祝いの杯を高く掲げよ
猛るような緑に少々面食らい、同時にもっとも美しい季節が過ぎ去ったことを実感する。その証拠に、もう緑は若芽ではなく凛々しいばかりの萌ゆる青。空気に含まれる湿度が増してしまって、きらきらと輝く陽光がひたすらからりと爽やかであったときは失われた。今年はとりわけその恩恵を受ける機会を得られなかった。
同じ場所から2月末に撮った写真がある。
人類史に新たな脅威として席捲を始めたその頃の、不安な心持ちをこの写真は投影しているようだ。人のいないけやき坂に重たい夜がその帳をゆっくりと下ろし始めている。
ひたすらに頭を低くして嵐が勢力を落とすのを待ちわびて、久しぶりに訪れたこの場所で瞠目するばかりの青き緑の生命力は、口の端(は)に不遜な笑みをもたらした。
生きとし生けるものすべての、停滞していることのできない性(さが)が物事を前へと進めていくのだから。
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