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クビの配達引き受けます
AP。
その言葉が意味するのは、大体二つだ。
一つはアーマー・ピアシング。徹甲弾。
もう一つはアーマード・パルクール。装甲戦闘服の運び屋。俺みたいな。
「昔の戦争の花形がなあ」
「ボヤくなよマスター。俺は割と気に入ってんだから」
酒場の店先、デカいコンテナを置く。中身は無論酒。割れキズ遅延無し。
「んじゃまたご贔屓に」
跳躍。重力制御。ビル壁三階、垂直着地。
走る。ハードルじ
クビの配達引き受けます #2
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白い肌。銀の髪。碧色の瞳。
絵画か、人形か。生命維持装置に収まった、恐ろしく造形の整った少年の首に、しかし動揺の色は無い。
ただ値踏みするように、車内へ侵入したAPを見据える。
「初めまして。僕はラティナ家の現当主、モリス・ラティナという者です。以後、お見知り置きを」
滑らかな声。だが唇は動いていない。装置のスピーカーか。
「おっと、こりゃご丁寧に。握手、はとりあえずまた
クビの配達引き受けます #3
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「行、く、ぜっ!」
ブースト。瞬く間に縮むエアカーとの距離。うち五台のルーフが展開し、搭乗者達が一斉にザジを見た。なお残り一台は既にルーフを開けている。先程ロケットを撃ち込んだ車輌だ。
搭乗者は、やはり全員デミヒューマン。滑らかな、しかし機械的な動きで、めいめい武器を構える。
「敵、接近」
「迎撃」
ハンドガン。あるいはロケットランチャー。
引金が引かれる、引かれる、引
クビの配達引き受けます #4
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+++ ACCESS +++
「む」
気付くと、モリスは椅子に座っていた。
ゆったりとしたソファ。辺りは狭くも広くも無い、まっさらな部屋。
思わず、肘掛けから腕を浮かす。見慣れた手――いや、左手首のホクロが無い。いつも袖に隠れている、メディアに露出しない、ちょっとした秘密。同時に得心する。
「仮想空間か。機器とマルチアームで接続してた以上、こういう芸当が出来る事自体は、なる
クビの配達引き受けます #5
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カチリと。
「では。僭越ながら、始めさせて頂きましょう」
スイッチが切り替わるように、サンジュの口調が落ち着いた。モード変換と言う事か。モリスは片眉を吊り上げる。
「まず大前提と致しまして、ラティナ家一族の皆々様は、遺伝的な疾患を抱えておられます」
「ほう」
モリスは本格的に感心した。その情報は、一族の中で厳重に秘匿されている筈だからだ。
「症状、その度合い自体は一族の
クビの配達引き受けます #6
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+++ CLAUSE +++
「やあやあ遅かったというべきか早かったというべきか何にせよこっちの商談も終わったよつつがなく問題無く手際よくね」
「ホントかよ~? 無駄口のカタマリみたいな性能なのによぉ~」
けらけらと談笑する運び屋達。その背に収まる小さな自分を、モリスは一拍遅れで発見する。次いで、銀箱内側の時計を見やる。時間は驚く程経過していない。仮想空間であれ程話し込んでいたの
クビの配達引き受けます #7
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「大分、後手に回ってしまったか」
言いつつ、モリスはネットワークに接続。ざっと情報を洗う。
ニュースサイト。SNS。匿名掲示板。そして今し方切り替わったビル壁モニタの緊急特番。
結論はすぐに出た。
「やはり、当主代行の捻出が始まっているな」
「代行、ですか」
「ああ。現状、当主の権限は僕――モリス・ラティナにある。だがそれは仮のものだ。正式な移譲ではない」
「なるほど確かに治
クビの配達引き受けます #8
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直角の連続する、電子回路じみた奇妙な稲妻。曇天に閃くそれを頭上に、ヘカトンケイルmk-Ⅵは突撃する。巨大四本腕を器用に組み合わせた、大質量かつ大推力のハンマーパンチ。
標的は無論、電柱上のアーマード・パルクールだ。
DOOOM! 轟音。爆ぜ飛ぶ電柱先端。ヘカトンケイルはなお勢い止まらず、ビル壁へと突き刺さる。
DDOOOOOMM!!「わおド派手」
「ミサイルさながらだね」
クビの配達引き受けます #9
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「ありゃあ」
バイザーの下、ザジは眉をひそめる。
AP弾は全て命中した。だがヘカトンケイルの防護シールドには傷一つ無い。赤い瞼の下で、巨大なモノアイが照準を合わせる。笑うかのよう。
ザジは、あえてその目を覗き込んだ。
「この距離でAP弾を弾くのかあ。やるなオマエさん」
「実際問題中々に丈夫強靱頑丈頑健な素材でございますね珍しい興味深いこれもまた新素材新開発新商品というコトなの
クビの配達引き受けます #10
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「ほう」
モリスの口角が上がる。同時にヘカトンケイルの四連ガトリングガンが、火を噴いた。
BRATATATA!「それはいよいよもって光栄だね。あのアンリミテッド・アーマーの全力を引き出せるとあっては。正式採用……早めの量産も視野に入れないとな」
吹き荒れるは嵐のごとき弾雨。射線が狙うのは、無論APザジである。
「いやいやまあまあリミッター解除と申しましても最初の一段階程度
クビの配達引き受けます #11
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金属音、金属音、金属音が連続する。振動がモリスの髪を揺らす。だが被弾ではない。あんな弾雨にさらされれば、アンリミテッド・アーマーはともかくモリスの銀箱はクズ鉄となってしまう。
では、その正体は何か。
箱の外部カメラと、サンジュから提供されたアーマーのシステム状況データ。二つを同時起動したモリスは、見た。
ザジの両膝、右前腕、そして腰――銀箱の真下。それらの部位に装着されてい
クビの配達引き受けます #12
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この町の上空を、常に覆っている雲の天蓋。本来あるべき成層圏よりも、随分下に垂れこめている分厚い灰色。幾本もの超高層ビル上部を飲み込みながら、時折直角の稲光を閃かせる異様は、アーカイブにしか存在しない神話のよう。
不自然極まりないこれが何なのか、知る者はいない。調べようとする者さえ居ない。それこそ不自然なまでに。
故に。一般人が雲について知っているのは、ただ二つ。
一つ。あの
クビの配達引き受けます #13
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衝撃。爆音。炸裂音。金属がひしゃげ、ガラスとコンクリートが砕け散る。
ヘカトンケイルmk-ⅥのAIが予測した光景は、しかし当たらない。
「な、んだ」
APの背で、モリスは息を絞り出す。彼は今、この鉄火場に最も似つかわしくない空気を味わっていた。
即ち、静寂である。
銀箱の、生命維持装置の小さな駆動音。聞こえるのはそれくらいだ。収音機構をどれだけ調整しても、破壊音は何一つ
クビの配達引き受けます #14
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「百八十秒ですよ、ザジ」
「わーってる、って!」
ザジは飛ぶ。目に見えて向上したスラスター推力は、数ブロック離れたヘカトンケイルへ追いつかんとする。
凄まじい速度。到達まであと何秒だろうか。こちらのハンマーパンチ突撃と同等、いやそれ以上の瞬発力がある――赤い保護シールドの下、ヘカトンケイルのモノアイは冷徹に戦況を分析する。
状況、不利。撃墜可能性濃厚。されどAIに撤退の二文