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スペキュラティブデザインとは

前回の更新から、ふと気づくと既に2ヶ月が経っている。。私は一体何をしていたのか。USで依然続くCovid-19の隔離生活の中、引き篭もって好きなことをして過ごして来たわけですが、非常に時の経過が速い。。
ID (イリノイ工科大学デザインスクール)の春学期は、5/8に全日程が終了しており、実は2020年春の卒業生に対しては、既に卒業式が行われました。つまり、私は MDM (Master of Design Methods)を無事卒業し、修士学位を手にした訳です。
ただ卒業式は、オンラインで簡易的に行われただけなので、あまり実感が無く、本物の卒業式は平時に戻った際にいつでも参加していいよということになっています。
(下の映像がIDのオンライン卒業式、デザインスクールにはどんな生徒がいるのか少し垣間見れると思います。)

https://youtu.be/feKmqL3EU14?t=5

さて、ということで卒業はしているのですが、実は6月からこの2ヶ月間は、サマークラスを一つとってプロジェクトを実施していました。
"Master Challenge" というプログラムで、ポストCovid-19に出現するであろう、New Normal (ニューノーマル) をデザインするというテーマです。特に、今後のますます重要になるであろうAIテクノロジーを活用することで、どのようなプロダクトやサービスが生まれて来るかというスペキュラティブデザイン (推論/思索的なデザイン) の内容です。

デザインと一括りに言っても、いくつかのアプローチが分類されており、下図はその位置関係のマッピングです。伝統的なHCD (Human Centered Design) のアプローチは、ファクトベースの調査・分析アプローチを軸にするのに対して、スペキュラティブデザインは、より人の想像力に重きを置いたアプローチを取ります。 後で述べますが、私はストーリーテリングだと理解しています。

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“Speculative design proposals are essentially tools for questioning. Their aim is therefore not to propose implementable product solutions, nor to offer answers to the questions they pose; they are intended to act like a mirror reflecting the role a specific technology plays or may play in each of our lives, instigating contemplation and discussion.”
- James Auger

また上記引用にあるように、スペキュラティブデザインでは、問題解決ソリューションを提供するというよりは、問題提起を目的としていることもHCD (Human Centered Design)と異なっています。

スペキュラティブデザインでは、下のダイアグラムの中で、濃い赤線で囲った部分が大切な概念です。具体的には
-この先 Plausibleな (有り得る) 世界とはどのようなものか?
-その中で Preferableな (感情的に好ましい) 世界とはどのようなものか?
-Unintended Consequence (意図していない結果) は起こり得るか?

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これら3つの問いかけをガイドにしながら、シナリオプランニングを行っていくのが大まかな流れです。
そしてスペキュラティブデザインでは、未来を形成するDriving Force (駆動力)の視点も重要になります。

<Droving Force (駆動力)>
 - Social Dynamics (社会) : 人口動態、価値観、欲求、ライフスタイル
 - Economic Issues (経済) : マクロ経済トレンド、ビジネス、マーケット
 - Political Issues (政治) : 政府、法規制
 - Technological Issues (技術) : 既存テクノロジー、新興テクノロジー

これらを組み合わせることで、最終的により解像度の高いシナリオを作り上げていくのです。(実は、これら視点のリアリティレベルを落とすことで、SFなどのフィクションとしてのアプローチを取ることも可能となります。)

実は、このシナリオプラニングこそが、スペキュレーションの重要なプロセスであると理解しています。そもそもシナリオって何?という疑問もあると思うので、少し説明いたします。

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シナリオとは、ストーリー (物語)と同義です。登場人物がいて、彼・彼女の行動、考えてること、彼らを取り巻く状況などを細やかに描写していきます。そして、実際にこのストーリーを描いた資料をストーリーボードと呼びます。

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ではなぜ、ストーリーが重要かと言うと、ユーザーの体験そのものをデザインすることができるからです。彼らがどのような状況で、どのようなプロダクトやサービスを使い、どのように問題解決を行い、どのように感じているのか。これらの情報をContext (文脈) と呼びます。
そして何よりも、人は物語を通じてでなければ、世界を理解することができないと言われています。(Stories are central to human intelligence and memory. / 数字や抽象的な要約からでは、同じレベルで関係性を理解することは難しいのです。)
物語は面白いです。私はドラマやアニメを身始めたら最後、次が知りたくて止まらなくなります。人の習性を上手く利用しているのだと思います。

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またシナリオを用いることで、関係者同士でアイデアの共有や交換をすることが容易になります。宗教の布教活動は、神や預言者の物語を広めることで行われました。ガリレオはストーリーテリングの才能を用いて、ニュートンの天動説を覆しました。また近年の企業活動において、ストーリーテリングが大事という話がありますが、これは情報を伝えるための効果的な技術だからなのです。

また、シナリオを作成する上では、ペルソナ (主人公や登場人物) の設定も大切な工程です。キャラ設定が、ストーリー展開の土台となります。彼らのニーズや夢、悩み、価値観やライフスタイルが、私たち自身の世界と重なり合うことで強い共感を生み出すことが可能になります。

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と、シナリオとは何かというテーマに変わって来てしまっている気がするのですが、つまり話を戻しますと、スペキュラティブデザインでは、シナリオプランニングのプロセスを用いて、好ましくあり得る近未来像を描いていくという作業を行っていくのです。初期プロセスでは分析作業も必要ですが、後半は脚本家としてのストーリー作りが大切になってきます。

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さらに専門的な内容として、不確実性因子によるシナリオ軸の設定や、社会と技術の関係性 (Socio-technical) の分析、そしてプロダクトプロトタイピングのプロセスも必要となりますが、ここでは概要レベルで留めておきたいと思います。学期中は、スペキュラティブデザインの授業を取らなかったので、サマークラスで学べてとても良い経験ができたと思います。

さて次回は、この一年学んだデザイン・デザイン思考とは何かを再度振り返ってみようと思います。
(下の写真は Master of Design MethodsのDiploma 卒業証書です。)

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