見出し画像

悪党は約束を守った

物語のなかで悪党は、なぜか律儀に約束を守った。

お姫さまを汚い部屋へ押し込め、たくさんの無理難題を押しつけ、できなければ殺すと言ったが、お姫さまが問題を解決するたび殺すのをあきらめた。

ありえない。


けれど物語はとても周到に練られていて、理由もなく「悪党が約束を守る」と設定したとは考えにくい。

だからずっと、どうして約束が守られたのかを考えている。

ハッピーエンドと決めていたからだろうか。

悪党にも、愛すべき要素を残したかったからだろうか。

子どもにむけて、約束は守られるものだと伝えたかったのだろうか。

どれも正解なようで、どれも正解ではない気がしている。


女の子に向けた語り口でありながら、この物語は大人の読者も想定している。

だから「こんな悪党いないだろう」と、読み手が思うことだって考えていたはずだ。

それでも悪党に約束を守らせた理由。


「”悪党なら殺すだろう”と、なぜ自分は決めつけていたのか」に向き合わせようとしたのでは、と思う。

「普通殺すよね!」の普通って何だ。

私が普通と思っている悪党は、誰をイメージしているのか。

悪いことにまで普通を決め込む思考が揺さぶられる。

女の子向けの、平和でやさしい物語を通して。


女の子たちの視線は、主人公が引きつけた。

普通じゃない悪党がいう。

「これができたらおまえを生かしておいてやろう」

生き残りをかけた課題なのだ。



この記事が参加している募集

#推薦図書

42,486件

ありがとうございます! サポートはすてきな写真を撮りに行くために使わせていただきます。