「グレタは何か怖い」「ヴィーガンのくせにお肉食べてるじゃん」理想と現実のはざまで。それでもエコアクションを続ける理由。
環境問題への世界的な関心が高まっている中、日本人の環境意識の低さが指摘されています。2021年の11月2日、イギリスのグラスゴーで開かれている国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)にて、日本は「化石賞」を2年連続受賞しました。
「化石賞」とは、世界の環境NGOが参加する「気候行動ネットワーク(CAN)」が、COP会期中に温暖化対策に後ろ向きな国を選出して贈るものです。日本の環境問題への対策の甘さが露呈するケースとなりました。
そんな中、世界的な環境アクティビスト、グレタ・トゥーンベリさんに共鳴して、環境問題に取り組んでいる学生アクティビスト達がいます。2018年8月、当時15歳だったグレタ・トゥーンベリさんは、気候変動についてのストライキをスタートさせました。3週間後の選挙に向けて、毎日、議会前で訴える活動をしていました。そんなグレタさんの活動は、世界へと広がり、同年9月、#Fridays for Futureというハッシュタグの下、世界中の若い人に環境問題への取り組みを呼びかける活動が始まりました。日本にも影響は及び、その日本支部 Fridays for Future Japan (以下、FFFJ)が、2019年2月に活動をスタートさせました。
佐藤悠香さん:大学4年生。アメリカ留学中に環境問題に関心を持ち、
帰国後、環境活動を始める。
横井美咲さん:大学2年生。テレビで見たグレタ・トゥーンベリのスピーチに感銘を受け、環境問題に関心を持つ。
田中美有さん:大学2年生。環境問題に強い関心を抱いていた高校の同級生の影響を受け、活動を開始。
(※2022年2月時に行われたインタビューに基づいた情報です)
環境問題に関心ない人多いよね、日本。
▼日本は、環境問題に対しての意識が低いと言われることが多いですが、そのように感じることはありますか?
佐藤さん:はい、あります。そもそも日本の学校のカリキュラム上、環境問題に対しての教育が少ないと感じます。私自身も留学先で、環境問題に取り組む周囲の影響を受けて環境問題に興味を持ち始めたという感じで、日本にいた頃は環境問題についてあまり知りませんでした。動物愛護の観点からではなくて、環境保全の一環として、ヴィーガン(動物性食品を一切口にしない厳格な完全菜食主義者のこと)として食事をしている人に留学先で出会ったことが、衝撃的でした。
横井さん:日本には、環境に対しての取り組みが自分の負担になると考えている人が多いと思います。例えばですが、オーガニックにシフトすることもお金が凄くかかると思っていたり、プラスチックを出さないようにコンビニのお弁当を買うのを辞めて持参するのにも時間が無駄にかかると思っていたりなどです。「環境問題に取り組む=自分を犠牲にする」という感覚が強いのではないでしょうか。だから、環境問題についての知識量も少ないし、取り組みにも消極的になっているように感じます。
佐藤さん:あとは、社会運動に対して凄く怖いイメージを持っている人も多いと思います。企業、政府、大人達に対して、声を上げて要望を伝えたり、時には批判したりすることがなかなか許されない社会なのかなと思います。
「グレタって分かるけど、怖いよね」
▼ご自身の身の周りでも環境問題に対して意識の低さを感じたことはありますか?
田中さん:ありますね。例えば、私もFFFJの活動を始めた当初、両親に好ましくない反応をされました。アクティビズムとかストライキに対して、過激なイメージがあるのか、「その活動自体、大丈夫なの?」とか「就職に響かないの?」と不安がられました。私としては、自分が信じて始めたことなのに、素直な応援が得られなくてショックでした。
横井さん:私も家族の意識が低いことに対して、腹を立ててしまった経験があります。FFFJで自分が頑張って活動をしているのに、家族が、お肉を沢山食べていることや、パワーシフト(自然エネルギーが中心となった持続可能なエネルギー社会に向けて、電力のあり方を変えていくこと)をしてくれなかったことで喧嘩になったこともあります。
他にも、大学の授業でグレタのスピーチを取り上げていた際に、同級生が口を揃えて、「言っていることはわかるけど、グレタは怖い」って話していたのを聞いたこともあります。やっぱり、日本はいまだに社会問題やアクティビズムに偏見を持っている人が多いように感じました。
ハッピーな抵抗運動
▼周囲から賛同が得られない時もあるようですが、そのような時はどうやってその苦しさやストレスと上手く折り合いをつけていますか?
佐藤さん:FFFJに入った当初は、社会を変えたいという強い気持ちがあって活動しているのに、身の回りの人さえも変えられない状況に、自己嫌悪ややりきれなさを覚えることもありました。でも、自分が働きかけても結局は、相手の考えや経験次第なので、気にしすぎないことが大切だと思います。その代わり、友達や知り合いでなくても、SNS上で顔も知らない人だったとしても、賛同してくれたり、変わる可能性があったりする人にアプローチしたいなと今は思っています。
あとは、「コップ満杯の水」だと考えるようにしています。人の行動を変えるのは一回ではできなくて、コップに水滴が少しずつ溜まっていって、満杯になるように、少しの知識が溜まっていって、満杯になったときにその人の行動を変えることが出来るのだと考えるようにしています。
だから、その一瞬でその人を変えられなくても、自分の考えや取り組みを少しずつでも発信していくことは絶対に無駄にならないと思っています。
横井さん:私も、個人のチョイスだから責めても仕方がないって思うようになりました。ただ、どうして自分達の将来のためなのに何もしてくれないんだと不満に思う気持ちもまだあります。でも、それを直接言うのではなくて、お肉のない食べ物を美味しそうに食べて発信したり見せたりすることで、「あの子もやっているならやってみようかな」というようにハッピーに人に影響を与えられるようにしようとアプローチを変えました。自分にとっても周りにとってもいい変化だったと思います。
エコギルトと心のバランス
▼「エコギルト(Eco-Guilt)=地球環境に害のある決断をした時に抱く罪悪感」という言葉があります。普段の生活の中でエコギルトを感じることはありますか?
田中さん:100%環境に良いことを私はいつも出来ているわけではないので、ちょっとした罪悪感を感じることもあります。そんな時は、FFFJの仲の良いメンバーに共有したり、やってしまったことを改善したりとバランスをとれるように心がけています。
やっぱり、他のメンバーに共有して励ましあうことや、自分の感情を落ち込みすぎないように心掛けることで、コントロールしています。
横井さん:「出来てない、出来てない」と減点方式で考えるのではなくて、「あ、これ出来た」みたいに加点方式で考えるのが大事だと思います。完璧を求めすぎると続けられなくなるので、一個ずつ出来ることを毎日増やしていくイメージで。自分の気持ちとエコ生活の間でのバランスを上手くとって、持続可能なものに出来たらいいと思います。
佐藤さん:完璧じゃないことが親しみやすさにも繋がるので、完璧じゃなくていいっていうのに賛成です。私は、お肉は食べないけれど、たまに卵を食べてしまうので完全にヴィーガン生活が出来ているわけではないんです。でも、本当は隠したいことや弱みが、人を惹きつける部分になると思っています。私自身、強すぎるアクティビストでもなくて「普通の大学生」なんです。そのように共感してもらうことが周囲を動かすきっかけに繋がるかなと思っています。
横井さん:私は、お肉を減らし始めた時期にインスタグラムにお肉が少し入っている食べ物の写真を載せたら、「お肉食べているじゃん」と言われました。意外と見ている人もいるんだなと驚いたと同時に、がっかりとか期待外れだと思われたのかなと感じました。そのことがきっかけで逆にいいプレッシャーに今はなっています。周りに発信して、周りに見てもらえているという感覚が自分の原動力にもなっています。
「特権階級」の私だから
▼プレッシャーを感じつつ、アクティビズムを続けられるのはどうしてですか?
佐藤さん:私が大切にしている言葉に、ガンジーの”Be the change that you wish to see in the world(あなたが世界で見たい変化にあなたがなりなさい)”という言葉があります。今までは、大学に通わせてもらったり、留学に行かせてもらったりすることを当たり前だと思っていました。周りの友達も同じようなバックグラウンドの人たちが多かったので。ですが、留学などを通して、自分の特権に気づきました。誰かが何か行動しないと絶対に環境問題を解決することはできません。きっと、環境問題大変だからアクションを起こさなきゃと短期的に思っても、持続的に活動を続けられる人は凄く少ないと思います。このガンジーの言葉で、私がその行動する一人にならなくてはいけないと気づきました。
環境問題は社会問題の中でもタイムリミットが差し迫っている重大な課題です。優先順位をつけるつもりではないのですが、例えば、ジェンダーの問題を解決しても、地球が破壊されてしまったら元も子もありません。また、個人プレーで解決出来るものではなく、地球全体の人が協力して取り組んでいかなくてはなりません。だから私は環境問題に取り組みたいです。
▼強い気持ちを持って活動をしてこられたと思いますが、今後はどのように環境問題に携わっていきたいと考えていますか?
佐藤さん:就活をきっかけに少しFFFJの活動から離れていたのですが、離れていたおかげで、自分の視点が偏っていたことに気づきました。偏るというのは、あまりにも理想論を語りすぎたり、ビジネスの視点が欠けていたり、自分と違う環境で育って違う価値観を持つ人の気持ちに共感できていなかったりすることです。でも、やっぱり社会運動をしたいし、街に出て自分の意見を主張することがもっと気軽に出来る社会を作りたいと思っています。これから働くことになる企業はビジネスの視点からも環境問題に取り組む企業です。社会運動をやりつつも、ビジネスとして持続可能な解決策を提示できるような一人前の大人になりたいです。
横井さん:私もやっぱり、社会問題に対して、皆が取り組んでいけるような寛容な社会を作りたいと思っています。ストライキや社会運動に偏見の残る日本にいるからこそ、社会運動以外の方法も模索しつつ、周りを巻き込めるような活動をしていきたいです。
最初にグレタのスピーチを見て、感銘を受けた時の気持ちをこれからも大切にしていきたいです。
▼最後に、読者に一言お願い致します。
佐藤さん:アクティビズムってハードルが高く聞こえたり、意識高い系の行動って思ったりするかもしれませんが、将来のために環境問題について話すだけでも十分にアクティビズムだと思うし、アクションだと思います。友達と問題について話し合ったり、SNSのハッシュタグアクションに参加したりするだけでも十分に社会に貢献できると思うので、まずは気軽に参加して見て下さい。
執筆者:清水和華子/Wakako Shimizu
編集者:原野百々恵/Momoe Harano
企画者:田中真央/Mao Tanaka
インタビューを受けてくれた方:Fridays For Future Japan (2018年のグレタ・トゥーンベリの学校ストライキがきっかけとなって始まった気候危機への対策を求める運動。世界中に活動が広がっており、2019年2月に日本でも活動がスタートした。現在、日本では20以上の地域で活動が広がっている。)
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