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ジェンダーの問題に「気づき」を促す広告たち

3月8日は「国際女性デー」でした。国際女性デーとは、1904年のニューヨークで女性労働者が婦人参政権を求めて起こしたデモが起源となり、1975年に国連によって「International Women’s Day(国際女性デー)」として制定された日のこと。これまでの歴史の中で、多くの女性たちの行動によって男女の不平等が是正されてきました。国際女性デーではその勇気と成果を称え、今なお女性が置かれている不公平な現状を問い直そうと世界各地でさまざまなイベントが行われています。

その日、朝日新聞の題字は国際女性デーの象徴であるミモザの花であしらわれました。

一面トップの見出しが衝撃的です…。

政治、経済、文化、社会など各面で「Think Gender」というコーナーが設けられ、日本が抱える男女格差やジェンダーの問題について記事が掲載されていて読み応えがありました。

コピーライターとして気になるのが、広告。今回は朝日新聞に掲載された4つをピックアップしてみます。


1、男女を逆転させて「割合の偏り」を問う広告

まず目に飛び込んできたのが朝日新聞の広告。「その偏りは、適材適所?」と疑問を投げかけるキャッチコピー。閣僚75%、最高裁判所裁判官80%、上場企業役員89%という数字と、女性ばかりのイラストが印象的です。

男女の比率を逆転させてみた広告

実はこの数字、現実では男性の割合なんですね。広告を制作したarca CEO・クリエイティブディレクターの辻愛沙子さんは、この男女比入れ替え企画にこめた思いをポストしています。

政治、司法、経済という国を形作る主要分野すべてで代表者の70%以上が女性だとしたら、あなたはどう感じますか? 「多すぎるのでは」「偏っているのでは」と思うかもしれません。

ではなぜ、今、現実に男性がその高い割合を占めていても不自然に感じないのか。わたしたちが見慣れている光景にひそむ格差の問題を、男女を逆転させることで浮かび上がらせています。

キャッチコピーの「適材適所」については、新聞でニュースを追っている人はあれか!とピンとくる表現。コピーライティングに社会への鋭いまなざしが光ります。


2、実際にある「男女差」のデータを読み解く広告

次は、男女で差があるデータに注目した芝浦工業大学の広告。例えば、「AIが社員を採用すると男性を優先する」。この日のニュースにもなっていた「交通事故時、女性の重症リスクは1.5倍高い」など。

#(ハッシュタグ)を使った
キャッチコピーが目を引きます

一見、ただのデータに思えますが、明らかに男女差があり、しかも女性のほうが不利になったり、被害が大きくなったりしてしまう。これは「自動車は男性が運転するもの」「エンジニアは男性の仕事」といった無意識の偏見がシステムや設計のプロセスに組み込まれてきたからではないか、とボディコピーで問いかけています。

「男性トイレにおむつ替えスペースがほとんどない」も、なるほどと思いました。「出先でおむつを替えるのは女性」という無意識の偏見が、トイレの設備にまで影響を及ぼしている可能性があるのです。


3、性別にまつわる「無意識の思い込み」に気づかせる広告

ストレートなキャッチコピーは、東京都の広告。ボディコピーは短いですが「女子」「男子」という性別と進路や職業選択の関係をテーマにしています。

「女子、男子、それより、わたし。」という
おさえのコピーがいいですね

中央にあるQRコードを読み込むと動画に飛び、「進路選択」における無意識の思い込みをアニメで解説しています。

舞台は進路面談。女子生徒が航空業界を志望していることを話すと、教師はCA(キャビンアテンダント)だと思って文系での語学の勉強をすすめます。しかし女子生徒が目指しているのは「工学部」。次のシーン、男子生徒が父親が働く医療系に進みたいと話すと、教師は医師を前提に話をしますが、男子生徒が目指したいのは「看護学部」というストーリー。

「女子だから文系・語学」「男子だから医者」は思い込みです。動画は若い人たちに自分がどうしたいのかを尊重することの大切さを伝えるものですが、教師や親といった周りの大人こそ、無意識の思い込みを押し付けていないか振り返る必要があると思いました。


4、女性を「等身大にエンパワメント」する広告

「気づき」を促す広告が続きましたが、最後は少し雰囲気の違うルミネの広告。新聞の15段いっぱいに女性の顔が載っていて、インパクトがあります。

女性の心をとらえてきたルミネらしい表現

「美術館の入場券」から始まる文はボディコピーでしょう。字間も空いていて微妙な読みにくさがありますが、左寄せの大胆なレイアウトが逆に気になる。ひとつひとつ読んでいくと、半径1mくらいの超身近な話題から望ましい世界のあり方まで、全方位レベルで「欲しいもの」が列挙されています。一番下にキャッチコピーがくる変化もいいですよね。

ルミネのターゲットは20〜30代の働く女性。女性たちの生活や仕事、人生には、こんなにも長い「欲しいものリスト」がある。それは、女性が持つ「欲」とも言えます。女性が欲望すること自体がはしたないと否定されてきた時代もありました。ルミネはそんな過去を踏まえて、このメッセージを掲載したのではないでしょうか。

現代に生きる女性のすべての「欲しい」を肯定する、エンパワメントな広告だと感じました。


新聞広告はSNS時代にこそ意義がある

2023年、日本のジェンダーギャップ指数は世界146カ国中125位でした。これはどういう位置かと言うと、G7(主要7カ国)で最下位。アジアの中でも、フィリピン(16位)、シンガポール(49位)、ベトナム(72位)、タイ(74位)、それに韓国(105位)や中国(107位)も下回って最下位です。悲しいことにこの順位は過去最低で、日本では特に政治・経済の分野で男女格差がまったく埋まっていないことを示しています。

今年の国際女性デーの広告では、ジェンダーギャップ指数に見られるような、普段の生活で見えにくい、あるいは見えているのに気づきにくい不均衡な状態をデータや数字を効果的に用いて「見える化」しようとする表現が見られました。

新聞を読まない人は増えましたが、同時にSNSで新聞広告を目にする人も増えている。手軽にシェアできるので、実は新聞広告とも相性がいいのです。多くの人に届けば、それだけ関心を持つきっかけにもなる。ジェンダーの問題はもちろん、企業が新聞広告で発信するメッセージはますます重要になっていると思います。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。スキやコメント、フォローなど何でもお待ちしています。

文:シノ


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