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目ん玉をひろった話

8月の記事↑ にたくさんのいいねをありがとうございました💖
その後の報告を書こう、書こうと思いながら年末ギリギリになってしまいました。
術後二日目、これは書いておかなければと転んでもただでは起きぬクモハはペンを握りました。作家根性丸出しです。
医学的な記述がちょっとあります。
そういうのが苦手な方は心のプロテクターを装着してからお読みください。

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2022.8.19
手術を終えて手記を書いている。
正確には1.5°の老眼鏡をかけて書いている。
「目」は遠く(5mくらい)が見えるように合わせてあるため、手元の正確な作業にはメガネがいる。
手術を終えた翌々日、「安静」という文字をかみしめながら過ごす日々だ。

以下は手術当日の「記録」である。

8/17 AM8:30に来院。
駅構内のトイレが混んでいて、かつちょっとしたアクシデントがあり、少し遅れた。そのため午前中ラストの手術となる。いやもしかしたら、それも計算のうちだったかも。
眼底検査→ 瞳を開く点眼→ A医師(執刀医)の診察→ 手術前点滴→
手術→ 会計→ 翌日の診察、という流れと説明される。

すでに5,6人の男女が長椅子に腰かけて待っている。この順序ですべてが進んでいく。クモハは前の人のやっていることを見て、先を予測する。
A医師の診察室から出てくる人が、次に手術室に呼ばれていく。前に5人くらいいて一番先の人がもう手術を終えて出てくる。その人はスマホをやや遠くにかざして普通に見ている。ホント?
点滴をつけたまま手術室に入っていく人がいる。同じく青い手術ガウンに白いキャップで、手術室から出てくる人がいる。何をしているんだろう?
好奇心がウズウズする。
クモハの前はきれいに頭が真っ白なおじいさんだ。歩く時、少し足を引きずる。彼が診察室から出てきて、クモハが呼ばれる。挨拶をする。
A医師は両目を診察する。
「右目は大分悪くしちゃったね」
よろしくお願いします、と頭を下げる。
診察着をきたA医師の顔はマスクでよく見えない。けれどクモハは彼が出勤するところを目撃した。長身で肩幅の広い、仕立ての良い(であろう)スーツを着たグレイヘアの人が、ややあわて目に(おそらくちょっと遅れて)院長室に入っていくのを。
この人に任せるしかない。

診察後、看護師に待ち時間を確認し、トイレに行った。暖かい便器に座った途端、思いもかけない嗚咽が喉から漏れた。
わずかな時間だったが、感情の解放。
これはプロセスだと自分に言い聞かせる。

人が次々と手術室に入っていく。
女性も一人いた。連れ合いと一緒に来ていて彼女は手術室へ、彼は一般の広い待合室へ。
わが相方には手術が終わる頃、来てもらう手筈になっている。家には徹夜明けの息子もいる。ずっとそばにいても、手持ち無沙汰だろうという判断。
長椅子にはそのおじいさんとクモハだけ。
スマホがピロリンと鳴る。屋久島から友人がエールを送ってくれた。そしてもう一件はオメラスのイラストレーターさんから。春日大社(奈良)に行ってきたという彼女が、イブキ(ビャクシン)の巨木の写真を送ってくれたのだ。
これには参った。泣いた。
巨木はすごいパワーをくれた。
やっぱりイブキは私の守り神だ。
*(イブキは御免羅臼の主人公)

おじいさんも呼ばれてしまい、長椅子コーナーに一人。幸い看護師さんも出払っていたので、軽い運動をして身体を伸ばす。冷房がかなり強いので、持ってきたスパッツを履く。五本指回しに呼吸法、立ってヨガ。今まで学んできたことフル活用。

さて、ついに呼ばれる。この時11時前。
「ここからまだ長いですよ」と看護師さん。
靴からスリッパへ、ヘアバンドも、ゴムも、ネックレス(木製)もすべて外す。青い手術着を着て耳栓をし、白いキャップをかぶる。荷物はすべてロッカーへ、鍵は右手に。
手術の待合室におじいさんの姿を見つけ、ちょっとホッとする。じきに彼も奥のドアに消えていき、もう一度お手洗いへ。
そして、ようやく奥のドアへ。

そこはまだ手術室ではない。行ってみれば「点滴ルーム」。
案内された椅子に腰かけて、今度はなんだか笑いが込み上げてきた。
だって、この光景マグロの解体現場に似ていない?(見たことはありません)
右腕に点滴をする。
「はじめての点滴なんです」という。看護師さんは軽く微笑む。
「青くて太い血管が見つかりましたから大丈夫です」
左手につながる針を見ながら、チビ雌型のことを思い出した。
生後四ヶ月から喘息だったチビ雌型は、何度も病院に運び込まれ吸入と点滴を受けた。
チビ土偶も2歳前に入院した時、点滴の針を刺したまま踊っていた。
ごめんね、今までクモハだけ無傷で。

なんだか泣いているんだか、笑っているんだか。
やばい、鼻がグシュグシュしてきた。看護師さんが時間ごとに麻酔点眼にくる。その合間を縫って、ティッシュをもらう。右耳の耳栓はいつの間にか取れている。押し込んでもらう。
あ〜、きっと手間のかかるめんどくさい患者だ。
手術室の扉が開いて、先ほどの女性が両側から手を取られて出てくる。
「手を握ってくれてありがとう」という感動シーン。
そして、おじいさんが呼ばれる。次はクモハの番だ。

手術室は暗く、寒かった。まだ前に二人いると思ったのに、あっという間に番が来た。消毒液をじゃぶじゃぶと目にかけられる。顔面パックみたいなシールを一面に貼られる。まぶたを固定。A先生が微笑む。チームで挨拶する。看護師さんが毛布の上からそっと手を握る。まず左目から。
「三つの光の間を見ていてください」
メスが近づいてくるのが見える、という話も流れているが、あれはウソだ。少なくとも私には見えない。液がジャバジャバかけられる。三つの光点が滲む。

あ、これはアンドロメダだ! クモハは宇宙にいるんだ。

そう思うことにした。そう思うことで恐怖に心を支配されないようにした。
アンドロメダの光に横線が走る。水晶体が砕かれたのだと悟る。
フレスコ、プレチョップ方式というA医師オリジナルの手術法。
一瞬、光がなくなる。と思う間もなく、ミズクラゲのかさのような三体が現れる。それはみるみる三つの交点に変わる。この間わずか5分。術式完了。

次は右目。右目の水晶体は茶色く変性し、核白内障との診断が下されている。難しい手術になりそうだと予告も受けている。A医師をはじめとするチームは、ここで再び「術式開始」の挨拶をする。私は新鮮な思いでその声を聞く。一つひとつの手術をないがしろにせず、その度新たに取り組もうという姿勢が見えて好ましくなる。看護師さんの手が毛布の下に滑り込んでくる。ヒンヤリとした冷静な。先ほどとの落差が、この手術の難しさを告げている。

もともと視力がほとんどない右目の視界は最初からぼやけている。水晶体を切断しようとした医師が「〇〇がグラグラしている」と看護師に告げる。聞き取れなかった。聞き取れなくてよかった。聞き取れたら、怖さに負けてしまう。

「CT用意」の声。「重くなるよ」と何度か言われる。何が起こっているのか想像するのをやめる。光はぼやけて日輪のようになる。アンドロメダには見えない。
「大日如来様」とつぶやく。
なんだっていいのだ。これを何かと決めて、集中する。それは客体から主体への変化であり、決して状況に呑まれないすべだ。
看護師の手がそこにある。光はいつまでも続く。もう一度「重くなるよ」と声がかかる。最後に三つの光点が見えたかどうか、もう記憶から削除されてしまった。術式完了。
「見えるかな」という声とともに、起き上がる。A医師の顔がそこにあった。

「これでまた小説が書けるね」と彼がいう。
泣かせどころを心得ている。
かくして手術は完了した。

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「記録」はここまでです。

つけ加えると、術後すぐに視力は出ていました。ただし、一週間は安静。顔も髪も洗えず、就寝時にも保護メガネをかけていました。
ひと月で大体日常生活は復活。三ヶ月目までは要観察。
おかげさまで、よく見えています。書き物も読書もできます。
西洋白魔術のありがたさを噛みしめています。

この一件から考えました。

この視力を何に使いたいのか。
この先、生きる時間をどう過ごしたいのか。

すごく貪欲になりました。
思いついたことは何でもやってみようと思いました。

来年も益々ぴょんぴょんとび跳ねますので、どうかお引き立ての程よろしくお願いします。

今思いつくのは
「新しい流れには乗っていく」
「作品を海外へ届けたい」
ということです。
他は今年の振り返りと合わせてのんびり考えます。

皆様にも癒しと回復が訪れますように💖


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