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これに気づいてゲームづくりがスムーズになった(『人生が変わるゲームのつくりかた』番外編)


Board Game Design Advent Calendar 2024用の記事だよ!


「これに気づいてボードゲームづくりがスムーズになった」っていうポイントがいくつかある。
それらの奥義は、体系的に『人生が変わるゲームのつくりかた』に書いた。マジで書いた。
ボードゲームのつくりかたを日本のゲームデザイナーがガッツリ書いた本ってあんまりないので、ぜひ読んでください!

ここでは、本に書かなかったワンポイントを番外編的に書く。
「ゲームをつくるぞ!」ってなったとき、人は、「どうすればおもしろいゲームができるか」は真剣に考える(たいてい)。
でも、その一歩手前を考えるのを忘れがちだ。
「なんのためにゲームをつくるのか?」である。

これ、長年やってる人なら実感していることなのだけど、言ったとしても、言われた側は何だかピンと来ないという人も多い。それどころか何となく年寄りの説教じみて聞えるうえに、言っても手ごたえがないので言わなくなっちゃう。

なのに、あえて、ここで書いているのは、「なんのためにゲームをつくるのか?」を少し考えるだけで、いろいろなことが整理されて、やりやすくなるからだ。

「なんのためにゲームをつくるのか?」を曖昧にしたままつくりだすと、「どうすればおもしろいゲームができるか」を真剣に考えても、その目指すべき「おもしろさ」が曖昧でぶれぶれになってしまう。
「おもしろい」ってそんなに狭い概念じゃない。茫洋とした広大な地平だ。迷うぞ。

「なんのためにゲームをつくるのか?」を具体的に設定すると目的が絞られる。目的が見えるとルートがクリアになる。ルートがクリアになれば迷ったり振り回されたりすることはない。

いやいや。「なんのためにゲームをつくるのか?」といっても、哲学的なことだったり、学究的なことを極めようと言ってるのではない。
もっと具体的な、直截的なことだ。

「楽しくつくりたい」なのか「つくったもので楽しんでもらいたい」なのか「ゲムマで100個売りたい」なのか「50個」なのか「200個」なのか「もっとたくさん」なのか、「儲けたい」なのか「有名になりたい」なのか「ちやほやされたい」なのか、「ともだちに遊んでもらいたい」なのか「チャレンジしたい」なのか、あれこれ、である。

もちろんそれらが混然一体となり、あらゆることが目的なのかもしれない。だが、そこを踏ん張って考えてみて、目的の優先度を決めることで、無駄な迷いがなくなる。

たとえば、米光の場合は「楽しくつくりたい」が目的だ。つくってるのが楽しい。楽しくつくって、「なにこれ?」とか「へんなのつくったねー」と驚いてもらいたい。「驚いてもらう」も目的だ。そのうえで「楽しんでもらいたい」。この3つぐらいが上位3つの目的といえる。

もちろん「たくさん売りたい!」とも思っている。売れないよりは売れたほうがいい。けれど、「たくさん売る」は目的としていない。それを目的とするなら、もう少しわかりやすく売れそうなものをつくるだろう。
「たくさん売る」を目的としないこと決めることで、「こんなことしたら売れなくなるかも」と不安になっても、「いや、数を売ることが目的ではない」と決断できる。

「儲けたい」も目的ではない。少なくとも、ゲームマーケットで「儲ける」ことを目的にしていないし、ゲームマーケットだけでは儲からないとさえ諦めている(と同時にどうにかならないものだろうかとも考えている)。
たとえば今回の『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』の制作費は印刷代、デザイン費などで20万円かかっている。ゲムマ出展が土日2日で2万2千円だ。さらに交通費、輸送費もろもろ。完売したが、儲かっていない。細かく計算してないがトントンか、赤字だ。
今回『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』は絶好調だったので完売したが、完売しないことも多い。
しっかり計算したことはなかったので、いま気づいたが、10年間ほとんど出展しつづけたゲムマでは、毎回赤字だった可能性が高いな!(←というぐらい気にしてないので「儲けたい」は目的ではないのだ)(←こうやって、あまり気にしなくていいことがはっきりして手抜きができるのも、目的の設定をする良さである)

というふうにあれこれ考えて、「楽しくつくりたい」「驚いてもらう」「楽しんでもらいたい」が目的であると設定できると、ゲームづくりがスムーズになる。

「こんなことしたら売れなくなるな」と迷っても、そうだ「売りたいが目的じゃないからいいじゃないか」と思えるのは大きい。(逆に「売りたい」が目的なら、迷うこともなく「売れなくなる」ことはしなければいい)

目的を絞り込めば、ルートがはっきりして、いらぬ不要なことに惑わされることが少なくなる

目的を絞り込むと、いいことは、いくつもある。

【1】次へのモチベーションがわく
目的を具体的にすると「ふりかえり」がやりやすい。まず目的が達成されたか、しっかりジャッジできる。「100個売りたい」であれば、100個売れれば達成であるし、売れなければ未達だ。未達でも、どこが悪かったのかチェックしやすい(良いゲームと一緒で、負けたときに「こうすればよかったー」とわかれば、次のチャレンジへのモチベーションがわくのだ)。
これが「なんとなくやってる」だと、なにをふりかえればいいのかはっきりせず、ぼんやりと続けることになる(そして、続けるモチベーションがなくなる)。

【2】無駄に気をもんだり、人のせいにしなくてすむ
ふりかえりの軸が明確になることで、失敗しても、無駄なことに気をもまなくてよくなる。目的のどの部分がどのぐらい達成しなかったのかわかれば、どこが悪かったのか、つぎはどうすればよいのかがはっきりしやすい
ゲムマでたくさん売れたリポートや、こんなふうにしたみたいなあれやこれやの発言も、気をもまずに、落ち着いて読むことができます。

【3】やることが減る
目的がはっきりすれば、「やるべきこと」「やらなくていいこと」もはっきりする
「楽しくつくりたい」「驚いてもらう」「楽しんでもらいたい」が目的であると設定できたので、告知や宣伝は、しぼりにしぼってやる数を減らせた。とくに、今回は、Xで自推のコメントツリーはおもしろさのあるもの以外にはのっからなかった。

【2】脅迫言説に惑わされなくてすむ
「宣伝しないと売れないよ」とか「チャック袋だと売れないよ」とか「小箱は2000円未満にしないと見向きもされないよ」とか、そういった「なになにしないとなになにできないよ」といった脅迫言説が横行している。だいたい嘘だ。嘘という言い方がまずければ、身近なサンプルだけの偏見でしかない。
そもそも「売れない」というのは、どのぐらいの数を「売れる」とするのか設定しないかぎり意味がない。
初出店でチャック袋で200個つくって完売したサークルもある。箱で20個つくって持っていったけど売れ残ったサークルもある。
具体的な数字の実例は役に立つけれど、ぼんやりとした「なにか」で「できない」という脅しは、たいした意味がない
しっかり「何個売るぞ」という具体的な目標にしていれば、曖昧な脅迫言説に惑わされなくてすむ。具体的な数字があるものだけを参考にすればいいのだ。

【3】創作の自由度があがる
ここが一番のメリットだろう。混然一体と曖昧にあらゆることを目的としていると、あれもこれもやりたくなる、もしくはあれもダメあれもダメになって、平準的なモノになってしまう。たとえば「小箱で1500円で気軽に遊べて奥が深い風なゲーム」に意図せずになってしまう。
だが目的を明確化すれば、この無意識の制約から解放される。自由度があがる
ぼくも、「楽しくつくりたい」「驚いてもらう」「楽しんでもらいたい」を目的とすることをしっかり決めてなければ、『ジャーナリング・オブ・ザ・デッド』は作れなかった。
箱じゃなくクリアファイルバッグだし、冊子とカードと日記シートのセットだし、勝ち負けのない変なゲームだし、「脅迫言説」で言われてる「売れない」要素がてんこ盛りだ。だから、もし「売る!」が目的だと作れなかっただろう。

【4】参考にすべきモデルがはっきりする
参考にすべきゲームがはっきりする。ゲームマーケットにはいろいろなゲームが頒布されている。たくさん売れるものや、行列ができるもの、そんなにたくさん売れないけど尖ったものなど。多種多様なゲームが混在したままデータを集めてもノイズが増えるばかりだ。
だから、ちゃんと目的を設定して、参考にすべきゲームをしっかり定めて研究することで、やるべきことが明確化する。

補足として、ちょっと脱線ぎみだけど、関連してそうな話題で、興味深かったものを2つ紹介。

【1】「ゲームマーケットでTRPG同人シナリオに行列ができる理由」が興味深かった。

TRPGのシナリオ同人誌には「二次創作活動に関するガイドライン」で「SPLL(スモールパブリッシャーリミテッドライセンス)」があって、たとえば“2000円なら199部まで申請不要、350部まではSPLLの枠内”だけど、それ以上は増産できない。
だから、「わー、TRPGって行列ができて人気だなー」って隣の芝生が青く見えて、よし作るぞってなっても、「継続して1000部売りたい!」という目標の人にはSPLLの枠内ではむずかしいのだ。

【2】「完売する」を目的としがちだけど、そうじゃなくて「絶対に完売しないぞ!」という目標を立てたという話も興味深かった。

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