Yoh クモハ

作家・縄文土偶。3000年前に「オオイナルヒノヤマ」の見える地で誕生。長編第1作「バッ…

Yoh クモハ

作家・縄文土偶。3000年前に「オオイナルヒノヤマ」の見える地で誕生。長編第1作「バッテンガール」で2020「阿賀北ノベルジャム第一回グランプリ」を受賞。同年の初短編「酸辣湯(サンラータン)」以降の短編をここに 。魂が飢えた時に食べてください。

マガジン

  • 「バッテンガール」を持って村上に行こう!

    2021年に「阿賀北ノベルジャム」グランプリを獲得した作品「バッテンガール」の舞台となった新潟県村上。著者のYouクモハが取材したり行商したり、路頭に迷ったり。どこどこヨロヨロ進みドグウの旅はどこへ行く。 村上ファンのあなたにも。

最近の記事

カニカマ - クモハ練習帳1

 目覚めたら手がカニカマになっていた。そういえば、そんな夢を見ていたような気がする。いっそ蟹のハサミだったらよかったのに。なんでも断ち切れる。差し出してくれる優しさも、まとわりついてくる雄弁さも。カニカマは繊維が粗い。動かすと、今にもばらけてしまいそうだ。恐る恐る手を伸ばしてみる。伸びる、ということは骨はあるのだろう。なんだ、筋肉がカニカマになっただけか。色は紅、というより着色料のオレンジ。昨夜、仕事帰りにジムに行き、バーベルをそこそこやった。いつもより少し熱を帯びた手は、心

    • 地獄の釜の中へ入るときはスキップすること

      「地獄の釜の中へ入るときはスキップすること」 と書いてあった。 目の前には鈍く光る通路。 地獄へ堕ちるという。地獄へは歩いていくのか。いやスキップするのだ。 ボンギャラギャ〜ン! ハリボテかいうくらい音が響く金棒でケツを叩かれ通路に追い出される。足は勝手に跳ねはじめる。命令されたからではない、熱い! 床が熱いのだ。 このヘタクソ! 鬼が怒鳴る。 なんじゃあ、その潰れたカエルみたいな飛び方。はらわたちぎれて道路にグシャじゃわ。本の間に挟まった納豆だわ糸引くわ。もっと楽

      • 震えて善をなせ

        たくりくたる たくりくたる たくりくたる  ペダルを踏む足は永遠のリズムを刻む。橋が見えてくる。軽い登り坂。いつものコース。  湘南の海はいつも風が強い。橋を吹き抜ける風はさらなり。正直1/3を渡るまで予測がつかない。風除けのフェンスはそこで途切れ、よろめくほどの突風に吹き殴られることもある。路上の電子サインは気温を告げてはくれるけれど、風の強さまでは教えてくれない。上空のトンビとカラスの飛び方を見る。カラスが風に逆らって飛ぶ。一羽のトンビを二羽のカラスが追う。一羽のカラスが

        • テュス

           どの湖にも片隅に老いた手を持った若い女が棲んでいる。  ―「狼と駆ける女たち」より お婆ちゃんのよう。何度呟いたことだろう。しわだらけの手を冷たい水に浸す。チョウが羽ばたくほどの間で疼痛は消え、嘘のように湖と同化する。そのたびにしわは増す。悔やんだことはない。この手でなければ、ガラスの鳩を触ることはできない。岸辺に並ぶ幾羽もの鳩を一羽ずつだきあげ唇を寄せる。唇はいつも凍っている。 テュス!  吹き込んだ命が炎となって鳩の中で燃える。青い炎。次の鳩を取り上げ、また唇を寄

        カニカマ - クモハ練習帳1

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        • 「バッテンガール」を持って村上に行こう!
          6本

        記事

          狛犬ラプソティ

          吽は阿がうらやましかった。うらやましくてたまらなかった。 はっ! なにテメエだけ口開けて、アホづら晒しやがって。オメエの口に雨粒しとしとピッチャンとかもうアホの極み大賞。いっつも馬鹿みたいにあ〜う〜あ〜う〜唸りよって。詩吟か、いやあれが詩吟たあヘソで茶ぁ沸かす。腹壊したタヌキがうめいているより酷い。  すべて心の声だ。吽の口は閉じられている。思うことはできるが、声に出せない。その鬱屈は社を守るように立っている樹齢八〇〇年のケヤキより高い。狛犬は二頭で一対。口を開けている阿

          狛犬ラプソティ

          アジアンウーマン

           しけたポテトチップは不味い。  昨夜から開いたままの袋に手を入れ、残骸を探る。手の中に全部出して、口に入れる。不味さを確かめるためにだけ食べる。しゃりっとボソッの中間、最悪。  青い瞳がこちらを見ている。ポテトチップスじゃなかった。トルティーヤだったかも。あの晩、テーブルに残っていたのは。泊まっていくつもりだった。青空マーケットの古着屋で買った勝負下着も身につけていた。ドレスは濃紺に百合の花、前あき。アジアの女にしては精一杯の装いで。  ホームパーティーに招かれたのは、ア

          アジアンウーマン

          セコンドサーフ

          *この作品は「第三回かぐやSFコンテスト 選外佳作」に選んでいただきました。 テーマは「未来のスポーツ」でした 巨大な時計の秒針に乗る競技がある。競技者はセコンドサーファーと呼ばれている。速さを競うのではない。1分は60秒と決まっている。 秒針が一周する間、つかまっているのを「ベーシック」と呼ぶ。要求されるのは体幹力と腕力、それに脚力だ。 初めての練習は「お茶会」と呼ばれる。12時から3時までを飽きるほど繰り返す。お茶の子さいさいだしね、とニカは笑う。そんな古い言い回しは

          セコンドサーフ

          「御免羅臼」全5巻 完結記念特別記事

          あの日の空は四角い〜H書房に「御免羅臼」がひと月置かれていた話〜 2013年のある日、クモハは神田神保町の公園にいた。何を勘違いしたのか1時間前の十時に神田駅に着いた。待ち合わせは十一時。 もうここには来ないかもしれないな。何とはなしにそう思う。電話の向こうでSさんが言った「そろそろ決着をつけないと…」の言葉が心に響いていた。 最後まで読んでくれて、直した方がいいところを指摘してくれて、改稿を読んで、今日の日になる。 ビルの間に小さな公園を見つけた。カラフルな遊具と滝

          「御免羅臼」全5巻 完結記念特別記事

          あるぽっぽ焼屋の独白

          ぽっぽ焼ってご存知で? えっ、知らない。あんた地元のもんじゃないね〜、ぽっぽ焼を知らないなんて。えっ、食べたこともない。あ〜若いもんは正直でいいさ。まあ、一本食いなせや。 ……なじらね? もちもちしてるっしょ。この黒いのはね、黒糖を混ぜてるんよ。さあ、もう一本。 ぽっぽ焼っていうのはね、なんでもあの丘蒸気、蒸気機関車のことらしいよ。この新発田にもさ、蒸気機関車の音が響いていた時代があったんらて。赤谷(あかたに)線なんて知らんよな〜若いもんは。赤谷には鉄鉱山があってよ、そこから

          あるぽっぽ焼屋の独白

          目ん玉をひろった話

          8月の記事↑ にたくさんのいいねをありがとうございました💖 その後の報告を書こう、書こうと思いながら年末ギリギリになってしまいました。 術後二日目、これは書いておかなければと転んでもただでは起きぬクモハはペンを握りました。作家根性丸出しです。 医学的な記述がちょっとあります。 そういうのが苦手な方は心のプロテクターを装着してからお読みください。 ************************* 2022.8.19 手術を終えて手記を書いている。 正確には1.5°の老眼鏡

          目ん玉をひろった話

          半分の君

           Line電話に半分の君が写っている。右目のマスカラが失敗して、と笑う。そのままいつものように話をする。君はジャージに着替えていて、画面の中でヨガをしたり、足指マッサージをしたりしている。僕は君の右側を見ることなく、会話を終える。テーブルの上のレモン酎ハイは少し残っている。  翌日、スマホ画面には右半身の君が写っている。僕はなぜだかホッとして、グレープフルーツ酎ハイのプルタグを引く。どうしたのと聞きたかったけど、君の笑顔を見て、おしゃべりを聞いていたら時間はあっという間に過

          半分の君

          乳神様、あるいは菩薩器官

           郷里には乳神様がいて、祭りでは「おっぱいまんじゅう」を食べる。 「ヤダ〜! 買っちぇ、買っちぇ〜!!」  暴れる二歳児を置き去りにしてレジへ。夕方の大型スーパーは戦場、通路に寝転んでいる幼児は遺体袋。  背中に声が飛ぶ。 「母親だろ、なんとかしろ」  ふり向くと、精子の提供者がこちらを見ている。怒りが言葉を後押しする。 「父親でしょ、なんとかして」  セルフレジに並ぶ。帰れば待ったなしのお風呂&夕飯ゲーが待っている。 「おいっ!」肩をつかまれる。振り払う。「

          乳神様、あるいは菩薩器官

          40年前の嫉妬

          40年前の嫉妬が、時を超えて私の元に届いた。 それは古い小箱を開けた瞬間、立ち上る匂いにも似ていた。 時は帰省中、田舎道を走る車の中。運転は妹。 今年は息子の高校受験。学校選択の話から、私たちの受験の話になった。 ​​ 「選択肢ってなかったよね」と妹が言った。 
狭い田舎町。 4つの高校に成績順に振り分けられるだけの進路指導。 妹たちはすんなりとそのコースに乗った。 それは「普通」のことだった。 けれど、私は行くべき高校ではなく、成績では一つ下の高校を選んだ。

なぜって

          40年前の嫉妬

          信楽焼のたぬきが大活躍する話

          目覚めると枕元に覚えのないメモがある。 「信楽焼のたぬきが大活躍する話」  夢を見たことも書いたことも覚えていないが自分の文字だ。物書きを長く続けていくと、ネタに困る。面白い夢を忘れないために、いつも紙とペンを用意してある。  キチンに行くとたぬきがいた。信楽焼のたぬきだが、装備はカーペットに投げ出されている。編笠、徳利、通帖、金袋。 金袋? あれって取り外し可能だったのか。  ただの狸となったたぬきは、「人をダメにするソファ」で爆睡している。仕事明けの朝、愛用

          信楽焼のたぬきが大活躍する話

          夏休み と 新展開のご報告

          いきなりですが、クモハ夏休みとります❗️ ヴァカンスな話ではなく、お盆明けにちょっとした手術をするのです。 人に話せば大したことないと言われるかもしれませんが、なにせ縄文土偶。 西洋白魔術には馴染みがなくて、やたらガクガクブルブルの日々でした。 復帰は予後次第ですが2週間〜ひと月の予定です。 (絶対そんなにおとなしくしていられない、という意見多数) ここからはファンタジーとしてお聞きください。 考えるわけですよ。 「もし万が一のことがあって、職業生命を絶たれたら?」

          夏休み と 新展開のご報告

          巡り歌 還り歌 送り歌

          某PIx**で「さなコン2」というコンテストに応募するつもりで、間に合わなかった作品です。  私はまだ土に歌をうたってやったことがない。 お前は頑固だね、とアボ。それが最後の一言だった。アボを土に埋めた時も私は泣かなかった。土はアボが生涯働き続けて手に入れたものだ。若い頃は農場で働き、子どもを持ってからは乳母や子守りとして働き、子どもが独り立ちするとわずかな土地を借り、そこで暮らした。  独り立ちした子どもはまた子どもを産み、アボのところへ戻ってきた。だから私はアボに育てら

          巡り歌 還り歌 送り歌