魅惑の「ダナエ」紹介 ティツィアーノ・レンブラント・クリムト

こんばんは、夜の美術史。です。

今日は、わたしのお気に入りである「ダナエ」をテーマにした3つの絵画を取り上げ、それぞれの異なるエロさについて紹介します。

1.そもそもダナエってだれ??

ダナエはギリシャ神話に登場する王女です。ダナエが登場する話について簡単に触れておくと…

「アルゴス」の王には、美しい娘ダナエがいました。ある日王は「娘が産んだ子どもによって、あんたは殺されるよ」という予言を聞き、ダナエに結婚を申しこむ男性を遠ざけるため、ダナエを幽閉します。そんな中、ギリシャ神話でおなじみ全能神ゼウスはダナエに惚れ込み、なんとかして閉じ込められているダナエに会う方法はないかと考えます。最終的にゼウスは金色の雨に変身し、ダナエが幽閉されている塔に侵入→ダナエと行為に及ぶという話です。

金色の雨に変身できるとか、さすが全能の神!笑
この主題は画家の間でとーっても人気で、多くの画家がダナエをテーマにした作品をつくっています。今回はわたしの独断と偏見で、特に有名なダナエ3作品を紹介します。まずは、後世の「ダナエ」に大きな影響を与えたこの作品から!

2.ティツィアーノの「ダナエ」

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制作 1553-54年
種類 油彩
寸法 129cm ×180cm
所蔵 プラド美術館

この絵を描いたティツィアーノは、このダナエ以外にも4作品(つまり計5作品)、ダナエをテーマにした絵画を残しています。今回はプラド美術館所蔵のダナエを見てみましょう。

その前に「そもそもティツィアーノってだれなん?」という方にむけて、簡単にティツィアーノのことを紹介すると、

ルネサンス期にイタリアのヴェネツィアで活躍した画家。あのミケランジェロと比較し、「フィレンツェのミケランジェロ」「ヴェネツィアのティツィアーノ」と呼ばれるほどの巨匠。ミケランジェロが素描(デッサン)を重視したのに対して、ヴェネツィア派のティツィアーノは色彩(カラー)を重視。

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↑自画像です。

日本でのティツィアーノの知名度は、ミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチと比べるとそこまで高くはありませんが、ルネサンス期を代表する超~有名画家です。ティツィアーノの絵をみると、髪の毛や肌の質感が本当に美しくて、知らない絵でも「これティツィアーノちゃう?」って思えてきます。金髪美女を描かせたらまじで世界一な気がする。ツヤ感?タッチ?ちょっと今のわたしには上手く言語化できなくて非常にもどかしいのですが…とにかく、きれい!笑

さて、そんなティツィアーノが描いた「ダナエ」の特徴を見てみましょう。

【特徴】
◎ゼウスは金色の雨ではなく「金色の硬貨」
ギリシャ神話では「ゼウスは金色の雨となった」と言われていますが、絵画をみてみると、ゼウスを雨ではなく、金貨として描く場合も多いです。

なんで金貨にしたんでしょうね?わたしは雨の方がロマンチックで好きです。金貨だと上から落ちてきたときに「チャリンチャリン」って、めっちゃ音鳴りそうやなって思うんですよ…むっちゃうるさそうやなって思うんですよ。

◎多様な登場人物
5つもダナエを描いたティツィアーノですが、ダナエ自体の描き方には大きな変化はありません。ただ、その周囲の人物などの表現が大きく異なります。キューピットがいたり、侍女(老婆)ががんばっていたり、犬が寝ていたり、お花がたくさん散らばっていたり…。今回取り上げているのは侍女がいる絵画です。わたし、この侍女大好き(笑)彼女は必死で、金貨になったゼウスをかき集めようとしています。この侍女は金貨がゼウスってことをわかってるのでしょうか?たぶんわかっていなくて、お金が欲しくて必死に集めているんでしょうね…。強欲だな!この侍女は美しいダナエと対照的に描かれていることでも有名です。肌の色をみてみると、色白なダナエと浅黒い侍女と、対照的なことが一目瞭然ですね。

夜の美術史。推しポイント
「ダナエの堕ちっぷり」
なんかもうすでにゼウスに堕とされてしまっているようなダナエ…官能的ですね。一方侍女は金貨を取るのに必死です。この対比がおもしろいです。

3.レンブラントの「ダナエ」

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制作  1636年
種類  油彩・キャンバス
寸法  185cm × 203cm
所蔵  エルミタージュ美術館(サンクトペテルブルク・ロシア)

次に紹介するのは、レンブラントのダナエです。レンブラントといえばバロックの巨匠で「夜警」で有名ですね、高校の世界史でも登場します。懐かしいよ~。そんなレンブラントが初めてヌードを描いたのが「ダナエ」だといわれています。ほんまこのダナエ、きれいすぎん?

【特徴】
◎きれいにつぶれるおっぱい
「いやーおっぱいってこんな感じでつぶれるよな~リアルやな~」って思いませんか?笑 小ぶりで、手のひらに収まりそうな、すばらしいおっぱいだ!この女性のモデルになったのはレンブラントの愛人であるとされています。レンブラントはおっぱいフェチやったんやろうかと思わずにいられない。そしてダナエのポーズ…きれい!

◎苦しむ右上のキューピット
このキューピットも謎が多いです。絵画に登場するキューピットの多くは、かわいらしく、愛らしく描かれているのに、この子はいったい何をそんなに苦しんでいるのか…。苦痛すぎて、お顔が歪んでいます。そしてよく見ると、キューピットの翼の一部がベッドと一体化しています…いやこわすぎひん?

◎ゼウスは金色の雨でも、金貨でもなく「金色の光」
レンブラントのダナエに出てくるゼウスは、雨でも硬貨でもなく、金色の光として描かれています。この表現もまたレンブラントのオリジナリティというか、ほかのダナエとは違う点です。ぼんやりと空間が光っていて、その先にはゼウスがいるのか、雨が降っているのか、その光自体がゼウスなのか…。いろいろと想像できますね。こっちの侍女は、じいっとゼウスを見ています、ティツィアーノの強欲な侍女とは違いますね(笑)

◎美しすぎて、硫酸をかけられナイフで切られる
この絵画は、とある事件に巻き込まれたことで、より一層有名になります。

1985年エルミタージュ美術館をひとりの青年が訪れます。彼は職員に「どの絵がいちばん価値があるか」と尋ね、職員が「ダナエかな?」と答えると、ダナエに硫酸をかけ、ナイフで切りつけました。のちの取り調べで青年は「ダナエに誘惑されたからやった」と犯行動機について述べたようです。

絵画は一瞬で失われますね…。その後エルミタージュ美術館のスタッフによって必死に修復作業が行われましたが、ゼウスの「金色の光」などを完全に復元することは困難で、原画の美しさはもう戻らないとのこと…残念すぎる。

夜の美術史。推しポイント
「右手に込められた感情は…なんだ?」
レンブラント以外のダナエは、ゼウスにされるがまま、拒みもせず喜びもせず、ただ恍惚と迎え入れるのに対して、このダナエは、右手をゼウスのほうに向け、なにか意思を示しています。この右手はゼウスを拒んでいるようにも見えますし、逆にゼウスに対して「やっと来てくれたの?待ってたのよ」というように語りかけ、ゼウスをつかみ取るような?表現にも見えます。どっちなんや…ダナエよ…。この右手がとっても官能的でうっとりしますね。

絵画を観るうえで手に注目する人も多いかもしれません。手は口ほどにものをいうとか言いますもんね。言わんか、それは目やな。ただほんとに手って官能的です。エッチな手を紹介するnoteとか書いてみようかな。次のダナエも手の表現が議論を生んだ作品であります。

4.グスタフ・クリムトの「ダナエ」

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制作  1907-08年
種類 油彩・キャンバス
寸法 77cm × 83cm
所蔵 個人蔵(ウィーンのギャラリー・ヴュルトレ)   

この絵は、前回の投稿「はじめましてのごあいさつ」でも紹介したお気に入りの絵画です。もう少しちゃんと紹介しますね。

【特徴】
◎ゼウスがダナエの中に入りこむ「瞬間」をとらえている
今回紹介したほかの2つの作品が、「ダナエのもとにゼウスがやってきたシーン」を描いている一方、このクリムトのダナエは、もうまさに!今!交わっています!って感じです。ダナエの表情がなんとも言えない感じでエロチック。でもいやらしくないというか、絶妙なうっとり具合です。

◎よく見ると太すぎる太もも
明らかにダナエの太ももは太すぎますよね。さらに、この太ももはなめらかで柔らかい太ももというわけでもなく、ごつごつしてて、セルライトたっぷりやんみたいな、なんとも言えない太ももです。でも、なんかセクシー…(笑)クリムトの絵ってほんとなんていうか…きれいではないのにきれいだと思います。伝わるかな…。

◎金貨ではなく金色の雨?というか金色の…精子?
今まさにダナエに侵入しているゼウスですが、パッと見ると雨のようにも見えますが、よーく見ると長方形や円が描かれていて、雨?にも見えなくもないけど、もはや精子をそのまま描いてるようにも見えます。独特なゼウスの表現です。

◎構図・ポーズともにかつてない表現
寝室でダナエが寝ているところに、ゼウスがやってくるという描写が多い中、クリムトのダナエは、めちゃくちゃせまいところに幽閉されています笑。ほとんど正方形のキャンバスに、画角いっぱいにダナエがつまっています。ひとりだけせますぎやろ…。一番「幽閉」されている感が強いかもしれませんね。ほかのダナエは大きなベッドで優雅に寝ていますから。

夜の美術史。推しポイント
「ダナエの左手はどこへ?」
先に言ってしまうと、このダナエ、実は自慰行為の最中ではないかという研究もあるみたいです。理由は左手が明らかにオナニーしてる人の手の位置だろってことみたいですけど…どうなんやろ。真相はさておき、確かにこの左手はどこを触っているのか非常に気になりますよね。この左手が何しているのか隠すために太ももを太く描いたという説まであります。いやーどこ触ってるんや…笑

どうでしたか?どのダナエもとってもセクシーでしたね!
同じ「ダナエ」というテーマであっても時代や地域、画家によって特徴が異なっていました。画家は作品を制作する際、もちろん自分自身で考えて創作しますが、それまでに作られた同じ題材の作品や、ほかの画家の作品を研究したうえで作品を作ります。最初に紹介したティツィアーノのダナエは、後世の作品にも大きな影響を与えたことで有名で、実際あのミケランジェロもティツィアーノの工房に行って「ダナエ」をみたといわれています。そうやって絵画をみていくと、絵画はその作品ひとつで存在するのではなく、お互いに干渉しあって誕生するといっても過言ではありません。そんな絵画の「流れ」を知ると、美術鑑賞がより楽しくなっていきますよ。

ではまた次の記事で。

夜の美術史。

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