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言葉の宝箱0861【迷惑とか、そういうの、どうでもいいんです。まずは自分の命ですよ】


『きのうのオレンジ』藤岡陽子(集英社2020/10/30)


笹本遼賀は胃の不調から受けた検査の結果、医師から言い渡されたのは悪性腫瘍の宣告。
「どうして自分が?」「まだ33歳なのに……」。
検査入院から帰宅した時、郷里の岡山にいる弟の恭平から荷物が届く。
入っていたのは15歳の時に恭平と山で遭難した時に履いていたオレンジ色の登山靴。
それを見た遼賀は思い出す。
あの日の俺は生きるために吹雪の中を進んでいったのだ。逃げ出したいなんて、一度たりとも思わなかった。
ひとりの青年の目の前に突然現れた「病」と「死への恐怖」。その不安を彼はどう乗り越えていくのか。
「弱音を吐かない人は、いつだってひとりで闘っている」
がん宣告を受けた彼と彼を支える家族の物語。

迷惑とか、そういうの、どうでもいいんです。
まずは自分の命ですよ P21

・悲しみよりも、
どうして自分がという悔しさに全身が冷たく強張ってくる。
不摂生をしてきたわけでもなく、
人並に、真面目に生きてきたはずなのに P32

・一分一秒も惜しい。
そんな感じできびきびと歩き去っていく P41

・涙を流すことしかできない自分を情けないと恥じながら、
でも溢れてくる悲しみを抑えられない P95

・思いやりのある言葉を言われたら未練が、
辛辣な言葉を聞かされたら恨みが残る P115

・治療を受ける患者も、患者を支える家族も、
暗くて長いトンネルの中にいる。
そのトンネルの長さを始めに示しておかなければ、
トンネル内のあまりの暗さに進むべき方向を見失うことがある P123

・女こそ仕事は大事じゃよ P127

・故郷と家族はセットだから。
家族と仲がよくない人は、
自分の生まれ育った町もきっと嫌いになるもんよ P129

・病が引き起こす倦んだ熱と、
健やかな肉体が放つ澄んだ熱は、まるで違う P131

・疲れているのに眠れなくなったら終わりよ P135

・意地ではなくても意地悪かもしれない P139

・自分が望むより前に与えられるから、欲しがる必要がなかったのだ P141

・好きだった昔の気持ちを、
いまの気持ちが越えられるとも思えません P156

・小さな傷なら誰にでもあるし、
生きているといろんなことが損なわれていく(略)
生まれたままの心と体ではいられない P161

・本気の人間を嘲笑う奴は、
そいつ自身、ぎりぎりの時に踏ん張れんってことじゃ。
そういう奴は何者にもなれん P168

・毎日を丁寧に生きるというのは、雑草を抜くことと同じじゃ。
雑草はどんな庭にも生える。家庭という庭にも生えるんよ。
だからお母さんはこうして毎日雑草を抜いているの。
家族みんなの心に、いつもきれいな庭があるように P180

・人の気持ちを傷つけるという一種の暴力行為 P206

・身辺整理を始めなくては、(略)
できることがひとつ、またひとつと減っていき、
いつしかなにもできなくなるのだろう P252

・いまはただ感謝を伝えたい。
最期に人はたったひとつの気持ちをもって逝くのかもしれない P280


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