僕は長野で暮らしたい!

ある時からアダムは「自然の中で暮らしたい」と呟くようになった。『minka』という日本の古い家の写真がいっぱい載ってる本をいつもひとりで眺めていた。

イギリスで出会った私達は愛知県で生活。私の語学学校の友達が日本で陶芸を学びたいのならと陶芸家を紹介してくれたからだ。

スーツケースひとつで何も知らない日本へやって来たアダム。カルチャーショック、ホームシックはすごいものだった。それなのに愚痴も言わず、それが私にとって、つらかった。

でも彼はイギリスに帰るとは言わなかった。日本の文化や習慣に慣れようと必死に取り組んでいた。イギリスから帰国した私も混乱していた。先のことなどまるで見えない毎日。

そしてアダムは「長野に住みたい!」と言い始めた。なぜ長野?私には理解できなかった。私は東京で生活したいとその頃も思っていた。友達も家族もみんな東京にいたし、東京の賑やかさも大好きだったから。

それからアダムは
同じことを呟くようになった。

あ『自然の中で暮らしたい』
よ「遊びに行けばいいじゃん」

あ『古い日本の家に住みたい」
よ「魅力がよくわからない」

あ『陶芸に取り組める場所がほしい』
よ「ベランダに電動ろくろ置いたし」

あ『長野で暮らしたい!』
よ「行ったことないじゃん!」

むむむ。
会話が成り立たない。

そっか、
いちいち反応するから
いけないんだね。

少し放っておくことにした。

でも
アダムさんの独り言は
毎日、続いていった。


毎日毎日、
アダムは同じことを呟く。

「僕は長野で暮らしたい!」

私は東京に住みたい。
友達も家族もみんな東京にいる。

1年離れていたとはいえ、
私の帰国を楽しみに
待ってくれてた人達が
東京にいる。

沢山の人がいて
たくさんのものがあって、
新しい自分にも会える。

私は東京が好きだ。
渡英する前に住んでいた
東中野での暮らしが思い出される。
とても楽しい日々だった。

1年の留学期間が終わったら
予定通りに帰国すると伝えたら
アダムが「僕も日本に行く」
と言った。

いい加減な気持ちで
付き合った訳ではなかった。

でも、
私がイギリスを離れるということは
アダムと離れることだと思っていた。
それは仕方のないことだと思っていた。

予想外のこと、、、
彼は本当に日本にやってきた。

私は帰国したら
東京に住むと信じてた。

それなのに、
ついてきたアダムは
「街には住めない」と言う。

そして陶芸の為に数年の滞在と
考えていた愛知ではなく、
今度は長野に住むと言いだした!

予想外のことは続く。。。

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