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言葉の宝箱 0565【もうどこにも行かなくていいんだよね】

『れんげ野原のまんなかで』森谷明子(創元推理文庫2011/9/16)


新人司書の文子がこの春から配属されたのは、のどかな秋葉図書館。
ススキ野原のど真ん中に建つこの図書館は利用者もまばら、
暇なことこのうえなし。しかし最近妙な闖入者が現れた。
小学生が閉館後も居残るために、
あの手この手で図書館員たちの裏をかこうとしているらしい。
いったいなぜ?
文子はかねてよりその博識ぶりを崇拝している先輩司書能勢の力を借りて、小学生たちの企みをつきとめようとするが・・・。
季節の折々に、
小さな図書館を訪れる人たちがもたらすささやかな謎の数々。
すべての本好き、図書館好きに捧げる、やさしいミステリ。
『霜降――花薄』『冬至――銀杏黄葉』『立春――雛支度』
『二月尽――名残の雪』『清明――れんが野原』5話連作短編集。

文庫版のあとがきに
“書店というのは「大河」だなあ、と思います。
日々刊行されていく、追いきれない量の本が、
水の分子となって流れていくところ。その奔流は刻々と変化していきます。それに対して、図書館のイメージは「海」です。
流れてくる水の滴りがおたがいに溶け合い、
落ち着いて静まっている最終到着点。
そこには過去から現在に至る無数の本たちが寄り添って、
「もうどこにも行かなくていいんだよね」と安らいでいる、
そんな感じです(略)
「そこに行けば本が待っていてくれる」
秋葉図書館は、あくまでも筆者の郷愁の産物です。
でも、「帰りたい場所」なんですけどね。
そして実は、自分の内にそういう図書館をお持ちの方、
けっこういらっしゃるんじゃないでしょうか。
そんな「母なる海」をひそかに心に抱える読者の皆様が、
秋葉図書館を気に入ってくださることを祈りつつ” とある P309

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