祝宴(毎週ショートショートnote)

真新しいシャツに袖を通し、クリーニングから帰ってきたばかりのジャケットを手渡された。
「スーツじゃなくていいのか?」
「ラフな服装で来てくださいって、案内が来ていたでしょう?」
ラフな格好で? 首をかしげながら、妻に急かされ、そのジャケットを羽織る。
聞き慣れない車のエンジン音、しばらくして呼び鈴が鳴る。
「お迎えにまいりました」
もう、こんな時間だったのか。迎えの者の手を借り、車に乗り込む。
「では、主人をよろしくお願いします」
車は走り出す。見送る妻の姿が小さくなり、わしの家が小さくなり、汗水垂らして働いた田畑が遠くなり、辿り着いたのはどこぞの公民館か。
「着きましたよ」
建物に入ると、わしと同じくぐらいの年寄りが何人もテーブルに向かい合って座っていた。
ああ、そうか。わしは会合に呼ばれていたのだった。
「自己紹介をお願いしますね」
わしはうなずき、話し出す。
まずは自分の名前。どういう生い立ちだったかを語っているうちに、どこからかドンドンと響く太鼓やコンコチコンと鳴り響く鉦、甲高い横笛の音に……
ああ、祭りだ、祭り。
祭唄に祝唄。
酒だ、酒だ、酒を振る舞い酒だ。
さあ、吞め、吞め。今日は祝祭の日。


お題はこちらの「深煎り入学式」から。