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夜、エスプレッソ

ただいま土曜の夜、22:30にならんとするところ。仕事場兼リビングの灯りは3時間前ほどから点けておく。ベッドルームから突然、暗い部屋に踏み込んでモードを切り替えることが苦手なのだ。要するに今夜、少し仕事を進めておかないとならなかったので、ほんの執行猶予といったところである。たっぷり疲労するほど眠りこんで目覚めると、のろのろとエスプレッソを淹れに行った。そのころまだ当然リビングは自然光に満たされていたが、まだここには来るまいと誓う。部屋中にかぐわしい芳香が満ち、「まだ大丈夫。まだこんなに明るいのだから」と、カップを大事なもののように両手でささげ持つようにして、再びベッドルームへ向かう。

わたしの土曜日は、大抵だらしなくベッドルームで過ごす。スケジュールどおりキチンキチンと動く平日と、わかりすぎるほど明確な線を引きたいのだ。なみなみとコーヒーを沸かして、味が変わるのが嫌なのですぐさまステンレスのポットに移してベッドサイドのコーヒーテーブルにセット、クッションを山ほど積み重ねてちょうどよい背もたれを構築したら、心ゆくまで本を読んだりして過ごす。とにかく無音のなかでコーヒーとクッションがあれば至福なのだ。そして、できることなら土曜日はちょっぴりだって働きたくない。大抵は日曜日にイヤイヤ仕事をするので、土曜日だけはしなくて済むようにしている。

けれど今日ばかりは、明日一日だけしか稼働しなかったら間違いなく後悔の海でおぼれそう。そんなことくらい、ばかなわたしでも想像がつく。それくらい山のような量の原稿を書かなくてはならない。

21時には机に自らをセットしていようと思ったけれど、とてもそんな気分にならず、さらには仕事に取り掛かる前に何かしら無駄な意味などなさない文章を書くことで、脳を切り替えていく。もちろんかたわらには濃く淹れたエスプレッソをダブルで携えて。

夜って人間の雑念がうすくなるのかしら、外の世界から邪魔が入らなくてよいのだ。今夜もこうして静かな夜が更けていく。

photoby kennymatic

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