魔女の事始め(毎週ショートショートnote)

魔女と鉄は相性が悪い。特に魔法具を作り出す時に使う物はね。ちょうどお前に貸し与えた草刈り鎌、研ぎ直しても切れ味が悪くなってきただろう。いい機会だ、鉄物を魔法具に変える儀式の手順を教えてやろう――

魔法見習いになって五年、月の満ち欠けに合わせた生活になれ、よく使う薬草の刈り取り、どの部分をどのように処理し、どう保存するのか覚え、簡単な薬を任されるようになってきたところ。
鉄物を魔法具に変える儀式への同行を許されたということは、いよいよ一人前の魔女になる時期が迫ってきた証拠。

いつものように依頼人に薬を届け、雑貨店に御守りを卸し、最後に立ち寄ったのは町外れの鍛冶屋。店に入るなり、注文の品は出来ているよと、油紙に包まれたそれが出された。
師は油紙越しに草刈り鎌を手に取り、その出来映えに感嘆の声をあげた。

鉄物を魔法具にする儀式は三日月の刻。
師は油紙に包んだ草刈り鎌を両手に持ち、箒に跨がり黄昏の大空へと舞う。
慌てて師の後を追って空を舞う。地上に広がる家々が豆粒のように見えるくらい舞い上がると、師は三日月に向かって油紙に包まれたまま草刈り鎌を捧げる。すると、三日月から細い細い糸のような光がそこに注がれる。
いいかい、よくごらん。鎌の刃が月光色に染まっていくだろう? 鉄物全体が月光色に染まるまで、何度も儀式を行うのだ。明日からは、お前がそれをやるよ。

師から油紙ごと手渡された草刈り鎌が魔法具になるのは、おそらく満月の夜。魔女は新月に事の始めの準備を行い、満月に事を始めるのが慣わしだから。


お題はこちらの「三日月ファストパス」から。