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自店が提供しているサービスってなんだろう?

先日、ある企業の食品開発担当さんとお話しする機会がありました。
その中で高齢者の食事についての事例を教えてくださったことがあります。

当たり前のことですが、人間の身体能力は年齢と共に変化します。
子供や若年世代と我々40代、50代の人間が同じ速さで100メートルを走ったり、高く飛んだりできないのと同様に、我々世代と高齢者と呼ばれる世代の人たちともその身体能力には違いがあります。

それは行動や運動能力の違いというよりも身体機能そのものが変化していくという事です。そのために日常生活のすべての面においてその違いが影響してくる事になります。

我々飲食店のメインの仕事は「食事の提供」です。となるとただ「食べる」という行為一つを取り上げて考えるだけでも、そこには我々中高年世代とそれ以上の世代の人たちの「身体機能の違い」が大きな影響を与える事になります。

§加齢に伴う身体機能の低下

食事における身体機能の低下の観点で考えると、まず頭に思い浮かぶのが飲み込む力が衰え、うまく飲み込めなくなる「嚥下困難」や「嚥下障害」です。

嚥下能力が低下する原因は大きく3つほどあると言われています。

(1)自分の歯が少なくなる
厚生労働省の調査によると、80~84歳では男女ともに6割弱、85歳以上になると男性は約7割、女性は約8割の人が自分の歯は19本以下しか残っていません。
自分の歯が少ないと、噛み砕く力が弱まり、食物を飲み込みやすい大きさにすることができなくなります。
(2)唾液の分泌が少なくなる
加齢によって、唾液の分泌が少なくなると水分が不足し、うまく食塊(噛み砕かれた食べ物のかたまり)が作れなくなります。そのまま飲み込もうとすると喉のあたりで食物がバラバラになり、それが気管に入ってしまうことが。これを「誤嚥(ごえん)」といいます。
(3)のど仏を動かす筋力が弱くなる
食べたものを飲み込むもうとするとき、喉のまわりの筋肉がのど仏を引っ張り上げています。加齢によってこの筋肉が衰えると、のど仏の位置が徐々に下がってきます。
そうなると、飲み込むときに気管を閉じるタイミングが微妙に遅れ、隙間が空きます。そこから食物が入り、誤嚥を起こしやすくなってしまうのです。

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高齢者は食事の度にこうした誤嚥のリスクを考えないといけない訳です。
その辺のことを踏まえた上で誤嚥の発生しにくいような調理を加えて食事の提供をする事ができれば、高齢者に不安やストレスを感じる事なく食事を楽しんでもらえるようになるかもしれません。

誤嚥は閉じる前の期間に食物が入る事で発生します。ですので、喉の通りの良い食べ物よりは、比較的喉の中をゆっくりと通過する食物の方が発生の確率は下がります。

具体的にいうと、「あんかけ」や「とろろ」など粘りやとろみのある食物として接種する方が誤嚥を起こしにくいという事です。若い頃のように喉越しの良いつるっっとしたうどんをズルズルと啜るというスタイルとは少し違った、柔らかめのうどんを歯で噛み切って、きちんとしっかりと飲み込む、という味わい方が好まれる可能性は高くなります。

となるとうどん屋のメニューの中に

・「山芋」や「納豆」などの粘りのある食材を使う
・あんかけ系のとろみを生かしたメニューを用意する

こうしたメニューを取り込むことでお年を召した方に喜んでもらえるお店づくりに繋げる事ができます。

また、嚥下力が低下する事についてこんな風はご意見もあるようです。

「食事中に思わず咽せて咳き込むことも多くなったので、みんなと食事をするのに気を使うようになってしまった。個室とかがあると周囲の目を気にせずに食事ができて助かります。」

言われてみると、確かにそうだな、と納得の意見ですよね。我々が自身のサービスを向上させるにおいて色々なシチュエーションを想定してみるにしても、中々、この辺のことまでは思い浮かびにくいのではないでしょうか?

高齢者の方にとって、身体機能の低下は実際に食事という行為によってもストレスを感じることもあれば、その行為の結果、周囲の人に迷惑をかけるかもしれないという不安にもさらされる事になります。

そして、その不安な気持ちがあるが故に外食に出ることが億劫になったり、人と一緒に食事を楽しむことができなくなってしまう恐れが高まります。

個室を準備したり、ドライブスルーやテイクアウト商品を準備することで、一人で誰に気兼ねするでもなく食事を楽しめる場を設ける事でそうした不安を取り除いてあげることで新たな需要の掘り起こしが見えてくるかもしれません。

§飲食店が提供しているものの範囲

ここまで考えてみるとやはり飲食店の機能は決して「食事の提供」だけではない、と言えます。

飲食店は「楽しく食事ができる機会を提供する場」つまり「居場所づくり」までも含んだお店作りを考えることでお店に新たな価値を創造できるのではないでしょうか?

美味しい食事と共に、「高齢者が一人でも安心して楽しく食事ができるお店」こうした信頼を得ることで、息長くお店を利用し続けてくれるお客様の増加につながるのではないかと思います。

これは飲食店に限った話でもないと思います。

「自社の提供しているサービスの本質はなんなんだろう?」

そこを深く掘り下げることで、自分のお店の中に眠っている価値を見出す事ができるかもしれません。お店で売っているものは本当に商品だけなのでしょうか?
時間や空間、接客など目に見えないモノであったとしても、それに対して喜んでくれる人がいるのであれば、それは自社の価値として認識して、その後打ち出していくべきだと思います。

今回はターゲットが高齢者を例に取り上げてお話しを進めましたが、他にもいろんな分野に応用できそうなお話しです。
何か、皆様のアイデアづくりの手助けにでもなれば幸いです。

今週もありがとうございました!


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