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あなたは何をする人?【死にたい夜に効く話.32冊目】『世界の中で自分の役割を見つけること』小松美羽著

「あなたは何をする人?」

そう聞かれて即答できる人は一体どれくらいいるんだろうか。

たぶん、多くの人が知りたがっている。

自分の適性、適職、なんなら天職。
自分が何者であるのか。
自分は何をするべきなのか。

今日はアートが好きな人、クリエイティブ系の活動をしている人はもちろんだけれど、将来について考えている人にとってもなにかヒントになるかもしれない、こちらの本を。

『世界の中で自分の役割を見つけることー最高のアートを描くための仕事の流儀ー』

世界的アーティスト小松美羽さんの著書。
絵を描くことが好きだった子ども時代から、美大への進学、応援してくれる人たちとの出会いによって大成していくまでの軌跡が語られる。

小松さんの作品は、一度見たら忘れられない。
以前展覧会へ足を運んだことがあるが圧巻だった。絵を見に行ったというより体験しに行ったという方がしっくりくるかも知れない。
本の中で「神社のようなアート」という言葉が出てくるが、まさにそれだ。


年々、作品の世界は広がりをみせていく。
核となる部分は変わらずとも、表現の方法が銅版画から色を使うようになり、作品の大きさも変わっていく。作品への想いの込め方も変わっていく。

そんな小松さんも、スムーズにアーティストの階段を駆け上がったわけではない。下積み時代がある。なかなか評価されなかった時期がある。
それでも決して諦めなかった。

 しかし、評価してくれる人は現れなかった。逆に「この絵は良くない」とか「こんな絵でよく画家になりたいと思ったね」と言われた。
 当時の代表作はやはり「四十九日」だったから、くるくる丸めて持ち歩き、必ず見せていたのだが、「気持ち悪い」という感想がほとんどだったのだ。
「あなたさ、こんな絵を家に飾って、気分がいいと思うの?」
 私は家のインテリアとして映える、きれいな絵を描いているわけじゃない。差別がなく魂が解放される、見えない世界を表現したいのだ。
 あの頃そんな話をしても、たぶん余計に気持ちが悪いと言われただろう。
 私はそれでも、段ボールのアトリエで、絵を描き続けていた。

小松美羽『世界の中で自分の役割を見つけることー最高のアートを描くための仕事の流儀ー』ダイヤモンド社、2018年、p.108

 高橋さんに出会った頃、こう言われた。
「確かに面白いけれど、誰とでもつながれる絵ではない。怖いと感じる人もいるし、大嫌いだという人もいるはずだ。だから『大好きな人や共感してくれる人は少ない』と思っていたほうがいい」
 それでも、高橋さんは、教えてくれたのだ。
「大嫌いは無関心よりもずっといい。無関心な人たちが、怖いと思いながら引き込まれていくような絵を目指せ」と。

同書、p.204


読んでいると、ああ自分なんてまだまだだなと思えてくる。自分の信じた道を誰になんと言われようと貫き続けるのは難しい。
数々のエピソードは、クリエイティブ系のことをしている人ならなおさら響くものがあるに違いない。


この本は自伝に収まるわけでなく、誰もがもつ「自分の役割」を見つけるきっかけになってくれる本だ。

 小学生の頃、みんな「係」をやっていたはずだ。生きもの係、図書係、保健係…。
 それと同じで、この世界に命をいただいたからには、誰にでも「係」があるはずだ。
 私はたまたま、絵を通して見えない世界とこの世界をつなげるという「係」なのだと感じている。

同書、pp.18-19

 もちろん、私も生まれながらに役割に気づいていたわけではない。
 どちらかといえば、ぼんやりした子どもだった。物心がついた頃、気づけば絵を描いていたし、絵を描きたいという想いは成長しても変わらず強かったが、自分が何の「係」なのかは、ずっとわからないままでいた。
(略)
 だが、まわりの人に心を開き、自分の役割に気づくことができたとき、私は少しずつ変わっていったのだ。

同書、p.20



自分には何ができるのか、何をするべきなのかがわからない。

自分の望んでいる方向へちっとも進まなくて焦る。

いつまでも結果が出なくて焦る。

同世代のあの子たちは、自分のやるべきことを見つけているのに、結果を出しているのに。

あがいてみるんだけれど、空回りして結局上手くいかない。

自分の人生はそんなことの繰り返し。

この本を読んでいると、「役割」というのは、自分を貫いた先で見えてくる、経験や出会いを重ねて見えてくる、実感してわかってくるものなんじゃないかと思えてくる。

「さあこれがそうですよ」と誰かにバンッと差し出されてわかるようなお手軽に得られるものではない気がしてきた。

もしかしたら、自分では大したことないと思っていることかもしれないし、直接職業に結びつくものではないのかもしれない。

誰もがもつ「役割」の種は、きっと自分の中にあるんだろうけれど、それに人はなかなか気がつけない。 

だからこそ、必死に何かを続けたり、自分で学ぼうとしたりするんだろう。
本を読むこともその一つになるかもしれない。

 あなたが世界の中の自分の役割に気づき、それを果たす生き方をする。この本が、そのきっかけになれば、これほど嬉しいことはない。「自分の役割を見つける」とは、生を受けた意味を見つけるということでもあるのだから。

同書、pp.21-22


最初の質問をはじめてされた時、わたしは答えられなかった。

それから何年も経って、ひたすらあがいているうちに見えてきたこともある。
まぁ、そうは言っても道半ば。でもあがき続けた日々は無駄にはなってないとは思っている。


「あなたは何をする人?」


〈参考文献〉
小松美羽『世界の中で自分の役割を見つけることー最高のアートを描くための仕事の流儀ー』ダイヤモンド社、2018年

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