にしない境地に完全に到達できる人はまずいない。ただし、その境地に近づくために、1日の終わりに自分を批評する時間を持つこと。「どこかの部分を毒のある感情で台無しにしたことはないか」「コントロール外の出来事のうち、自分を動揺させたのは何か?」「その動揺から立ち直るのに、どの精神的な道具を使ったか?」といったことを振り返ること。
• 死ぬときに墓地で一番裕福な人生になることより、内なる成功に向けて努力して、心を充実させよう。その日その日を人生最高傑作の日にしよう。

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