大西洋子

イラストを描いたり、ショートショートを書いたりしています。

大西洋子

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マガジン

  • 毎週ショートショートnote詰め合わせ

    #毎週ショートショートnoteで書いた作品に、加筆修正したものを詰め合わせております。

最近の記事

春ギター(毎週ショートショートnote)

「そのギター、まだあったんだ」 そのギターを見るなり、父さんがその作業の手を止めた。 「若い頃、それを持って弾き語りに出掛けたものだ」 差し伸べられたその手に、屋根裏部屋から出したばかりのそれを手渡す。 腰に吊したタオルで胴を拭うと、薄紅色の胴がさらに鮮やかな色になった。そうして縁側に腰かけかき鳴らす。新生活になれ初めたとはいえ、まだ進学でバラバラになった彼との約束を思い出させるフレーズ。 「あら懐かしい」 叔母さんの声。 「おじいちゃんったら、それで演奏していたわね」 小学

    • 新生(毎週ショートショートnote)

      もう、小さくなったから。 色が気に入らないから。 ハロウィンの仮装用だから。 ちっちゃなレインコート。 色鮮やかなレインコート。 イベントは終わったから。 小さい誰かにおさがりへ、 気が変わるかも知れないから、 また来年のイベントに、 だけど、袖を通されないまま、時は過ぎ、 このままだと捨てられちゃうぞ。 その声に袖を伸ばし、闇の中から伸びたその手を握り、レインコートは外に出た。 声の主は、大きな一つ目のある和傘に一歩足のオバケ。唐傘オバケは自慢の一歩足でぴょんぴょ

      • 祝宴(毎週ショートショートnote)

        真新しいシャツに袖を通し、クリーニングから帰ってきたばかりのジャケットを手渡された。 「スーツじゃなくていいのか?」 「ラフな服装で来てくださいって、案内が来ていたでしょう?」 ラフな格好で? 首をかしげながら、妻に急かされ、そのジャケットを羽織る。 聞き慣れない車のエンジン音、しばらくして呼び鈴が鳴る。 「お迎えにまいりました」 もう、こんな時間だったのか。迎えの者の手を借り、車に乗り込む。 「では、主人をよろしくお願いします」 車は走り出す。見送る妻の姿が小さくなり、わし

        • 命乞いする蜘蛛(毎週ショートショートnote)

          ――自分に近づくものを見たら、急いでその場を離れるのですよ。 生まれたばかりの私達に、母はそう叫んで私達を送り出し、何十、いやもしかしたら百か。ともかく数多くの兄弟と、競い合うかのように四方八方へと散らばった。 暗がりで身を潜める術、食を得るための術、糸を使って遠くに行く術、そして母が教えてくれた生きるための術。そのどれもが、私の身体を大きくしていった。 その日は春の陽気が一段と強く、久し振りに満足な食にありつけたのもあって、葉の上で微睡んでいた。 と、突如、私の身体が持ち上

        春ギター(毎週ショートショートnote)

        マガジン

        • 毎週ショートショートnote詰め合わせ
          28本

        記事

          桜回線(毎週ショートショートnote)

          「急いで。このままだと間に合わないぞ」 去年は早かったと言われたのに、今年は遅いと急かされる。 「待って、待って。まだ手筈が整っていないから」 つくしは生えそろったばかりで、タンポポパラソルもまだまだら。 始まりの四月はもうすぐなのに。 早く早く。 小さな花たちが。 早く早く。 冬を越した虫たちが。 まだか、まだか。 雷と共に春一番が駆け抜けて、 「待たせてごめん」 海の彼方からツバメ達が運んできたそれを、 「あとはまかせろ」 大小様々な鳥たちが、小枝にそれを絡ませ巣を作る。

          桜回線(毎週ショートショートnote)

          魔女の事始め(毎週ショートショートnote)

          魔女と鉄は相性が悪い。特に魔法具を作り出す時に使う物はね。ちょうどお前に貸し与えた草刈り鎌、研ぎ直しても切れ味が悪くなってきただろう。いい機会だ、鉄物を魔法具に変える儀式の手順を教えてやろう―― 魔法見習いになって五年、月の満ち欠けに合わせた生活になれ、よく使う薬草の刈り取り、どの部分をどのように処理し、どう保存するのか覚え、簡単な薬を任されるようになってきたところ。 鉄物を魔法具に変える儀式への同行を許されたということは、いよいよ一人前の魔女になる時期が迫ってきた証拠。

          魔女の事始め(毎週ショートショートnote)

          宮(毎週ショートショートnote)

          姫様はお礼と称し酒宴を開く。艶やかな舞い手に壮美な奏、頬がおちそうなご馳走の数々、そうして姫様自ら酌をする。宮の外の話を問いながら。 客人が目覚め、酒宴が開かれ酔い眠るまで、毎日、毎日、毎日。 その酒宴の影で、宮に仕えしものは、新たな舞い手を探し、ご馳走となるものを探し、酒に浸す薬草を集め、客人様の寝床に香を焚く。毎日、毎日、毎日。 客人が、そろそろ家に戻りたいと言いだしたとき、姫様をはじめ宮に仕える皆から、ほうと溜息が漏れるのは毎度のこと。 客人に酒宴という快適な日々の終わ

          宮(毎週ショートショートnote)

          チョコ届け(毎週ショートショートnote)

          テーブルの上に買い集めた材料を並べる。ビターにミルク、抹茶にストロベリーにホワイトチョコ、それにシリコンの型。 それぞれのチョコを刻み湯煎で溶かす。一番簡単で失敗が少ない溶かして型に流すだけのチョコレート。 だけど、ただ溶かして作るだけでは味気ないから、二層チョコとマーブル模様の二つを作る。 まずは二層チョコから。溶かしたチョコを型に流し込み、型にチョコがへばりつかせ型をひっくり返し、大理石の板の上に余分なチョコを落とす。そうして器状になったチョコをしばし放置。 その間に、大

          チョコ届け(毎週ショートショートnote)

          54字の宴 チョコレート

          こちらの企画に参加です。 (ばったばたしてギリギリだわ)

          54字の宴 チョコレート

          淡雪羹(毎週ショートショートnote)

          ツノ、ツノ、ツノ、立て、立て、立て。 ハンドミキサーが壊れた。よりによってこの日にハンドミキサーが壊れた。 家電量販店に買いに行けばいいのだが、今日のこの日今年最後に作る和菓子で、開店までに用意しなければいけない。 淡雪羹。春先の雪をイメージしたその和菓子は、冬が終わり春を告げる節分祭の休息のお茶請けにと、東館様より毎年うけたまわる。 この節分祭が終わったら、新しいハンドミキサーをと考えていたのだが、その節分祭の朝に壊れた。 壊れた物は仕方ない。開店までに注文の品を作ることに

          淡雪羹(毎週ショートショートnote)

          ウェザーメイク(毎週ショートショートnote)

          「まだかな、まだかな」 「あともう少しだよ」 五歳になったばかりのちぃちゃんは父さんの手を握り、その父さんは手にしたスマホを時々見ながら答える。 「ほら、中継が始まったよ」 父さんはしゃがみ、ちぃちゃんにその画面を見せた。 「あ、かつ兄だ」 ちぃちゃんの二つ年上のかつ兄が手をふる。色違いのコートに毛糸の帽子、指先だけあいた手袋。それにふかふかの耳当て。ちぃちゃんが今居る場所よりも寒いからだろうか、吐く息が白い塊となって映り込む。 「うわっ、思ったよりも大人数だな」 かつ兄と同

          ウェザーメイク(毎週ショートショートnote)

          舞台提供者に親愛を込めて(毎週ショートショートnote)

          結成当初の観客は数えるほどだったのに、回を重ねる毎に観客が増え、今では出演者目当ての観客も増えてきた。 開演後にSNSで感想を語られる様を楽しみにしているのだが、偽りの支援者、♡のゾンビが増えてきた。この様子だと、人気の出演者のSNS投稿に、青の木霊に異国語で空白の感想が書き込まれるのは時間の問題。 そこで周年祭の舞台の告知投稿から、仕掛けてみることにした。 主催者の名前にちなみ、カニばさみと名付けたそれは、主催者、出演者、それに観客にとって親愛なる舞台を護る、縁切りばさみで

          舞台提供者に親愛を込めて(毎週ショートショートnote)

          はじめてのスマホ(毎週ショートショートnote)

          長方形に合わせ貼り付けたデコパーツ。出来上がったその時は、うまくできたものだと自画自賛した。けれど時間が経つにつれて乱雑さが目につくようになって、新しく造り直したくても、100均一でスマホカバーなんてないAndroidでは、カバーを着せ替えることなんてできない。 iPhoneにすればよかったとぼやき、壊れてもいないのにスマホを買い換えるなんて言えない。仕方なくデコパーツを剥がし、別のパーツを貼り付け造り直して使い続けた。 「ああ、こんなところにあったのね」 ベッド下の引き出し

          はじめてのスマホ(毎週ショートショートnote)

          亡郷(毎週ショートショートnote)

          鬱蒼と茂る木々が途切れ、視線いっぱいに水辺が広がった。 「あっ!」 目の前に広がる景色が、俺が幼い頃から繰り返し見る夢の中の景色とそっくりだったからだ。 「窓を開けていいか?」 「あぁ」 走る車のスピードが、さらに遅くなる。 「どうだい、でっかいだろ?」 助手席の窓から見る景色は、夢の中の景色と重なるが、開け放たれた窓からは潮の臭いはない。それに夢で見る景色は日本の、いや世界のどこを探してもないと断言できる。 車一台がすれ違えるほどの石畳、夜に近づくと石畳の両脇が淡い虹色に輝

          亡郷(毎週ショートショートnote)

          山猫の依頼(毎週ショートショートnote)

          「やぁれ、これは山猫の依頼だね」 農村部からの依頼は、手間がかかるものが多い。たとえば、遺産相続の為に亡くなられた方の家系図を紐解くと、その方の両親のどちらかに死亡の印がないまま、埋葬されているということがある。 逆算して歳が百を超えていると、さすがに生きていないだろうと、その修正が行えるのだが、厄介なのは亡くなられた方の第三親族にあたる方の中に、戦前の移住政策で亡くなられた両親に土地を預けたまま便りが途絶え、土地の所有者が明治生まれの方のまま、更新されていない。 このような

          山猫の依頼(毎週ショートショートnote)

          戦場の数え歌(毎週ショートショートnote)

          一、十、百、千、万~♪ 集まった彼らを数えながら歌う。 億、兆、京、垓……♪ この辺りの単位になると、無限大数まではいかないだろうが、まぁこれだけの人が集まったものだ。 うぉんと唸る音と広がる波紋と共に、また人がバラバラと堕ちてくる。 ――さて、あの中から相応しい者は、どれくらいいるだろうか。 にぃ、しぃ、ろく、はちのとお…… やれやれ、あれだけ居たにもか変わらず、招き入れられそうなのはこれだけか。しかも、どれもドングリの背比べてまはないか。 ああ、見るからに心震える戦士に、

          戦場の数え歌(毎週ショートショートnote)