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悲劇のヒロインやってるヒマはない【死にたい夜に効く話.26冊目】『発達障害「グレーゾーン」生き方レッスン』岡田尊司著

どうして他の人が「普通」にできることが自分にはできないのか。
どうしていつも自分はこんな目に遭うのか。
そんなことばかり考えてしまう時期もあった。 


以前、偶然検査する機会があり、どうにも自分はグレーゾーンと呼ばれるものにあたるらしいということがわかった。
検査した当初は「そうだったのか」と色々合点がいったものの、そこまで深刻には捉えていなかった。

ただ、ここ最近ようやく心身ともにわりと落ち着いて生活できる状態になってみたとき、自分が精神的にも肉体的にも、これまで振り回され、苦しんできたそもそもの発端を考えてみると、このグレーゾーンの特性があまりにも大きく関わっていたと気がついた。
もっと早い段階で、自分の特性を自覚して、そして適切に対処しておけば、もっと楽に生きてこられたのにと思えてならない。

生きづらさのトンネルから抜けられずにいた学生時代の自分に渡してあげたい一冊だ。


『発達障害「グレーゾーン」生き方レッスン』

精神科医である岡田尊司先生による著作。
冒頭、二人の人物が例に挙げられる。
二人はよく似た特性を持っているにもかかわらず、一人は専門分野で力を発揮し、もう一人は社会と関われず引きこもっている。
一体何が違うのか。

それをひと言で表す言葉を探すならば、「生き方」ということになるように思う。同じような特性とハンディをもっていたとしても、生きやすくなる生き方、自分を活かせる生き方、チャンスが増える生き方を身につけているか、自分からチャンスを遠ざけ、自分で自分を見捨ててしまうような生き方を、知らず知らずしてしまうか。それを日々繰り返し、月日を積み重ねるなかで、大きな違いが生まれてしまうのである。

岡田尊司『発達障害「グレーゾーン」生き方レッスン』 SBクリエイティブ、2023年、pp.4-5


この本では、グレーゾーンとは何かという知識よりも、「それじゃあ、どうしたらいいのか」という実践に重きを置いており、具体的な対処法が書かれている。

どんなことでもそうだが、「〇〇した方がいい」と言われても、「そりゃあ頭ではわかってるんだけど…」と行動に移せないというのはありがちだ。わかっていることと、実際にできることは別物だから。なにより、そのために具体的にどんなアクションを起こせばいいのかわからなければ、試しようがない。

そういった点でいうと、この本では、あらゆるシチュエーションを想定して、一体どんな対処が望ましいかを示してくれている。

例えば、どうしてもNOと言えない人には、相手に対して、どんなセリフをどんな表情で、どういった段階を踏んで表現するといいのか等、かなり具体的に書かれていたりする。

グレーゾーンの人にとっては、自分自身の取り扱い説明書になるだろうし、グレーゾーンに当てはまらない人にとっても、対人関係やメンタルの落ち着け方として、ためになる知識が詰まっているのだ。

グレーゾーンの人は、自分の特性を嘆くよりも、それをよく自覚して、その欠点を補う対処法を考え、どちらに向かって生きるのかという生き方の部分を見直したほうが、素晴らしい人生に出会えるだろう。

同書、p.227


紹介されている中には、自分が普段から実践していることもたくさんあった。それは何年もかけて、自分で試行錯誤しながら(時に痛い思いをしながら)ようやく辿り着いた方法であったけれど、こういう本を読んでおけば、どれだけショートカットできたんだろう。対処法を思春期の時に知っていれば、きっと無駄に傷ついたり、思い悩んだり、しなくていい努力をしないで済んだだろうに。

自分には専門的知識はない。ただ、経験則として、自分に合った対処法をできるだけ早く見つけた方が絶対いいと思っている。
なぜなら、生きづらさを放っておくと、「新たな生きづらさ」を招きかねないからだ。

人間関係が崩れる。
自己肯定感がどんどん下がる。
自信がなくなることで、あらゆる行動に支障をきたすようになる。
別の疾患を併発する。
etc.

雪だるま式に生きづらくなる。回復にも時間がかかる。負のスパイラルに入ってしまうと、なかなか抜け出せない。つまり、
放っておいても、ろくなことがない。ってことだ。

周りが助けてあげることは必要だ。
でもそれだけじゃなくて、自分自身にできることは何かを探して、行動して、少しでも生きやすい人生を模索していくことが大事なんだと思う。

このストレス社会を生き抜くために、いつまでも嘆いているわけにはいかない。
悲劇のヒロインをやってるヒマなんてないのだから。



《参考文献》
岡田尊司『発達障害「グレーゾーン」生き方レッスン』SBクリエイティブ、2023年

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