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気候変動に対する其々の取り組み

米国の国内事情

COP26における米国の影響力はどうなるのだろうか?就任後、パリ協定復帰を宣言したバイデン政権は、気候変動担当大統領特使としてジョン・ケリー氏を任命した。ケリー氏は訪中などして「パリ協定」の履行に向けた活動を精力的に進めて来た。「中国の人権問題」と「気候変動」を天秤に掛けた交渉をしているという話も流れている。

現在、COP26を前に、バイデン大統領は、気候変動対策のための巨額歳出法案(約400兆円)の議会通過を急いでいる。この法案が成立しなければ、米国の温室効果ガス削減目標の実現が危ぶまれるからだ。

この歳出法案に反対しているのは、石炭産地出身の与党及び民主党議員であると言われている。全米屈指の石炭産地であるウェストバージニア州から選出された民主党上院議員などは、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を後押しする「グリーン革命」に消極的であるという。巨額歳出法案の温暖化対策についても、地元雇用を守る立場から反対していると報じられている。

この法案には、電力・ガス事業者らに対して、化石燃料から太陽光や風力などの再エネへの移行を促す優遇措置などが盛り込まれている。2030年に米国が掲げた温室効果ガス排出量を2005年比で50~52%削減する目標の達成には、こうした施策が不可欠だとされる。

本来、米国は石油やガスという化石燃料資源を保有する国である。特に新しいシェール採掘技術が確立されてからは、世界一の資源国となり、中東から石油を輸入しなくても良い状況になっている。そういう米国が、パリ協定が、「2050年までに脱炭素、ネットゼロ」を掲げたからといって、その目標を易々と受け入れるものだろうか?

パリ協定への復帰と「世界を主導する」と宣言したバイデン大統領、法案を成立させて具体策を打ち出すことが出来なければ、その宣言もフェイクとなってしまう。米政権はCOP26開幕までに何としても法案通過のめどをつけたい考えだが...

京都議定書、日本の苦い過去の記憶

米国が一度下した決定を覆す事はこれまでに何度かあった。よく知られているのが1997年12月に京都で開催された第3回締約国会議(COP3)である。

COP3の前に、米国の上院では、京都議定書調印に反対するバード=ヘーゲル決議(7/1997)を全会一致(95 対 0)で採択し、米国交渉団の交渉の余地を狭めた。しかし、クリントン政権時代の副大統領であったアル・ゴア氏が交渉の最終局面で急遽参加し、「京都会議を成功させるためには日本の目標引き上げが不可欠である」として日本に目標引き上げを強く迫った

その結果、日本は新たに森林吸収や京都メカニズムなどを盛り込んで、最終的に6%削減するという数値目標を作成し、それが日本を拘束する重しとなった。因みにEUや米国の目標は、1990年比、8%、7%削減であった。

日本に目標引き上げを迫った米国は、その後、クリントン政権は京都議定書の批准を上院に諮ることはなく、ブッシュ政権が誕生するとさっさと京都議定書から離脱してしまった。後に残された日本は国内削減だけではとても6%削減目標を達成できず、官民ともに大量の京都クレジットを購入することになり、海外に流れた国富は1兆円を超えると言われている。

中国の国内事情

中国のGHG排出量は、日本の排出量である年間約12万トンの9~10倍である。削減目標として、2030年にピークアウト、2060年にゼロエミッションを掲げている。即ち、これからかなりの期間、中国は大量のCO2を排出続けるということである。

習近平指導部は、「中国製造2025」 という産業政策を掲げている。次世代情報技術や新エネルギー車など10の重点分野と23の品目を設定し、製造業の高度化を目指すというものである。建国100年を迎える49年に「世界の製造強国の先頭グループ入り」を目指す長期戦略の根幹となる。

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「中国製造2025」を達成して、世界の製造強国の仲間入りをしようとしているが、そのためには、大量のエネルギーを必要とする。再エネだけでは力不足、化石燃料や原発などが必要であるため、必然的に大量のCO2が排出されると考えられる。ピークアウトの時期をかなり後置している理由は、この辺りの事情に依るのであろう。

こうした中国事情を考えると、日本が、年間5兆円以上の税金を数十年間投入して最大の努力をしても、世界に対する影響力はせいぜい2%程度、CO2や気温にもほとんど影響を与えることがない。中国が、ちょっと吹かしてしまえば、日本の努力など吹っ飛んでしまうため、費用対効果の最悪モデルとでも言えるものだ。

米国と今後の気候変動            

数年前に、米国の著名なPew Research Center米国の脅威について調査を行った。党派間で大きな食い違いを見せたのが気候変動(Global Climate Change)とロシア問題であり、気候変動を主要脅威とする割合は民主党が84%、それに対して、共和党は27%であった。次期大統領選では共和党が再び政権を取ると思われる。

気候変動に反対する共和党は、再度、パリ協定から離脱という可能性も高い。このままでは、COP3と同じように、日本だけが取り残され、数兆円の国富を海外に放出してしまうという事態が起きないとも限らない。

日本も、生真面目に取り組むのではなく、留保条件を付けて適当に対応していくのが次善の策かと思える。

日本の今後の取り組みについて

現在、気候変動の動きを受け、世界的に石炭のダイベストメント(石炭関連株式からの投資撤退)が進行している。

石炭火力発電からの脱却の加速化を目的に、英国政府及びカナダ政府の主導により、2017年に発足した国際的連盟であるPPCA(Powering Past Coal Alliance)などという組織がある。政策や投資を通じた石炭火力発電に頼らない事業の推進や発電の支援などに取り組もうとしている。

しかし、このPPCAは、世界の石炭火力の3.4%に過ぎない国々が構成する推進機構であり、石炭火力を重要な電源と捉えている途上国は含まれていない。PPCAの活動には横連携もあり、放置しておくと負の伝播を促す可能性もあるので見過せないものだ。こうした事が世界では起きている。

日本も、当初の構想の通り、石炭火力を重要な電源と捉えている途上国と連携して、日本の先進的な発電技術を普及させるという独自の取り組みを貫徹していくべきである。欧州といっても、現地で話を伺ったポーランドやブルガリアなどでは正直EU指令に困っていたので、決して一枚岩ではない。

日本も、色々な国の事情を見つめながら、欧州主導の動きに素直に従うべきではないのではなかろうか。


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