「虎に翼」6月14日時点感想書き捨て

 「虎に翼」の感想もnoteに書きたいなと思いつつ、話は猛スピードで進んでいくし、1話1話の情報量は多すぎるしで、なかなか書けないでいました。ちゃんとしたもの書こうというこだわりを捨て、たまたま時間が空いて思いついたことを書き殴ったものを、ここに転記します。続くかどうかは不明です。以下ご笑覧下さい。

1) はじまり

 最初は意識的に期待しないようにしていた。期待したら裏切られるから。それほどまでに日本の司法ドラマに対する警戒と嫌悪が強い。でも根っこでは日本にもウ・ヨンウのようなドラマが登場して欲しいと思ってる。だからこそ心を閉ざしてた。妻から「今度は日本初女性弁護士のドラマらしいで」言われても「ふーん」。「主役はアンタの好きな伊藤沙莉やで」言われても「あっ、そう」。
 しかも朝ドラはその出来に落差がある。「らんまん」「ブギウギ」と良作が2本続いてからの司法ドラマ。3回続けてはないやろうと自分に言い聞かせてた。
 でまあ、いちおう見よかと第1話。日本国憲法バーン、伊藤沙莉が河原で泣いてて、尾野真千子のナレーションが14条をゆっくり読み上げる。俺はそう簡単に心を許さないぞと50のオッサンが思春期の少年のように頑なになってたのに、もういきなり大混乱。

2) 序盤

 監修がしっかりしてそうてのは序盤から感じる。で例の物品請求事件が出てきて小道具もしっかりしてるし、SNSの投稿によると宇奈月温泉事件よりも古い裁判例らしいことも分かった。おっ何か違うな、とは気付いてるけどまだ「日本のドラマにしてはしっかりしてるやんか」とやや上から目線。
 そこに毒饅頭事件。またもやSNSで実際の事件モチーフであることを知るけど、翌日にそのデフォルメすらあるある女性蔑視、いわゆる「女性活躍」的なものを描くためのストーリーだったことが分かってもう降参ですよ。弁護士だ斉天大聖だとイキッてたけど所詮わたしめはサルにございます、お釈迦様の手のひらの上から出られないこと十分承知しましたってなもんで、そこからはもうこの脚本と演出に身を委ねるだけ。
 伏線を分かりやすく、しかも大量に示してくれてるから、こちらはどうしてもそれにいちいち反応してその後の展開を予測してしまう。けどそのどれも微妙に外してくる。例えば第1話の憲法14条。佐藤倫子さんが第1話を初めて見た瞬間にあそこで泣いたって言ってたけど、弁護士なら誰でも寅子が知人友人のことを思って泣いてる場面だと予測つきますよね。ところが梅子、涼子、よね、ヒャンスクに加えて優三まであそこに乗っかってくるなんて、そのときが来るまで露とも思わない。毎回ちょっとだけ期待に応えて、バチッと予測を超えてくる、これがクセになる。
 最初に寅子に手を差し伸べ、道を示した穂高が戦前編の最後に寅子のトドメを刺しに来るなんて誰が思いつきますか。しかも戦後に反省して現れるどころか、寅子に再度同じことやるけど今度はそれが「はて?」復活、寅子完全復活の契機になる。神保教授との対決で「ここには佐田くん以外の女性はいないじゃないか」と言わせて「やっぱり穂高先生カッコイイ」と思わせておいて、次のシーンで「家庭教師の口を見つけておいたから」、思いっきり上げておいてどーんと落とすジェットコースター。
 毎回ルートの分からない、けど安全性だけは確保されてるジェットコースターに乗せられる。

3) 安全性

 誰かが安心感があると投稿してた。まさにその通り。司法ドラマ特有の不正確な描写がない。ジェンダー観でおかしな描写もない。戦争の描き方でも同じ。日本の映画ドラマはたいていこの3つのどれかで引っかかる。そういう不安を感じないで安心してみていられる、エンターテイメントを心置きなく楽しめる、そういう心理的安全性が確保されてる。

4) トレーニング機能

 穂高の「家庭教師の口見つけておいたから」のシーン、関西人のみならず日本中の人がテレビの前で「何でやねーん!」と手が動いたはず。けど、現実社会ではああいう目に遭うと「スンっ」ってなってしまいますよね。その場で声に出して「はてっ?」と言うことはすごく難しい。疑問を持つことも簡単ではないけど、行動に移すことの難易度は格段に高い。けどテレビの前では安心して口に出せる。感想を言い合うことで、その体験をみんなで共有することもできる。
 本作の視聴は、一種のトレーニング、”「スンッ」克服「はて?」養成トレーニング”なんじゃなかろうか?

5) 民法改正編

 民法改正編で示されるのは、基本的人権の本当の意味。「互いに尊重する」なんてものが人権ではないということを芝居と映像で証明する。人権の第1の意味と機能は、法律を制限すること。法律を作らせないことと作らせること、こういう法律は作っちゃダメ、こういう法律を作りなさいと国会議員をはじめとする立法者たちへの命令規範、それが基本的人権。日本国憲法の中でその機能を最もわかりやすく体現してるのが24条だと、本作を見始めて僕は初めて気付いた。ベアテ・シロタ・ゴードンさんの本は今まで何度も何度も読んでいたけど、ベアテさんが意図していたことはこれだったのかと今回やっと分かった気がする。
 基本的人権は立法者への命令なんだ、法律への制限なんだということをものすごく意識して脚本を書かれている。日本では学校で人権をちゃんと習わないから、人権の意味も分かってないし、憲法を法律の一種だと思っている人すらいる。吉田さんがそこに挑もうとしていることは戦前編の台詞ひとつひとつにも現れていたけど、民法改正編で誰の目にも分かるようにエンターテイメントの手法を使って示してくれた。大学編で14条の映像化をやってのけたことと並んで、これは日本憲政史上の快挙だと思う。

6)デスロード

 ↑このインタビューで、脚本の吉田恵里香さんが「マッドマックス怒りのデスロード」に言及されている。ここでは明示されていないけど、吉田さんはシスターフッドは分断されてはならないということを本作でも描くのではないかと想像している。
 戦前の寅子は仲間たちとバラバラに分断されて潰されてしまった。戦後に出会う代議士女性たちとも、戦前は出会う機会に恵まれなかった。他方、デスロードではフュリオサは鉄馬の女たちと合流することで十分な戦闘力を得てマックスやワイブズたちと分断を乗り越えて勝利する。
 「虎に翼」戦前編と「デスロード」はコントラストになっているのではないか、戦後編では「デスロード」オマージュの展開になるのではないか。仮にその予想が当たったとしても、もちろん僕なんかの想像が及ぶ方法ではないだろうけど。

7)本日時点小括のようなもの

 毎日放送終了後に現れる「わたしの翼」投稿写真、可愛いものが多い。
 それとはまた別の「わたしの翼」的なものが、SNS上に出てきている。例えば、おぐにあやこさんのこちらの投稿。

 本作を見ている人たちが投稿する各自の「はて?」体験、「スンッ」体験、シスターフッド・ブラザーフッドによってそれを乗り越えた虎つば体験を集積していけば、これはものすごい集合知になるのではなかろうか。

以上


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?