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防災の第一歩は「自分ごと」〜家族と自分の命を守るために〜

#みんなの防災ガイド

横山芳春 博士(理学)/地盤災害ドクター
だいち災害リスク研究所 所長
「微動探査」の Be-Do 会長



3.11から11年を迎えて

 2011.3.11から今年で11年を迎えます。その後も、各地での水害、土砂災害、地震は毎年のように起こり、多くの被害が起きています。被災後の現地に入ると、立地や建物の構造などで被害に大きな差があることを見かけます。被害に遭われた方にお話を聞くと、「こんなことを知っていたら住まなかった」という声を聞きます。一方、「お父さん(先祖)の遺してくれた土地(家)だから・・」という話を聞くことも事実です。

 私、地盤災害ドクター横山芳春は、「災害リスクを知った住まい」の普及啓発を10年近く進めています。そもそも、関心を持ったのも3.11の被害を目の当たりにしたことがきっかけでした。当時、私は不動産の評価に関係する会社に勤めていました。不動産の世界では、評価や取引の際に災害リスク情報はほとんど考慮されずに不動産の取引が進んでいる事がありました。むしろ「災害リスクがわかると売れなくなる」という「邪魔な要素」、として捉えられていることが実態でした。

災害リスクは立地ごとに大きく異なる(写真は黒部川扇状地)

 それから11年、不動産取引時の「重要事項説明」で水害ハザードマップの説明が義務化されるなどはありましたが、繰り返される地震や災害で、土地選びや住宅づくりの基準や法改正などは、驚くほど反応が鈍い状況があります。何が変わったのかと言われれば、制度側は「何も変わっていない」と言っても過言ではないレベルであると考えています。

 民間側では物件サイトでハザードマップ表記が進むなどの動きはあり、地盤・災害情報関連のサービスは増え、地震に強い家を造ろうという意識の高い事業者(「構造塾」業者マップなど)も出ております。一方で、相変わらず耐震性など性能が低い(そもそも性能が低いかすらもわからない)家も、変わらずに建てられていることも現状です。

 片や、住む側の人も、首都圏にお住まいの人であれば、北海道や九州などで大きな災害があっても、対岸の火事として自分事として捉えられない、少し影響があってもすぐ忘れてしまう、という声があることも承知しています。普段の生活に何も影響がないと、大きな災害はどこか外国での事件のような話に聞こえてしまうこともあるようです。心理的にマイナスの話は聞きたくない、ということもあるでしょうが・・

 3.11では、当日の帰宅困難者や計画停電、ガソリン不足、品不足、などで影響があっても、都市部での生活は翌週には普通に戻ってきていました。被害を受けると一挙に機運が高まるのですが、人はすぐに忘れてしまいます。しかし、首都圏を中心に日本の都市の多くは今世紀、まだ壊滅的な被害を受けることを経験していません。その時になって後悔をしてほしくないと考えています。

大地震時の被害は立地によって大きく異なる

 「災害大国日本、どこに住んでいても同じだよ」という声も聞きますが、被災地を多く見た経験からは全くの誤りです。被害を受けることがゼロではないとしても、その確率や被害を極限まで低くできる場所はあります。一方で、地震があると周りより揺れが明らかに大きくなる地域、川の洪水があったときに浸水が3m、5mにも及ぶような地域、大雨の際に土砂崩れ、土石流などが発生した際に被害を受けかねない地域もあります。このような地域は、事前に知ることもできます。

 住んでいる場所の「地形」によって、ある程度どのような災害が起きやすいか、地震の際に揺れやすい地盤かは、以下の図のように目安があります。

災害リスクと「地形」との関係

 とはいえ、いきなり日常で防災のことを考えよう、備えをしょう、というのは難しいと思いますが、私は「いま、首都直下地震があった時どうするか?」ということをたまに想像します。これは、通院している方は共通の状況です。

 自分は仕事で都心に出ていて、奥さんは在宅、子供は学校・幼稚園に行っているときに大地震が発生した場合、何が発生するでしょうか。すぐには家には帰れない。通信も途絶する。しかし、都心からの帰路は家屋の倒壊や火災が発生していることが想定されます。帰宅を開始することで、自分が被災してしまうことがあるのです。しかし、なぜ帰りたいかといえば、皆同じです。家は大丈夫か、家族は大丈夫か、ということに尽きるでしょう。

 そこで、どうすれば安心できるか?家と家族が大地震・大災害でも被災しない立地と家に住んで、十分な備えがあれば、無理をして帰らなくとも家族は無事です。あとは自分が、死なずに帰ればいいだけです。

 私が考える3.11での都市部における最大の負の教訓は、帰宅困難者が帰れて(帰って)しまったことだと思います。首都直下地震があった際は、自分は何とか都心部にいて生き延びたとしても、すぐに家に帰ってはいけないのです。帰路の安全が確保され、徒歩でも帰れる状況にあることが確認されてから徐々に帰宅を開始することが正解です。

JR上野駅における大地震・災害時の帰宅を抑制する看板

 

 私も3年ほど前に住み替えをするタイミングもあって、その際には住む場所と家について考えました。その内容とは、

①住む場所は?
→洪水や津波で浸水しない、土砂災害が起きない、地震のときに揺れづらく液状化などが発生しない、火災で延焼しづらい街区の立地、その一択でした。
 ※実は、これは私が住む際には最低限の条件にしている場所です。つくば→船橋→松戸(賃貸)→松戸(中古戸建て)と住んでいますが、高台の台地の平坦地にしか住んでいません)

②住む家については?
→新耐震基準のRC造など堅牢な構造か、木造住宅であれば2000年以降の基準で、「耐震等級3」の家、しかないと考えていました。2度の震度7があった熊本地震で甚大な被害のあった益城町でも、耐震等級3の家は9割近くが無被害で、小中破以上の被害はありませんでした。
 並大抵の地震では倒壊・大破する可能性が低く、大きな地震が2度あっても住み続けられる家、ということになります。
※「中古戸建て」という選択肢で地域を絞り、(品確法の)耐震等級3の家をようやく見つけることができました。

熊本地震での益城町での調査結果・耐震等級3は小破(半壊)以下の被害
出典:一般社団法人 くまもと型住宅生産者連合会

 理想は、地震があっても倒壊せず、大雨、台風の際にも避難所に行く必要がない立地の家で、自宅をシェルターとして住み続けること。これが家族と離れても心配せず、急いで帰ろうとしなくともよい住まい、であると考えています。当然、水、食料、何よりトイレ関係、などは7日程度は補給がなくとも生活できる備えも同時に行いたいものです。

 先祖の土地、慣れた土地、ということで、水害や土砂災害、あるいは津波の危険性のある土地から離れられない人もいるでしょう。これらの災害は、降水量の観測や地震発生などで、多くの場合は事前に起こる可能性がわかります。

 平時に、自宅の立地であればどの災害があったときに避難が必要で、どこに逃げればいいのかをハザードマップなどを参考に決めて、非常用持ち出し袋などを準備しておきます。いざ警報などが出た際には、被害が及ぶ前に荷物を持って、いち早く事前に定めた避難所に避難すれば、被災して命を落とすようなことはありません。

 家が2階建て以上(または2階以上の居室)で、浸水の深さが1m未満、などで、洪水の際に氾濫流を受けない場所、土石流などを受けない場所であれば、2階以上に避難する「垂直避難」でもやり過ごせることもあります。「我が家の場合はどうしたらいいか」は、立地に加えて、住んでいる家の構造や、家族構成によって変わりますので、事前に是非良く家族で話をしておくと良いと思います。

浸水の深さと水害からの避難の目安(木造戸建て住宅を想定)
出典:逃げる?逃げない?水害に遭ったとき、あなたが取るべき正しい行動

 しかし、ハザードマップには注意点もあります(詳しくはこちら)。まずはハザードマップで色がついていない場所=安全な場所ではないことです。良くあるのが、水害マップで色がついていないが浸水したケースでは、想定が大きな川だけで、近くの小さな川や、川以外からくぼ地に水が集まって内水氾濫があった事例です。ハザードマップは安全の担保するものではないことに注意が必要です。必要に応じて専門家への相談などをお勧めします。

 また、ハザードマップの精度は、家1件ごとの評価ができるものではないことがあります。揺れやすさを示すマップは約250m四方(6万㎡以上)が1単位ですが、そのなかにはゆうに100件以上の家が建つ面積ですので、目安です。1件ごとの評価は、「微動探査」と呼ばれる調査などで、個別敷地での揺れやすさを調べることができるようになっています。

ハザードマップは限界がある 揺れやすさマップは250mメッシュでピンポイントではない
出典:さくら事務所HP

 本来は個別の災害リスク評価は専門家に相談することが望ましいですが、そういったサービスは多くないことも現状です。地図上で簡易にわかるサービスは、地域の目安ですので必ずしも個別宅のリスクを示していないことがあります。
 個別に宅地ごとに災害リスクのアドバイスをするサービスでは、私が監修している「災害リスクカルテ」なども活用できます(出前味噌ですが・・・)。ハザードマップでリスクがないとなっている地域でも、1件ごと住宅の構造や住み方も含めて、診断とアドバイスが可能です。

在宅避難の備えは?

 次に、在宅で避難する時の備えはどうすればいいか?地震・災害の家庭での備えの多くは、実は特別なものはいりません。普段食べているものや使っているものを少し多めに買っておいて、期限の近いもの、古いものから使っていき、買い足していく「ローリングストック」で大半は賄えます。家族の人数を考えて、一週間ほどは水・食料が持つような準備が望ましいです。

 また、水や食料は備蓄されている方も少なくないと思いますが、意外?なところではトイレへの備えは大事です。非常用トイレ、トイレットペーパーは是非ストックを。大地震などの際にはライフラインが破損し、自宅が無事でもトイレが使えない、また洪水などにより逆流なども考えられます。ほか、ソーラー発電機、充電器などは多めに、外出時にも持っておくと安心できます。

 冬場であれば停電による寒さも想定されます。1階から2階に避難する際などは、布団や防寒着なども移動しておくとよいでしょう。家から外の避難所などに避難する差も、冬場では低体温症も懸念されます。じゅうぶんな防寒への備えをお勧めします。

 スマホは情報収集、連絡ツールだけでなく、記録用カメラ、照明機器、ラジオ替わりなど様々な使い方ができます。ソーラーパネルや蓄電池、モバイルバッテリー等も平時から準備しておくと良いでしょう。

 なかなか日常で「防災のことを考えよう」ということは難しいと思いますが、3.11をきっかけに「防災スイッチ」を入れてほしいと考えています。学校に通学しているお子さんと通学路の危ない場所を確認する、どこまで通ったら家に戻るか学校に行くかを決める、非常時の行動、避難先、連絡手段について家族で話し合っておく、などから始めてほしいと思います。

地盤災害ドクター・横山のコンテンツ

●記事を書いた人:横山 芳春博士(理学)地盤災害ドクター
・具体的な災害対策について→ だいち災害リスク研究所
・住宅の地震対策「微動探査」について →Be-Doチャンネル
・自己紹介 →プロフィール

 地形と地質、地盤災害の専門家、災害が起きた際には即現地入りし被害を調査。広島土砂災害、熊本地震、北海道胆振東部地震、山形県沖地震、2021年福島県沖の地震等では当日又は翌朝に現地入り。
 現地またはスタジオから報道解説対応も(NHKスペシャル、ワールドビジネスサテライト、Live News it!、日曜報道 THE PRIME、ひるおび、めざましテレビひるおび、等に出演)する地盤災害のプロフェッショナル。

 報道対応、解説、執筆、監修、講演、取材などのご依頼、ご相談ににつきましては、下記よりお問い合わせください。
・メール:yokoyama1128geo(a)gmail.com
 (a)→@としてください
・Twitter:https://twitter.com/jibansaigai


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