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ノーベル賞から学ぶ、幸運な偶然を引き寄せる能力「セレンディピティ」とは?

毎年、大きな話題となるノーベル賞。

今年のノーベル生理学・医学賞に決まったのはmRNAワクチンの基礎技術を開発したカタリン・カリコ氏とドリュー・ワイスマン氏です。

カタリン・カリコ氏は今回の受賞業績につながったできごととして、1997年にペンシルベニア大学のコピー機の前でドリュー・ワイスマン氏と出会ったエピソードを紹介しました。

大学内のコピー機を使うために並んだ列でたまたま話し、お互いの担当分野を組み合わせた研究ができると気づいたのだとか。

世界で最も有名な賞であるノーベル賞、それも人類を感染症から救うワクチン開発の土台となった研究のきっかけが「コピー機の前の出会い」だと知り、すごくワクワクしました。

これはまさに対面の「セレンディピティ」です。

セレンディピティとは、「思いもよらなかった偶然がもたらす幸運」や「幸運な偶然を引き寄せる能力」という意味で使われる言葉。

セレンディピティは科学の分野にかぎらず、ビジネスシーンでもアイデアやイノベーションをもたらすものとして注目されています。

セレンディピティを理解するためにまず、語源となった『セレンディップの3人の王子たち』というおとぎ話から説明しましょう。


セレンディピティの語源

それはこんなお話です。

旅に出た三人の王子は、ラクダに逃げられたラクダ引きと出会う。 ラクダを見なかったかと尋ねられ、三人はラクダの通った足跡しか見なかったのにもかかわらず、実際にラクダを見たと返答する。
「そいつは片目のラクダだろ?」と第一の王子。「そのラクダは歯が一本抜けてるね?」と第二の王子。「それに、片足を引きずっているよね?」と第三の王子。
彼らはラクダを実際に見てはいないのに全て当たっていた。王子たちは「道端の草が左側だけ食べられていたので、ラクダの右目は見えないとわかりました」「草のかみ跡で、ラクダの歯が抜けていたのがわかりました」「片側の足を引きずったような跡がありました」 と言った。

セレンディピティマネジメントのすすめ

物語のポイントは後半にあります。王子たちは逃げたラクダを実際には見ていないのに、その痕跡を観察し、自分の知識と照らし合わせ、分析して答えを導いたのです。

このことに感銘を受けたイギリスの貴族が、偶然や機知がもたらす予期せぬ発見を「セレンディピティ」と名づけたそう。それが転じて、偉大な発見や革新的なイノベーションとなる幸運な偶然を引き寄せる力として盛んに語られるようになりました。

幸運な偶然を引き寄せるには「準備」がいる

ちょうどノーベル生理学・医学賞が発表される前日、10月2日の日経新聞のコラム「春秋」でセレンディピティが取り上げられていました。ノーベル賞受賞者の多くは受賞理由を聞かれて「幸運だった」と口にするそうですが、これはつまりセレンディピティであるという内容です。

「なんだ、結局は運次第か」と早合点するなかれ。コラムでは細菌学の父と言われるパスツールの言葉が引用されていました。曰く、

「幸運は用意された心のみに宿る」

これは、幸運を得られるのはそれ相応の用意をした者だけだ、ということです。

用意は「準備」と言い換えるとわかりやすくなります。研究者であれば、自分の信じる研究結果のために失敗を繰り返しながら長い歳月を費やす。そんな「終わりのない準備」をし続けられる人だけが、偉大な発見にたどり着くというわけです。

野球で言えば、大谷選手。メジャーリーグで今季ホームラン王になった彼がフィジカルトレーニングや食事管理などの「終わりのない準備」を徹底していたことは有名です。だからこそ、ケガという不運に見舞われても頂点に立てたのではないでしょうか。

セレンディピティのエピソードが印象的なのはなぜか

みなさんはよく、成功者のインタビューでお風呂でパッと思いついたとか散歩していたら降りてきたというエピソードを聞きませんか? 「リンゴが落ちるのを見て万有引力を発見した」みたいなやつです。これらは事実ではありますが、YouTubeで言う「ショート動画」や「切り抜き」だと考えたほうがいいです。

どういうことか、ビジネス書の世界的なベストセラー『アイデアのつくり方』に書かれている「アイデアを生み出すためのプロセス」を使って解説してみます。

この本によれば、すべてのアイデアやひらめきは以下のプロセスを必ず踏んでいます。

4のエピソードが切り抜かれて広まり有名になる

ノーベル賞に決まったカリコ氏とワイスマン氏のエピソードで言えば、それまでお互いの道で研究を続け1〜3にあたる「準備」をしっかりしていたから、コピー機の前で偶然出会って話したことが4として開花したのです。ここだけが切り抜かれると偶然に見えますが、じつは「準備ができていた」から引き寄せられた必然的な結果なのです。

タイパはセレンディピティの敵

タイパに価値が置かれる今、じっくり時間をかけることは無駄だと切り捨てられがちです。もちろんコスパは大事。でもコスパやタイパを重視するあまり最低限の「準備」だけこなしても、セレンディピティは生まれません。

いろいろな(時にはばかげた・突拍子もない)「準備」をしてきた人がたくさん集まる場のほうが、幸運な偶然つまりセレンディピティを起こせる確率は高くなります。

おすすめなのは、これで充分と思ったその少し先まで「準備」を広げてみることです。途中で疲れたら映画やドラマを見たり、本を読んだり、同僚と話したりするのもいい。タイパの誘惑に逆らって、「準備」を広く厚く深くすることが、画期的なアイデアや世界を変えるイノベーションを生むセレンディピティにつながるはずです。


文:シノ

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