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#4 ハーバードの「幸せの授業」を思い出す

2018年11月のある日、夫が、

「Your mission is to be happy(君の使命は、幸せになることだ)」

と言い出した。

その言葉をきっかけに、「デンマークでもうちょっと幸せになる」というプロジェクトを始めたのは、迫り来る冬を前に、このままではまずいという危機感があったからーーというのは、連載1回目で書いたとおり。

だけど、実はもうひとつ理由があった。私はかつて「幸せ」について大学で学んだことがあり、”その方面”には強いと思っていただけに、夫の言葉がショックだったのだ。


大学史上最大の人気を集めた「ポジティブ心理学」

今から11年前、私は会社から1年間の時間をもらい、ハーバード大学の大学院で行政学を学んでいた。

記憶に残る授業はいくつもあるが、中でも強い印象を残したのが、聴講生として通っていた「Posivite Psychology」(ポジティブ心理学)と呼ばれる授業だった。簡単に言うと、幸せについて、科学的根拠に基づいて教える授業、である。(ちなみに、間違われやすいが「ポジティブ思考」とは全くの別物)

「幸せ」や「成功」について語られる自己啓発のビジネスは、米国でも一大産業になっていて、関連する書籍は書店でも大きなコーナーを占めていた。ただ問題は、科学的根拠に基づいた本とそうでない本が同じ本棚に並んでいるという点だ。

自己啓発本について研究しているスクラントン大学のノークロス教授によると、実に95%は効果について科学的な根拠がないらしい。こうなると、玉石混交というより、ほとんど石、である。
 
そんな状況の中で、ハーバードで始まったポジティブ心理学の授業は、大学の長い歴史の中でも登録学生数が最多になった人気の授業として、米メディアでも話題になっていた。ハーバードで幸せについて教えるなんて、どんな授業なんだろうか、と冷やかし半分で出かけていったが、初回の授業が終わる頃には、すっかり魅力にとりつかれていた。

授業を受け持っていたのは、タル・ベンシャハーという、若いイスラエル出身の先生。講義が行われたのは、1000人以上収容できるコンサートホールで、会場はすでにほぼ満席である。

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