【短歌解説】第7回U-39やましん紙上歌会 落選

 おはようございます。夜船静河です。

 前回あげた岐阜県文芸祭と同時期にやましん紙上歌会にも2首投稿したのですが、2首とも落選いたしました。ただ、かなり気に入っている作品があるので誰かに見てほしいなあと思ってこちらに投稿いたします。
 やましん(山形新聞)さん主催ということだったので山形成分強めでゆきました。


落選作


首都圏は明日から寒波 雪国は連日連夜変わらず寒波

 これです!お気に入り!!
 岐阜県文芸祭のポニーテールと同じく雪国アイデンティティシリーズです。

 夕方のニュースが言う。「首都圏は明日から寒波です。」窓の外を見る。あずき色が混じったような濃い灰色を背景に、雪が斜線を引くように降る。除雪車のタイヤの音がして、ランプが光るのが見える。今日は冷える。というか、今日も冷える。白線などもともと存在しなかったかのような、真っ白の雪路。首都圏が明日から寒波というのなら、ここは連日連夜寒波なのでは。という歌。

山形市の、文翔館っていう建物

 雪が多いことはもう仕方がないよね。そういう土地だからね。それに山形はスキーとか樹氷とか雪が観光資源でもあるからね。

 読んでたのしい系短歌。まず、「首都圏は明日から寒波」「雪国は連日連夜変わらず寒波」の対句ですね。そして。んじつんや・わらずんぱ。愉しくなってくる。「連夜(れんや)」と「寒波(かんぱ)」も似ている。この歌、読み上げてみてください。

さみしいから出てきちゃったわけじゃないです 深夜山交やまこうバスターミナル

 どうでしょう。これも好きなんですよ。

 山交バスターミナルってご存知でしょうか。
 JR山形駅の付近に、“山交ビル”なる建物があり、その入り口付近の歩道がバスターミナルになっています。わたしが“街”と認識していた場所のひとつ。少し、都会っぽい雰囲気が漂う。昼間はひとが多いからね。

 そんな山交バスターミナル。夜、さみしくなっちゃったら、ふと、行ってしまうかもしれない。
 でもバスターミナルに行ってみても、夜だからひとはほぼいない。さみしくなっちゃうけど、やがて来るバスを待つ。いかにも、目的があってやってきたような顔をして。バスが来たら、本当に来たら、乗ろうか、どうしようか。そんなことをぼんやりと考える。夜に来るバスはきっと夜行バスだから、どこまでも行ってしまう。明日の予定(学校や職場)とか、着替えとか上着とか、何にも考えられないで、ゆらゆらと夜を更かしてゆく。(夜が更けてゆくのではない。夜を更かしてゆくのである。)
 ちなみに、わたしは夜の山交バスターミナルに行ったことがない。夜だからひとが少ないのではという想定で詠んでいます。

 “さみしい”と漢字を使って書く方法もあるんだけど、“さみしい”というひらがな表記の持つ、ちまっとした雰囲気、淡い色合い(詳しくは:「さ」→うぐいす餅、「み」→くすみ系黄色、「し」→白、「い」→からし色(納豆についてくるからしの色)、ただし単語の末尾付近なので主張は激しくない)が丁度良いと感じた。
 だから、“さびしい”ではない。“さびしい”だと少しエッヂが生まれる。(きっと濁点の影響。)少し深刻になってしまう。少量だけどすうっとこころの床に染み込んでゆく“さみしい”で、最後にはまんじゅうみたいにまとめて手のひらサイズにしてこころの床にぽん、と存在させておくような“さみしい”だ。(こころの床って何)

 そして。「出てきちゃった」「わけじゃないです」。「出てきちゃった」「わけじゃない」はくだけている。(「さみしいから」の「から」も若干くだけた印象を受ける。)が、最後。「わけじゃないの」でも「わけじゃないよ」でもなく、「わけじゃないです」。の「です」。他者の存在を意識して出る丁寧語。自分に言い聞かせるときには「です」はあまり出てこないのではと思う。さみしいからではない、と言いつつも、誰か、ひとがいるところに、という思いが言葉の最後に出てしまったのだろう。
 少しのこだわりだけれど、句点(文末のまる)は無い。「さみしいから出てきちゃったわけじゃないです。」では、「さみしいから来たのではない」という主張が強くなりすぎてしまう。無表情になってしまう。詠み手は「さみしくなんてないよ(…実は、さみしいんだけどね)」くらいのゆらゆらした気持ちでいる。

 それから。「深夜山交バスターミナル」。なんとなく、口がたのしくないですか。シンヤヤマコーバスターミナル。テンテ/テテテー/テテテー/テテテ。です。たぶん「ヤマコー」と「バスター」に出現するおなじリズムの繰り返しが良くて、そこに似たようなリズムの「ミナル」がついてるし、最初の「シンヤヤマコー」も「ン」が二番目に入っていることでリズム感が生まれる。のではないか。
 余談だが、三連符のリズム練習パターンに似ている。三連符の指が回らないときは
・タータタ タータタ タータタ タータタ
・タタータ タタータ タタータ タタータ
・タタター タタター タタター タタター
ってやって、それでも出来なかったら
・タタータ タータタ タタータ タータタ
などなど組み合わせてゆくんです。
 「深夜山交バスターミナル」いいなーと思ってたけど、リズム練習パターンを彷彿とさせるリズム↓だからかもしれない。

 以上です。閲覧いただきありがとうございました。


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