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【学習理論】馴化と消去

以前古典条件付けオペラント条件付けというものをご紹介しましたが、意図せず条件付けが成立してしまっていることがあると思います。例えば・・・

【古典的条件付け】
玄関のチャイムの音=見知らぬ人がテリトリーに入ってくる不安
花火の音=大きな音に対する嫌悪と不安

【オペラント条件付け】
玄関のチャイムの音=縄張りを侵されまいと吠えて撃退しようとする
飼い主がテーブルにつく=おいしいものがもらえると期待して、飛びついてくる、吠える

これらの誤った学習により、犬の問題行動が顕在化してきます。この記事では、一度学習したこうした条件付けを弱める方法をご紹介します。


1.どうやって一度学習した条件付けを弱めるの?

実は条件付けは先に成立したほうが強いということがわかっています。例えば・・・

飼い主=おいしいものをくれる=嬉しい・楽しい

と先に学習していれば、飼い主に叱られたり、多少嫌なことをされても、「飼い主=嬉しい・楽しい」と先に学習しているため、

飼い主=怒られる=嫌だ、不安

とならないんですね。嫌なことがあっても、変わらずすり寄ってくるのは、先に「飼い主=嬉しい・楽しい」と学習できているからです。

でも、この刺激が犬にとっての不安や恐怖につながっているのであれば、その負の感情を和らげてあげたいですよね。そこで、刺激への馴化と条件付けの消去を行っていきます。


2.刺激への馴化

馴化というのは、今まで反応していた刺激に反応しなくなる=慣れるということです。例えば、家にやってきたとき、TVの音や家の前を通る救急車に反応を示していた子犬が成長するにつれて、慣れてきますね。これはこの刺激があっても、「何も起きない」「無害だ」「重要ではない」と学習をするためです。これは、刺激の強さを報酬の価値を変えながら、段階的に馴化をさせていきます。例えば、花火の音が怖い・・・というワンちゃんの場合、こんなトレーニングをします。

1.花火の音をYoutubeなどで探して、音量0で再生し始めます。
2.少しずつ音量を上げ、犬がそわそわし始める音量を確認します。
3.2の音量でもそわそわしなくなるというのを最初のゴールとし、その少し手前のボリュームで音を5分くらいかけます。終わったらおいしいものをあげます(途中で何回かわけてもOKです)。これを数回/日実施し、1週間くらいつづけてみましょう。
4.2の音量をかけてみます。そわそわしなければ、5に進みます。そわそわしたら、3に戻ります。今度はおいしいもののランクを少し上げてみてください。
5.2の音量からさらにボリュームを上げて、そわそわし始める音量を確認します。
6.5の音量でもそわそわしなくなるというのを次のゴールとし、その少し手前のボリュームで音を5分くらいかけます。おわったらおいしいものをあげます(途中で何回かわけてもOKです)。これを数回/日実施し、1週間くらいつづけてみましょう。
7.5の音量をかけてみます。そわそわしなければ、実際の花火が聞こえる音のレベルまで同じ手順で慣れさせていきます。そわそわしたら、6に戻ります。今度はおいしいもののランクを少し上げてみてください。

Tip
ここで重要なのは、犬のペースで進めるということです。このくらいなら大丈夫でしょ!と思って、飼い主さんがステップを飛ばしてしまうと、かえって恐怖を呼び起こしてせっかくの慣れてきたのに、もとの状態に戻ってしまう危険があります。また、ご褒美の価値が高ければ高いほど、「花火の音=不安」が「花火の音=おいしい=楽しい!サイコー!」に書き換わっていきますので、うまくステップが踏めないときは、ご褒美の価値をあげてください。
また、ここでご紹介しているのは、「系統的脱感作」と「拮抗条件付け」という手法です。


3.消去

事象A=事象Bの関係性が崩れていくことを消去と呼びます。「テーブルに飼い主さんがつく=おいしいものがもらえると期待して吠える」なんてこと、ありますよね。「おいしいものがもらえるわけではない」ということを学習させたい場合は、「テーブルに飼い主がつく=おいしいものがもらえる」ということ忘れさせたいので、この手順を使います。ただし、消去については二点注意しなくてはならないことがあります。

①消去の手順を行ったとしても、事象A=事象Bの関係性を忘却するわけではありません。関連度が弱くなるということです。なので、今後もその感情や行動が呼び起こされる可能性があるということに留意するようにしましょう。

②オペラント条件付けの消去を行っている間に、自発的回復が起こり、一時的な条件反応の増大が起こります。これを消去バーストと呼びます。このときに、飼い主が我慢できずに従来の対応をしてしまうと、関係性が崩れず、消去に失敗します。どんなことがあっても、従来の関係性を維持させるような行動を取らないようにしましょう。

それでは「テーブルに飼い主さんがつく=おいしいものがもらえると期待して吠える」という問題行動がある場合の具体的な消去の手続き方法をご説明します。ここでも「系統的脱感作」と「拮抗条件付け」という手法をつかいます。

1.飼い主がテーブルにつく=食べ物がもらえると学習させないために、決して落としたりしないように環境操作を行いましょう。また、子どもがいたりで落とさないようにするのが難しい場合は、ケージの中にいれておきましょう。
2.飼い主が食事以外でもテーブルにつくようにし、「テーブルにつく=おいしいものがもらえる」わけではないということを教えます。
3.飼い主がテーブルについて食事をしている間、犬が吠えたり、ぴょんぴょんしても、無視します。とにかく徹底的に無視をします。目線もあわせない、声もかけない、何もしないようにします。
4.食事中に犬がおとなしくする瞬間があったら、その時においしいものを与えて行動を強化します(決してテーブルの上から人間の食事を与えないでください。犬のご褒美ボックスから出すようにしましょう)
5.フセ+マテなどのトレーニングができる場合は、そのコマンドを使いましょう。できた場合は、ものすごいご褒美を与えるようにします。

Tip
何日も犬の懇願行動を無視していると、犬はいつも通用していた方法が通用しなくなることにフラストレーションを感じ、常時よりも激しく吠えたり、ぴょんぴょんしたり興奮した様子を見せることがあります。これが消去バーストです。この時に決して屈してはなりません。ここであげたら消去が完了せず、もう一度最初からやらなくてはいけません。。。この消去バーストの減少が発生したら、関係性が消去されるまで間もなくということです。もう少し頑張ってみてください!

4.まとめ

刺激自体に慣れさせることを馴化、刺激がトリガーとなって「A=B」となっている場合に、その関係性を崩すことを消去と呼びます。この二つに共通するのは、系統的脱感作拮抗条件付けというものです。この理論を使いながら、犬の問題行動を減らし、さらに犬にとって不安や恐怖の種を一つでも取り除いていってあげてください。


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