"クールビズるぼく"と"クールビズらない就活生"
クールビズの季節ですね。クールビズで思い出すのは、就活生時代のあの1日。
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大学4年生の5月中頃。夏の太陽がウォーミングアップを始めている間、ぼくはスーツ姿で企業をめぐりにめぐり、就活に勤しんでいた。
今日は、とある企業の先輩社員座談会。各部署の先輩社員に、就活生が質問をできるイベントだ。
案内メールの注意事項に、こう書いてあった。
「服装:クールビズ(ノーネクタイ・ノージャケット)でお越しください。」
優しい企業だ。猛暑の中、歩き回る就活生を配慮してくれている。
…いや、待てよ。信じていいのか?就活において、案内をうかつに飲み込んではいけないという謎ルールがある。
例えば
「服装:自由」
「訳:スーツに決まってんだろ」
みたいなことが往々にしてある。なぜ会場に行くまでライアーゲームを繰り広げなきゃいけないか、今思うと謎。このゲームの必勝法を教えてほしい。
その原則に則ると、今回もクールビズらない方がいいのでは?でも「クールビズ可」ではないよ?「クールビズでお越しください」だからね。もはや指示だからね。
こんなときはGoogle先生に聞こう。不安だったぼくは「就活 クールビズ 本当か」とキーボードを叩いた。「本当か」というワードに疑ぐり感が滲み出ている。
出てきたサイトたちは、大体クールビズを推奨していた。とあるサイトでは
「ここでジャケットを羽織っていくと、企業のご好意を疑っているとも捉えかねません」との記載が。
うんうん!そうだよね!これでジャケット着てったら「あなたの服装指定は嘘です!騙されませんからね!」って言ってるようなもんだよね!失礼しちゃうわ、全く!って話だものね!
胸を撫で下ろしたぼくは、意気揚々と着替えを始めた。胸を張ってYシャツ一丁、高校生スタイルで企業へ出陣。
その日は太陽が元気で、会場に着く頃には少し汗ばんでいた。「クールビズでよかったぁ〜。リラックスして座談会挑めるわ〜。」と企業のご好意に感謝しながら会場の中へ。
受付のお姉さんに待合室に案内され、扉に手を伸ばす。
…ガチャ。
視界に入ってきたのは
見渡す限りの黒。
20人近くの就活生が、姿勢良くジャケット姿でお出迎え。
おいいいいいいい。ふざけんなよおおおおお。
なんなん!なんなん!ホントになんなん!企業疑いすぎでしょ!あなたたち!!
(あいつ、マジでクールビズやん)という視線をギチギチと浴びながら、空いている席へ向かう。絶望という重りを足首につけたような、とぼとぼとした足取り。
しかし、奥の席に希望を見つけた。もう1人Yシャツ少年がいるではないか!
漆黒の集団に、もう1つ白がいる。オセロなら大逆転の一手である。それはもう、嬉しかった。人類自分以外滅亡したと思ったら、もう1人生き残りいたみたいな。
喜びのあまり、つい生存者に熱い視線を送る。そして、目があった。
(あなたも…私と同じ運命なのですね)という慈愛に満ちた表情をする彼。シンパシーというものがYシャツの袖まで駆けめぐる。
さらに見つめあう、白い少年たち。
ん?あれ?もしかして…?
2人は異変に気づく。そう、彼は高校の友人だったのだ!卒業以来会っていないので、実に3年ぶりの再会。クールビズの共鳴と再会の感動のダブルパンチを、Yシャツの胸ポケットで受け止める。
ただ待合室は静かで、お互いの距離は10メートルほどある。とりあえずジェスチャーで感動を共有しあう。2つの白い駒たちは、盤上でジェスチャーゲーム大会を開催していた。
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座談会が終わり、会場の外で彼に話しかけた。お互いの近況を報告したり、ジャケットを羽織ってきた就活生への文句をぶちまけた。ケラケラと笑う声が絶えない、それは楽しい帰り道だった。
シンパシーは限られた状況で、限られた人数だからこそ、輝きを放つものなんだろうな。そんなことに気づいた。
そのためだったら、クールビズらない就活生に、クールビズるぼくたちがまぎれこんだ経験も悪くない。そんな、夏の就活の思い出。
綺麗に終わらせようと思ったけど、やっぱ癪だ。
今後「クールビズでお越しください」って言葉は、「怒らないから、正直に言ってごらん」って言葉と同じくらい信用しないからな。
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