バベる
プロローグ
「後悔しない様に生きなさい」
いつだったか親だっただろうか。恩師だっただろうか。それとも子供にかけた言葉だったか。
もう思い出せない。思い出そうともしていないのかもしれない。生きているのに。生きているはずなのに。自分の中の何かを殺さなければ生きてすらいけないのか。
普通に産まれて普通に友達を作って普通に学校に行って。普通にを普通にこなして生きてきたハズだったんだ。普通にしていたハズなんだ。普通は文字通り普通なんだから後悔なんてしないハズじゃないか。
普通にして生きてきた結果私は研究者になった。きっとこれが私の普通の結果なのだ。誰しも普通に生きていれば結果はついてくるハズなのだ。普通から外れようとするから結果が付いて来ないのだ。私は誰より知っているのだ。普通の素晴らしさを。普通の難しさを。きっと誰より知っているのだ。普通であるから誰も普通について調べようとも掘り下げようともしない。蛇口を捻れば水が出てくるのが当たり前だと。雨が降れば濡れると同じ程度にしか普通を捉えない。捉えようとしない。
普通であり続けるのはある意味では特別な事でもあるのだ。あり続けるのは難しい。維持し続ける事は。
嗚呼。だが何故だ。普通であり続けたのに。死ぬまで普通であり続ける努力をしたのに。何故だ。
息子が人を殺した。そして娘が殺された。
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