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雨の日に君を待つ

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神隠しされた男子高校生と神様の話。 #文披31題 参加作品。
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記事一覧

小説|雨の日に君を待つ DAY8

小説|雨の日に君を待つ DAY8

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 久し振りに晴れた日がやってきた。ようやく梅雨が明けたらしい。
 これから徐々に気温が上がり猛暑が続くと思うとぐったりするが、今は素直に晴れた事を喜ぼう。
 今日は珍しく両親も幼馴染も仕事で不在である。家を出ないでほしい、とは言われたが今日ばかりは「ノー」と答えた。いい加減ずっと部屋に篭るのも、誰かに監視されながら出歩くのも堅苦しくてしょうがなかったのだ。

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小説|雨の日に君を待つ DAY7

小説|雨の日に君を待つ DAY7

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せっかくの七夕だというのに、外はどんより雲がかかっている。
 織姫と彦星が一年に一度しか会えない日だと言うのに、天気を司る神様は意地悪だ。何かで七夕の夜に降る雨は、再会が叶わなかった織姫の涙だと聞いたことがある。地上に溢れるほど泣いているんだろうか。
 そういえば、神を自称している男ーー雨水は水を司る神だと言っていた気がする。雨とか、川とかそういうやつだ

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小説|雨の日に君を待つ DAY6

小説|雨の日に君を待つ DAY6

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 十年経つと携帯電話も驚くほど進化しているらしい。
 当時は最新機種だった愛用の折り畳み式携帯電話も、十年経てば過去の物。ケータイと呼んで親しんだあの時とは違い、ガラケーと呼ばれるようになっていた。ガラパゴスケータイって聞いた時は、動物の楽園の島しか浮かばなかった。
 そのガラケーは、つい最近サービスが終了したらしい。一部は使えるらしいが、俺の機種は対象

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小説|雨の日に君を待つ DAY5

小説|雨の日に君を待つ DAY5

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「蛍を見に行かないか?」
 自称神様はよほど暇らしい。
 神隠しから目が覚めてからというもの、四六時中俺の周りにひっついている。時々、あそこに行こう、ここに行こう、とテレビを見たり雑誌を読んでは提案してくる。
「行かない」
「なんだ、つれないじゃないか」
 昼間、コンビニや近所に散歩へ行く程度なら文句は言いつつも頷いただろう。俺だって外に出たいから。でも、

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小説|雨の日に君を待つ DAY4

小説|雨の日に君を待つ DAY4

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 いよいよ退院の日がやってきた。
 入院してからあまり長い時間をかけずに退院できたのは、少しホッとしている。いつまでも病室にいるわけにはいかない。
 そもそも十年神隠しに遭っていた事を除けば、片目しか見えない人間のリハビリに何ヶ月もかけるわけにもいかないだろう。神隠しに遭っていたとはいえ、本人の体感は数時間程度だ。正直、道に迷って目が覚めたら十年経っている

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小説|雨の日に君を待つ DAY3

小説|雨の日に君を待つ DAY3

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 子供の頃、文鳥を飼っていた。名前は「アル」とつけて可愛がっていた。
 もうずっと幼い時だ。神隠しで十年経っていると、高校生の見た目でも子供の頃と懐かしむにはどう計算していいのかわからない。ただ言えるのは、俺が小学生だった頃の話だという事。
 弟のように可愛がって、ある日寿命でパタリと動かなくなってしまった。それが初めて知った生き物と家族の死だった。夜通し

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小説|雨の日に君を待つ DAY2

小説|雨の日に君を待つ DAY2

 目が覚めたら自分が覚えている記憶から十年経っていました。って言われて信じれると思うか。
 普通は信じられないし、受け入れ難いだろ。俺もそう思う。
 でも、母さんは十年も俺が行方不明ということもあって、心労なのか一気にシワや白髪が増えてしまった。見覚えのない男だと思ったら、幼馴染の佐伯信飛古だと言う。俺が知らないだけで十年の流れで成人もしてるのは当たり前だし、三十路手前なのも信じられない。しかも、

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小説|雨の日に君を待つ DAY1

小説|雨の日に君を待つ DAY1

 ずっと歩き続けているような気がする。
 高校生にもなって迷子というのはかなり恥ずかしい。携帯電話は圏外で誰にも連絡がとれないし、友達や家族の名前を呼んでも返事はしない。 
 村の収穫祭に友達と来ていた。屋台が色々と出ているので、各々見たい屋台に行っては合流して、というのを繰り返していた。俺も面白そうな屋台を見つけたのでふらりと友達の輪から外れて、振り返ってアイツらを呼ぼうと思ったら誰もいなかった

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