バイクの旅人 1
第1回 バイク旅の魅力
私が旅の手段にバイクを選ぶのは、この乗り物が「非日常」を体験させてくれるからです。ひとたび跨れば、とても刺激的なドラマを目の前に運んできてくれる。これが魅力となり、バイクで旅を続けています。
ですがバイクのツーリングは、スマートな旅でも清潔で快適な旅でもありません。雨にそぼ濡れ、寒風に震え、熱暑に汗だくとなります。でもそれは、旅する者としてとても自然で当たり前なこと。空調や屋根は不自然です。
また、バイクがまったく安全な乗り物だと言うつもりもありません。この機械は、運転者の情緒や技量と直結しています。旅とは無事に帰宅してこそ、旅。なのでライダーは無意識に「内」と「外」を磨き、より安全を目指すようになります。
そして風の中で乗り手は覚醒し、鋭敏になります。土の匂いに。雲の流れに。人の情けに。
車のような「どこでもドア」で、これらの感触や感覚は得られません。バイクはそう、「タケコプター」。景色に同化し、マシンと一体となり進みます。
さらにこの旅人たちは、「一期一会」や「諸行無常」の感覚も備えています。旅先での情景が、その感性を形づくるのです。
小さなバス停で手を振る大きなランドセル。はるか前から下りる踏切の遮断機。なのに一瞬で通過する短編成。朽ちてゆくだけの廃車の群れ。つり銭切れのコインスナック。ナンバープレートから始まる会話。走り出す背に聞こえる、「またどこかで」。
バイクの旅人は、すれ違う一瞬にピースサインを交わします。それは、こんな旅で得た世界観からでもあるのです。この精神性も、私にはとても大きな魅力です。
しかし、ライダーとて十人十色。旅に求めるものもそれぞれ違います。つまりバイク旅の魅力は、乗り手の数だけ存在すると言えるでしょう。けれど、その旅のスタイルはいくつかに分けられます。そのそれぞれから、バイク旅の魅力を考えてみたいと思います。
次回はまず、「マスツーリングの魅力」を探ります。
初出 共同通信社
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