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言葉の宝箱0664【長く続けていれば大方のことが受け入れ可能になっていく。年月は諦念という良性の垢を人間に贈ってくれる】


『できない相談 piece of resistance』森絵都(筑摩書房2019/12/10)


「なんでそんなことにこだわるの?」と言われても人には様々、どうしても譲れないことがある。夫の部屋には絶対に掃除機をかけない女性、エスカレーターを使わないと決めて60年の男性……。誰もが一つは持っている、そんな日常の小さなこだわり・抵抗を描いた38の短篇。スカッと爽快になったり、クスッと笑えたり、しみじみ共感したりする38のresistance。
人生って、こんなものから成り立っている。そんな気分になる小説集。

・三十路同士の結婚で、互いに気ままな独居が長かったせいか、
新婚生活の甘いときめきよりも窮屈さのほうが勝っていた P10

・首都高というのは、なぜ、こんなにも人生に似ているんだろう。
合流、カーブ、合流、カーブ、また合流。試練に次ぐ試練の連続で、
ハンドルを握る掌の汗が乾く暇もない。
車間も気にせず突っ込んでくる車に震えあがりながらも
どうにか合流地点をクリアしたかと思えば、再び魔の急カーブ。
後続ドライバーの舌打ちを思いながらも
ブレーキを踏まずにいられない P39

・一つでいいから、サムシングエルスを見つけるといいよ P41

・長く続けていれば大方のことが受け入れ可能になっていく。
年月は諦念という良性の垢を人間に贈ってくれる P61

・キッチンの最高権力者であるママが
「今夜は料理をしない」と宣言したら、
それはもう、ほかの誰かが料理したものを食べるしかないのだ P80

・目の前の幸運を噛みしめ、感謝する。
それこそがより大きな幸運を呼び寄せるための心得 P107

・過去をふりかえって何になるのでしょう。
いまの心が感じるものだけがすべてのはず P128

・「わたしなんか」はたんなる卑下ではなく、他者への命令です。
「そんなことはないよ」の一語を抗いがたい横暴さで要求するのです。
自分を否定することで相手から肯定してもらう、
そんな自尊心の保ち方は健全じゃありません P129

・いかなる行為も重ねるうちに習慣と化す。
心ではなく体がそれを受け入れ、無意識のレベルで反復しはじめる P165


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