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レストラン【チヴォリ】

いよいよ稽古が始まる。
約4ヶ月ぶりに俳優としてことばを発する。

稽古初日に至るまで、俳優として、ひとりで出来る必要な準備は積んだ。
あとは稽古場で他者と関わりながら、話し合いながら、丁寧にぶっ壊しながら作っていく。

今回の役柄はシェフだ。
舞台上で実際に料理をつくる。しかし実物はない。
つまり実物があるわけではないが、マイムでの手際に真実味をもたらさなければならない。
その稽古もこれからやっていく。

演劇の奇跡は細部に宿る。
俳優自身がどこまで“調理をしている”という事実を信じ切れるかによって、ただのマイムに終わるか、本当に料理をそこに出現させられるかが決まる。

ぼくが演劇修行をしていたころ。
同期たちと自主企画という名目で公演を打った。
第二次大戦後の極東軍事裁判における日本側の弁護人の葛藤を描いた「東京裁判」という作品である。

出演者は日本側弁護士の男5人のみ。

しかし戯曲中には裁判官たちの台詞が書かれている。(しかも全て英語)
それを弁護士側にいる通訳が日本語に直して、我々に伝えてくれる。

つまり舞台上には我々5人しかいないし、英語が話されているであろうタイミングで、我々は【裁判官がいる】という真実味を持ちつつ、実際の舞台上には誰もいない方向を見て、そして通訳の話すことばにリアクションを取っていた。

この時ぼくたちは、チーム力を試されていた気がする。
それぞれの視線、それぞれのリアクション、それぞれの想像力。
全ての要素が上手に合わさって、真に迫る作品ができあがったと思う。

今回の作品は出演者が20名。
マンパワーで言えばとてつもないが、ハーモニーを奏でるとなれば難易度は非常に上がる。

しかしその中で我々は下北沢の劇場にレストランを作り上げなければならない。

ぼくは今年、演劇の魔法を使って、スペインに行った。インカ帝国にも行った。大量の黄金を手にする夢も見た。

今度はロンドンのレストラン【チヴォリ】に旅をする。
心のどこかで夢見ることを諦めてしまっている青年として、日本でも世界でもどこにでもいるような青年として料理を作り続けようと思う。

料理をマイムでする。未知だなあ。

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