泣きたい夜は台所に立てばいい

画像1 今日も今日とて夜の台所に立っている。泣いてはいないがモヤモヤしていたので今日はなんとなく、ふわふわで繊細な感じの、優しい甘みのあるパンを作りたかった。頭にぽっとすぐに浮かんだミルクパンを作ることにした。ちなみに浮かんだのハイジのワンシーン。
画像2 ベタつく生地も捏ねたり叩きつけているうちに次第に必ずまとまるからすごいなあと思う。付き合い始めの頃は何かと拗らせていたけれど時間を経て信頼関係が構築される恋人達みたいだな、などと思う。艶を纏い始めた生地に愛しさを感じる。まとまってきたところにバターを加えると、せっかくまとまってきた生地はまた分離し始める。恋人達のすれ違いや喧嘩。手捏ねパンの1番好きな工程が、実はここだったりする。
画像3 バターを入れたあとぎゅっと捏ねると手に伝わるねち、むぎゅっとした感触はかなり気持ちが良いし、捏ねているうちに分離した生地はまとまり、バターを入れる前よりツヤツヤとなめらかになる。膜が張れば捏ね上がり。恋人達も雨降って地固まる。成形も好きだけれど、やっぱりバターを入れた後にまとまるまでの時間が1番好き。
画像4 一次発酵へ見送る時手に生地を乗せてちょっと眺めてしまう。この後さらにふっくらと育つことを知っているからワクワクする。人間の心とか器ってやつもこうやってじっくりじんわり育っていくんだろうね。そうあってほしいしね。
画像5 時間は飛んで二次発酵が完了。成長するに連れてどんどんかわいくなるじゃないか。いつもここで強めにツンツンしたくなるけどぐっと堪えてオーブンへと見送る。丸パンは成形が非常に楽。人生も楽してこ。
画像6 パンが焼けるまで台所にある丸椅子に腰掛けて読みかけの本を開く。クープが浅いし小さすぎたことを少々反省しつつ、理想通りにやけたミルクパンに心が躍る。この瞬間に今日一日の小さい憂鬱も大きい憂鬱も塵になる。私は案外チョロい。少し指で押したらへこんでしまうような繊細さ。ふわっふわじゃないか。たまらない。私も誰かに嫌なことをされたり言われたりしてへこんだときは自分がミルクパンだと思うことにする。へこんでたってそう思おうとする図々しさが私の良いところ。
画像7 焼き立てのパンをちぎる瞬間って幸福の全てが濃縮されている気がする。立ち昇る湯気とか鼻を抜ける生地の香りとか指先から魔法をかけられているような感触とか。食べる前からもう脳汁が溢れ出ている。食べた後はどうなるって?力が抜けてしまうよ。絶対今日は良い夢を見るねって確信が生まれるし、何より今日は良い一日だったって今日を終えられる。
画像8 私は必ず焼き立てを味見するけど、別に食べなくたっていいの。味見も我慢して朝の楽しみにしてもいいの。それだけで朝が楽しみになるし、眠る前に穏やかな気持ちで目を閉じれる。あなたが怖い夢を見ませんように。
画像9 眠れない夜や泣きたい夜は台所に立てばいい。あとは導かれるだけ。大丈夫、大体のことはいつかどうにかなるよ。

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