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マルジョレーヌ!!

「ぼくは大人になったらケ―キ屋さんになりたいです。マルジョレ―ヌが好きです。」

小学1年生。息子の初めての授業参観は、画用紙に将来の夢の絵を描き、前に出て一人ずつ発表するというものでした。彼は画用紙いっぱいに、大好きなマルジョレーヌというケーキの絵を描いたのでした。
当時、嫌々ながらも3才上のお姉ちゃんと公文の教室に通い、10枚のプリント課題をやり終えた帰りの息子のお楽しみは、ケ―キ屋さんで大好きなチョコレ―ト味のケ―キを買ってもらうこと。
そのケ―キは、郊外の住宅地に佇む、小綺麗で、シンプルだけど伝統にこだわった正当派のフランス菓子をおく洋菓子店のマルジョレ―ヌでした。ミルク味のクリームの層で仕立てた、優しい味のチョコレ―トケ―キです。
マルジョレ―ヌに恋い焦がれる息子は、その誘惑に抗えず、一年生の間は公文を頑張りました。
20年前。まだ我が家が茨城の某市で暮らしていた頃のことです。
二年生になると同時に東京へ引っ越し、マルジョレ―ヌも公文の課題も彼の生活から消え失せてしまいました。
ついでに、ケ―キ屋さんになるという素敵な夢も……

私はケーキが好きです。
住んでいた場所の良い思い出の大半って、そこで食べたケ―キの味だと思うのです。
嬉しい、めでたい、ご褒美の味。
幼少期から官舎を転々とし、結婚後も夫の職業がら、というか気性のためか転居が多い私には、住んだ町ごとの忘れられないケ―キ屋さんとケ―キがあります。

幼い息子を魅了したその店は、近所唯一にして最高のケーキ屋さんでした。
子供達の誕生日会には決まってデコレーションケーキをお願いし、10月の誕生日は、まだ苺が出てくるには早く、運よくいい苺がその日に入ったらたくさんのせましょう!などと店主の奥様と相談したものです。
そして、息子の思い出も重なり、マルジョレーヌはその店のなかでも、また私の人生のなかでも、特別なケ―キとなりました。
思いがけない場面で、私はその特別なケーキとの再会を果たします。

2015年放送の朝の連続ドラマ「まれ」。土屋太鳳さん演じる主人公が、パティシエとして成長する姿が描かれました。ケ―キが大好きな私には、毎週のテ―マとなるケ―キが楽しみでした。
能登で洋菓子店を開いたまれちゃんが、高価になっても、ひとつだけはこだわりのフランス菓子を置きたいと作った、一番最初のケ―キが、なんとマルジョレーヌだったのです。
懐しさのあまり、テレビに向かって思わず「マルジョレーヌ!」と叫んでしまいました。
ケーキ好きを自認しながら、あまり詳しくはなく、マルジョレーヌという、可愛らしい女の子の名前のようなそのケーキは、かつて子供たちと通いつめた洋菓子店のオリジナルかと思っていました。だから、もう会えないのかと。

おいしいは心に刻まれます。
実は泣きながら取り組んだちょっと苦い思い出も、甘いご褒美の美味しいケーキが良い思い出に塗り替えてくれます。

由緒正しい伝統のフランス菓子、マルジョレーヌ。この20年間、数限りない洋菓子店でいくつものケーキと出会いました。しかし、なぜかマルジョレーヌの姿は見たことがないのです。
また、会えるでしょうか。あの、まろやかで香り高いマルジョレーヌに。

食べたいよぉ〜、マルジョレーヌ!!


#マルジョレーヌ
#思い出 #ケーキ#スイーツ


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