『天気の子』考察批評評論まとめ
映画『天気の子』の考察・批評・評論で、重要なものを15件掲載します。特に戸谷洋志先生の「なぜ帆高は「僕たちは世界を変えてしまった」と2度言うのか──『天気の子』における自然と責任の衝突」を強くお薦めします。
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※2019年9月8日に、渡邉大輔先生による「父の不在と狂気の物語──『天気の子』試論」の項目を追加しました。
※2019年9月14日に、「なぜ陽菜のチョーカーは壊れ、帆高は高島平に向かうのか【『天気の子』考察】 」と、「須賀は何故窓を開けて水を中に入れてしまうのか?【『天気の子』に隠された謎を読み解く】」の2件を追加しました。
『天気の子』が照らした、社会システムの内と外
1件目はシロクマさんの文章です。2019年7月22日に公開されました。筆者のシロクマさん(精神科医の熊代亨先生)は有名な方です。
そして帆高は家出少年として、陽菜は保護者不在で自活する未成年者として、社会システムからはみ出してしまっている。この作品の主人公とヒロインは「逸脱者」なのだ。
この、美しくて快適な東京の秩序のなかでは、明確な犯罪者だけが「逸脱者」なのではない。身元の保証されていない未成年もまた「逸脱者」である。
出典:『天気の子』が照らした、社会システムの内と外
2件目
【ネタバレあり】『天気の子』感想・解説・考察:新海誠監督がセカイ系に見出した1つの結末
2019年7月19日公開、2019年7月24日更新。筆者はナガさんです。内容はタイトルそのままです。
世界の運命に翻弄される人間として生きるのではなく、世界の運命を翻弄した人間として生きるというところに新海監督は自身の「セカイ系」というジャンルの1つの落としどころを見出したように思えました。
出典:【ネタバレあり】『天気の子』感想・解説・考察:新海誠監督がセカイ系に見出した1つの結末
このページでは『ライ麦畑でつかまえて』を初めとして様々な作品と共通する要素を『天気の子』から抽出し、『天気の子』を多角的に味わうことを試みています。筆者の膨大な知識量が伝わってきます。
3件目
『天気の子』は何を描いたのか。新海誠監督の決断が予想以上に凄かった理由(作品解説・レビュー)
2019年7月21日公開。筆者はアオシバさんです。このレビューは少し複雑で難解です。
本作の「本当の凄さ」は作品の表層に見つかるものではない。この現実世界と地続きでつながっている部分にこそ宿っているのだ。だからこそ、見る人の背景やコンディションによって評価が代わり、賛否が分かれ、人々に「物語られる」――これが最も重要な要素だ――作品になっているのである。
出典:『天気の子』は何を描いたのか。新海誠監督の決断が予想以上に凄かった理由(作品解説・レビュー)
4件目
『天気の子』から“人間性のゆくえ”を考える ポストヒューマン的世界観が意味するもの
2019年7月30日公開。筆者は批評家・映画史研究者の渡邉大輔先生です。
他の考察とは切り口が違います。文芸批評のアプローチが使われています。独自性があります。いくつもの論点が盛り込まれています。ぜひ読んでください。
この文章の一部を私が要約するとこうなります。
『天気の子』がさまざまな面で、今日のポストヒューマン的な表現や世界観に馴染んでいる。ポストヒューマン的な時代に生きるからこそ、現代人は自分たちが人間であることを自覚する。だから現代においては「人間性」の擁護が進んだ。この流れの中で、ハリウッド映画では公共性が表現された。しかし『天気の子』においては、最後に帆高が公共的な社会秩序や厚生よりも私的な思いのほうを選んだ。
5件目
父の不在と狂気の物語──『天気の子』試論
筆者は前述の渡邉大輔先生です。2019年9月6日に発売された雑誌『文學界』2019年10月号に掲載されました。
脚注まで含めると21ページの大ボリュームです。難解です。
渡邉大輔先生は、まず新海誠監督の複数の作品に「父の不在」があることを指摘しました。続いて『天気の子』に対して否定的な解釈を2点挙げました。1点目に「日本的で微温的な保守性の感覚」、2点目に主人公の帆高が当初は責任を引き受けようとしたが、最後には自己愛的な決断をしたこと。以上2点の問題を「父の不在」と結びつけました。
渡邉大輔先生は批評家の石岡良治による解釈を参照し、21世紀のアニメーション表象は、表層の情報量過多と、隠された深層の意味=理想の空洞化をもたらしている、とまとめました。
さらに渡邉大輔先生は松本卓也先生、ドゥルーズ、ラカンらによる議論を参照しましたが、この部分は私には難しすぎました。
文章の最後をこう締めています。
したがって、わたしたちに求められるのは、単に新海の世界における「父の不在」をむやみに批判することではない。まずは「ポストヒューマン」の「享楽社会」のなかで、人間性に与えられる新しい倫理や社会の意味を考えることだろう。少なくとも、『天気の子』をはじめとする新海のアニメーションは、そのための有益な指標となるはずだ。
出典:渡邉大輔「父の不在と狂気の物語──『天気の子』試論」『文学界』2019年10月号、P.270
6件目
なぜ帆高は「僕たちは世界を変えてしまった」と2度言うのか──『天気の子』における自然と責任の衝突
2019年3月23日公開。筆者は戸谷洋志先生です。戸谷洋志先生は哲学研究者であり、私が以前からお世話になっています。
数多くの『天気の子』批評の中で、私は戸谷洋志先生の批評を最も強くお薦めしています。考察が深く、他の方とは着眼点が異なり、しかも分かりやすい。
戸谷洋志先生は「ポリコレ的ネット社会は人間から責任の主体になる可能性を奪っている」「今ある社会を自然なものとみなすことで、大人たちは自分がその社会をもたらした責任を担わなくなる」と述べました。
私(街河ヒカリ)なりに解釈すると、『天気の子』で主人公は「大丈夫」と言うが、「自分たちに責任がないから大丈夫」なのではなくて、「責任を引き受けても大丈夫」なのです。
ネットでは「『天気の子』はセカイ系なのか?」を巡った議論が展開していますが、戸谷洋志先生は「セカイ系」とは別の視点から『天気の子』の価値を見い出しています。
戸谷洋志先生は『天気の子』の批評性を肯定しつつも、問題点を3点指摘しました。1点目に、気象操作と拳銃の二つの要素があるため作品の焦点がぶれている。2点目に、帆高と陽菜の出自について説明不足である。3点目に、「魚」や「龍」について説明不足である。
7件目
そこに「孤独」の位置はあるか?――新海誠とRADWIMPS、そして『天気の子』
2019年8月1日公開。筆者は北出栞さんです。
この文書は独自性があります。考察の範囲が非常に広い。なんとBUMP OF CHICKENからドナルド・トランプまで書いています。
北出栞さんは野田洋次郎のソロプロジェクトであるillionとRADWIMPSの違いを考察していますが、ここまで細かく考察した人は、北出栞さんの他にほとんどいないでしょう。
『君の名は。』と『天気の子』においては観客の感情をコントロールする装置がありました。その代表例が「感情グラフ」です。
僕が危惧しているのは、このようにして緻密な時間コントロールによって感情のピークに誘導するという新海の方法論が、RADWIMPSという強力な動員力を持つライブバンドの楽曲と出会うことで、「触覚性の時代」の負の側面……いいね戦争、ドナルド・トランプの時代における世論形成のあり方と、同様の熱狂を引き起こしてしまっているのではないかということだ
出典:そこに「孤独」の位置はあるか?――新海誠とRADWIMPS、そして『天気の子』
北出栞さんは近年のRADWIMPSが「合唱曲っぽく」なっていると指摘しますが、一方でRADWIMPSが「合唱曲っぽいもの」とは違う曲も作っていることを重要視しています。
合唱のようにみんなで感情を共有する時代だからこそ、孤独が重要なのではないか?いいね戦争のように触覚性=リアルタイム性の価値が主流である現代だからこそ、意味のズレ、意味の多重性が重要なのではないか?
「感情グラフ」に基づく緻密なコントロールによって動かされてきたキャラクターも、映像には描かれていないところで、誰とも共有できない「孤独」を抱えている。
出典:同上
北出栞さんの文章は、鋭い。他の『天気の子』の考察・批評・評論とは切り口がまったく違います。
8件目
『天気の子』は縄文映画の傑作だ
2019年8月6日に公開されました。筆者は縄文ZINE_noteさんです。
『天気の子』には縄文要素が多数あるそうです。まず、天気を倒す敵と捉えず、天気に対して祈ることが縄文要素です。
空に浮かぶ謎の水の生き物が縄文中期の長野(新海監督は長野出身)・山梨でしばしば土器に描かれていた想像上の生き物「ミズチ」=水の神さまを彷彿とさせる
出典:『天気の子』は縄文映画の傑作だ
あの龍のような生物が何だったのか、『天気の子』の作品内ではほとんど説明がありませんでしたが、この文章を読むと想像が膨らみます。つまり空が生きていることを表現していたのです。
9件目と10件目
なぜ陽菜のチョーカーは壊れ、帆高は高島平に向かうのか【『天気の子』考察】
須賀は何故窓を開けて水を中に入れてしまうのか?【『天気の子』に隠された謎を読み解く】
9件目と10件目の作者はどちらも天候さんです。2019年8月28日と、2019年9月14日に公開されました。
特に「須賀は何故窓を開けて水を中に入れてしまうのか?【『天気の子』に隠された謎を読み解く】」は長文で、論理的で、独自性があります。登場人物の行動の理由と新海誠監督の意図を読み解くには、「円環」と「死と再生」と「空気」が有効であると考察しています。フィクションなので登場人物の考えを知ることはできませんし、新海誠監督の意図が何なのかは正確には分かりませんが、しかし作品世界と監督の意図を超えてたところにある解釈可能性を考えることに、批評と評論のおもしろさがあると、私(街河ヒカリ)は思います。根拠もなく勝手に妄想するのではおもしろさがありませんが、天候さんはこの2件の文章において、作品内と作品外の両方から根拠を示しているので説得力があります。なんと山本七平まで参照しています。
11件目
雑誌『CUT』2019年8月号
新海誠監督、RADWIMPS、醍醐虎汰朗、森七菜、三浦透子へのインタビュー記事があります。
12件目
天気の子パンフレット
画像上:天気の子パンフレット
映画館で天気の子パンフレットを買うことができます。新海誠監督、声優、RADWIMPSの発言が掲載されています。特に監督の発言は読む価値があります。パンフレットは2冊あり、vol.2には観客からの質問と新海誠監督の回答が掲載されています。
画像下:天気の子パンフレットvol.2
13件目
『天気の子』新海誠監督が明かす“賛否両論”映画を作ったワケ、“セカイ系”と言われることへの答え
2019年8月10日公開。取材・文は成田おり枝さん。
新海誠監督へのインタビュー記事です。全文無料です。
14件目
天気の子は君の名は。と逆に振り切った
私・街河ヒカリが映画公開初日の2019年7月19日に執筆と公開をした記事です。全文無料です。
15件目
天気の子の感動と謎と考察
私・街河ヒカリが映画公開初日の2019年7月19日に執筆と公開をした記事です。全文無料です。つまり私は公開初日に記事を2本書きました。
以上です。このページに掲載してほしい考察・批評・評論があれば教えてください。本、学術論文、ネットの記事、動画、いずれも歓迎です。
ちなみにこのページのヘッダー画像は代々木会館です。解体前に私が撮影しました。
ところで、noteの閲覧にMicrosoft Edgeを使うと、目次に不具合があるようですね。目次をクリックして飛んだあと、カーソルを動かすと元の目次に戻ってしまいます。他のブラウザでは問題ないようです。
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