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変態的偏愛note

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また読みたくなっちゃう偏愛note
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退屈日記2020.12.05

中学生の頃、水泳部だった。中学は荒れていて、おれはリーゼントにボンタンのザ・ヤンキーではなかったものの、授業をさぼって屋上でタバコをふかしながらトランジスタラジオを聴くくらいの不良ではあった。だが、部活はまじめにやっていた。ザ・ヤンキーは専業の不良だったが、おれのような中途半端な不良は、不良活動をしつつ、部活動や勉強もそこそこ兼業していたのである。

温水プールではなかったので、水泳部は夏だけの部

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Dope日記2020.10.03

今日、こんなツイートをした。

知恵というのは、情報ではない。身体だ。知恵者というのは、情報処理力の高い者のことではなく、その身体にいつもドープなビートを響かせている者のことだ。彼や彼女の傍に寄るだけで、自分のなかのリズムが同期し始める。
悩んでいたことが、その共振するグルーヴへと自ずと解けていく。

ドープってのは、ヒップホップ界隈から発生してきたスラングで、「バカな」「愚かな」とネガティブな意

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イギ あとがき

イギ あとがき

 悪戯、クリエーション、…ラブレターでもあったと思う。悪戯だと思えば必ず気づいて反応して欲しいと思え、クリエーションだと思えば本人の目は関係ないのだと思え、ラブレターだと思えば届かないと決めつけるのがしっくりときた。
 書こうとすれば多くのことをつぶさに思い出せるのかと、ちょっとした好奇心で記憶の藪に分け入ってみた。まさかまさかと思いながら足取りに注意して、風景を追いかけた。思った以上にこまやかに

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何かに憧れずには生きていけないのかもしれない

何かに憧れずには生きていけないのかもしれない

チャイムの音で目覚める。なんだか胃が重くて、深夜にノリでカップラーメンを食べたことを思い出す。よろよろと扉をあけ、荷物を受け取る。ランコムのファンデーションだった。連休初頭、実家で夜な夜なインターネットで調べて注文したやつだ。母親に「早寝するほうがよっぽど美容にいいけどね」などと言われたが無視した。そりゃそうだけど、そういう問題じゃない。夜更かしして高価な化粧品をポチりたいときもあれば、カップラー

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まだ余生に達していない

まだ余生に達していない

昨日は土用の丑の日だったようだ。鰻はけっきょく食べなかった。アルバイト中に「お昼ごはんに何を食べた?」と聞かれたのでホットケーキ、と答えた。マヨネーズとバニラエッセンスが入った、カステラみたいに膨れたホットケーキ。

鰻、で思い出すお気に入りの短編小説を読み返した。江國香織の「清水夫妻」という小説だ。知らない人のお葬式に参列するのが趣味の清水夫妻は、参列後きまって鰻を食べる。遺産生活者の彼らには、

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日記 薄紅のまどろみ

日記 薄紅のまどろみ

「君といるとぐっすり眠れるよ」
初めて付き合った男の子、初めて寝た男、好きな人、あとは誰に言われただろうか。
自分と寝ていない時の彼らを知る術はないから本当か嘘かは分からない。そういった類の睦言なのかもしれないけれど、自分よりはやく眠りに落ちていく男の顔はいつも幸せそうで、そのまま死んでしまいそうで、ずるいと思う。

映画「イエスタデイ」を好きな人と観た。ビートルズが存在しない世界で唯一そのバンド

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タコ・カエル・ひとりの休日

タコ・カエル・ひとりの休日

「久しぶりだねいつ以来?」
ううん、今年の2月くらいじゃないかな?
「確認してみる…いや去年の10月だよ。」
え、そんなに。びっくり。時間の感覚がまるで狂ってる。
「二人目生まれたんだよ。目がおっきくて、イケメンでさ、我が子なのに見つめられると照れるんだよ…」

………
カフェに入って本を開いた。
一番後ろに指を差し込み、あとこれだけ…と残りページを指で測る。
ああ、まだこんなに。無理だよこんな。

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プラスチック・ラブ

プラスチック・ラブ

マイクロプラスチック問題によりストローはほとんどの店で撤去され、レジ袋は有料化が進んでいる。便利なものが安易に使えない世界になってしまった。環境問題や政治的意図に関して述べることはめんどくさい以外ないのだけれど、ストローに関しては少し悲しいなって。

むかし好きだったおんな。それはマクドナルドが本当に安くて学生の溜まり場になっていた頃のはなし。今ほどコーヒーが"映え"ない頃、私たちにとって恋人と会

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5月28日の日記『デバイスで拡張』

5月28日の日記『デバイスで拡張』

 吊るした二個の電球の周りを、羽音をジリジリいわせて虫が旋回していた。ダッツの新しいフレーバー「ベリーベリーミルク」のビニルを開けた直後で、自宅に持ち帰るまでに少しやわらかくなったそれを歯ではなく唇で食む。カシスのように赤いのでカシスと思ったが、説明書にはブルーベリーがメインと書いてあった。しかしブルーベリーにも種類があるのだ、青いもの、赤いもの、真球のもの、扁平なもの、甘いもの、酸っぱいもの。ベ

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2020.3.27  毒と皿

2020.3.27  毒と皿

毒も食らわば皿までよと聞けば、毒も皿もおいしそうですねと思う。毒を盛られてもまず気づかないし、仮に気づいてもおいしければそりゃあ皿まで完食するだろう。私の皿にはおいしい毒、おいしい悪事をじゃんじゃん盛りつけてほしい。そもそも、毒と皿って字が並ぶとなんだかご馳走感がありませんか?「ドクトサラ」、きっとチラキレスの仲間に違いない。

          

もうすぐ好きな人と自分の間にある社会的な繋が

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フロム・オキナワ

フロム・オキナワ

去年の夏のはなしだ。
もうすぐお盆休みに入ろうというころのある日、仕事をおえて携帯をみると、しらない番号からの着信履歴があった。
なんだろう。まちがい電話かな、と思って放っておいたのだけれど、翌日もおなじ番号から着信履歴があって、さらにその翌々日には留守番電話も入っていた。もしかして、わたしが登録していない親戚とか、友達かもしれないな。と思って、留守番電話を聞いてみることにした。

あたらしいメ

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サマー・オブ・ラブ

サマー・オブ・ラブ

あっちぃー!と叫びながら小学生たちがプール道具のはいった袋をふりまわして駆けてゆく。夏だね。

近所のスポーツジムでは毎週土曜の朝がスイミングスクールのレッスン日と決まっているらしい。ジムの前を通り過ぎるとき、自動ドアの向こうからうっすらと漂ってくる塩素の匂いがすきだ。

もてあますような長期の休みなんてないくせに、夏になったらあれをしたいとかこれをしたいとか考えてしまう。そのくせ、夏はすぐ体調を

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恋人

恋人

「こっち向いて」
振り向くと彼がiPhoneを構えていた。「もう少し左に」と小さな紫の花に近寄るように言われる。こんなにたくさん大きな薔薇が咲いているというのに。彼はいつだってこういう地味な花を選ぶ。

撮ってもらった写真を覗くと完全に逆光だった。私の顔は影になってほとんど輪郭しか分からないし、花の色も実際に見た色と全然違う。なんでよ、逆光じゃん。そう文句を言うと、いいんだよ、と彼は言う。

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