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バベる

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記事一覧

BABEL法施行におけるスピーチより抜粋

__________であるため。◯月◯日よりBABELを各都道府県で稼働させていきます。

私は数年前に娘を殺されました。殺された理由が誰でも良かったという身勝手な理由によるものでした。その1年後。息子が殺人を犯しました。被害者遺族と加害者家族に同時になってしまったのです。色々な気持ちの葛藤がありました。私は普通でありたい。普通の特別さ。普通の難しさ。それを理解した上で普通であろうとして生きて来ま

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バベる 弓削 空

ついにやって来た。BABEL診断の日。人生に一度だけの朝は生憎の雨模様だ。俺が起きるまで降っていたのだろう。二階の窓から見ると地面が濡れていた。
「さてと」
BABEL診断とはどんなモノなんだろうか。痛くはないらしいが。具体的にバベられたらどうなってしまうのだろうか?当事者に話は聞く事が出来ないから全容は知り得ないが。俺は素早くベッドから起きて身支度を整えた。制服を着替える為に開けたクローゼットの

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バベる 弓削 空の場合④

「さてと」
彼女の。あっ。元彼女の右手を優しく握った俺はコンテンポラリー?っていうのか?ダンスを踊る。ダンスなんて踊った事も習った事も無いけど。元彼女の右手を繋ぐといてもたってもいられなくなって踊ってしまうんだ。高揚感。そうだね。高揚感。元彼女が好きだった曲を頭の中で流しながら。母親に気付かれない様に静かにでも激しく。これが俺の儀式なんだ。右手をどうしたかって?そうだよ?切り落とした。彼女はどうし

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バベる 弓削 空の場合 ③

「さてと」
美味しいラーメンを堪能して家に帰って来た。車のライトが家の表札をわずかに照らし出した。あらかじめ出しておいた鍵を慣れた手つきで鍵穴に滑り込ませた。当たり前だけど俺は帰って来たら先ず靴を脱ぐ。靴を脱いで最初に向かうは洗面所だ。そう。もちろん手を洗う為だ。洗面台の鏡に映る自分をなんとなく見る。自分が好きなワケじゃあないけど。皆そうだろう。うん。しっかり疲れた顔をしてやがる。彼女とお別れして

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バベる 弓削 空の場合②

「おぉ。ここだよ。ここ!」
蔵木オススメのラーメン屋に到着した様だ。
おぉ。さっきまでビシソワーズとか言ってた奴が案内してくれたとは思えない程の
「ザ・汚い店」
蔵木が先に俺の思考を読んだ様に口にした。
「まぁ、店構えは汚いけど中に入ってみろ?見た目通り汚いから。でも味はお墨付きね。あっ。俺のね」
蔵木がまくしたててくる。
「ビシソワーズが聞いて呆れるよ」
「まだビシソワーズに囚われていたのか。哀

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バベる 弓削 空の場合 1

「パンはパンでも食べられないパンはなぁーんだ?」

おいおい。高校3年にもなって投げ掛けたい質問かよ。

「食べられるパン以外のパン」

我ながら会心には程遠い解答だがまぁ良いさ。

「うわー。冷めた答え。ビシソワーズよりも冷めてやがるな」

「ビシソワーズって何だよ」

彼女とお別れして5ヶ月になる俺にとっては冷たいスープなんて縁の薄い食べ物だ。ここ最近はこの蔵木とのファストフードやラーメンみた

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バベる

プロローグ

「後悔しない様に生きなさい」
いつだったか親だっただろうか。恩師だっただろうか。それとも子供にかけた言葉だったか。
もう思い出せない。思い出そうともしていないのかもしれない。生きているのに。生きているはずなのに。自分の中の何かを殺さなければ生きてすらいけないのか。
普通に産まれて普通に友達を作って普通に学校に行って。普通にを普通にこなして生きてきたハズだったんだ。普通にしていたハズな

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