Yoichi

職業は高校教諭。軽音楽部の顧問歴30年余り。文学と音楽が興味の中心ですが、ギターとかヨ…

Yoichi

職業は高校教諭。軽音楽部の顧問歴30年余り。文学と音楽が興味の中心ですが、ギターとかヨットとか資本主義とか、様々なジャンルに視野を広げて語ってみたいことが増殖中。

最近の記事

軽音楽部のみんなへ

はじめに 軽音楽部の活動は、意外と難しい。吹奏楽部のように全員でひとつのバンドではないから、部員全員が顔を合わせる機会も少ない。だから、野球部のように全員でひとつのチームにはなかなかなれない。バンドという小さな単位の集合体であり、そのバンドも、少し油断すると空中分解して解散してしまう不安定な単位だ。部員同士のトラブルも起こる。しかも、学校のクラブ活動として成立させるとなると、さまざまな制約を乗り越える必要がある。生徒の立場になってみれば、バンド毎に好き勝手できない窮屈さもあ

    • 『誰も語らなかったジブリを語ろう 増補版』 押井守

      4年前?電子書籍で新刊本を購入する割合が増えた。その気になったらすぐ購入できるし、文字サイズも大きく読み易い。本を何冊も持ち歩く必要もない。コロナ禍以降、その傾向はより顕著になった。 にもかかわらず、本屋を巡る楽しみは捨てられない。新刊コーナーに平積みされた本を眺めるだけでワクワクする。夏も終わり、申し合わせたかのように新規感染者数が急減し始めた。久しぶりに街の本屋で心の命ずるままに本を手にとって開く。あれ、なんでこの本が気になったのかなと思いながらレジに並んで、よく見れば

      • 文化を自己決定する街

         工業系の高等学校に赴任して数年が過ぎた頃、ようやく希望していたクラス担任になるチャンスが回ってきました。私が受け持ったクラスは社会基盤工学科で、土木技術を専門に学ぶ生徒たちです。国語の教員である私にとっては全く未知なる学習領域でした。今春、彼らが卒業するまでの3年間に、普通高校ではできない貴重な体験を数多くさせてもらいました。    それらの経験は「街づくり」というテーマと向き合う貴重な機会でもありました。彼らの進路先の多くは建設系の企業です。旧道路公団系の企業や電力事業に

        • 『ドライブ・マイ・カー』 演じるという行為

           一部あらすじを含みます。映画を未鑑賞の方はご注意ください。  9月最初の週末、最も近い地元の映画館で濱口隆介監督『ドライブ・マイ・カー』の上映期間終了が迫っていた。8月末から感染警戒レベルは5のままで,早く観たいと思いながら躊躇してきたけれど、もはや限界。感染対策を万全にして入館。映画館としては苦しい状況だと思うが,幸い観客は数人で密にはならずに済んだ。  『ドライブ・マイ・カー』は村上春樹の同名短編小説が原作だが,収録されている短編集『女のいない男たち』(2014年初

        軽音楽部のみんなへ

          『ナイン』(井上ひさし)読みの可能性

          1 はじめに  小説『ナイン』は1983年から1985年にかけて雑誌『IN・POCKET』に掲載された短編小説をまとめて単行本化し、1987年に講談社より刊行された短編小説集です。その表題作『ナイン』は、高等学校の現代文教科書に掲載される定番小説としておなじみの作品です。  筆者と思しき放送業界の仕事をする語り手「わたし」は、18年前に3年間ほど2階を住居として借りていた東京四谷は新道にある畳屋の仕事場に立ち寄る。畳屋の主人である「中村さん」に迎えられ、懐かしい話を聞いて

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          ウィルスとの共存ってどうするの(エッセイ)

          『風に谷のナウシカ』 『天気の子』 のあらすじ(ネタバレ)を含みます。「with コロナ」と言われる時代。それはどういう時代なのか、残念ながら答えは誰も知らない。だから、自分で考えるしかない。  最近、NHKで生物学者の福岡伸一さん、歴史学者の藤原辰史さん、美学者の伊藤亜紗さんが『風の谷のナウシカ』に触れながら新型コロナウィルスとの共存の方向性について語っている番組を観た。コロナ禍で発生する様々な問題にほとんど答えを見出せずにいる私たちだが、この番組には大いに触発された。(

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          たけし君とヒミツのこと(小説)

            たけし君とぼくのヒミツの話をするね。あれはぼくがまだ小学校四年生だったころ、ぼくたちにおこった特別なできごとの話。  たけし君は保育園のころからの仲良し。そのころは、たけし君がぼくの家に遊びに来ると、ぼくはたくさんのミニカーを出しておもちゃのパーキングや積み木や人形を並べて街を作る。たけし君は警察官になったり、校長先生になったりして街を守ったり号令をかけたりする。ぼくは泥棒になったり学校の生徒になったりして、たけし君がふんした警察官に追いかけられたり、先生に怒られるフリ

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          第六夜 in 2020

           ジミ・ヘンドリックスが新宿駅西口通路で路上ライブをやっていると云う評判だから散歩ながら行って見ると、自分よりも先にもう大勢集まって、しきりに下馬評をやっていた。  取り壊しが進んだスバルビルの地下部に取残されて死んでしまった「新宿の目」の前に、マーシャルのギターアンプが置かれている。振り返ると地下広場のロータリーが、壊れた宇宙船の残骸から見上げたような空を抱えてうずくまっていた。クリーム色のフェンダーストラトキャスターから伸びたカールコードが、ジミ・ヘンドリックスの足元に

          第六夜 in 2020