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あるぽっぽ焼屋の独白

ぽっぽ焼ってご存知で? えっ、知らない。あんた地元のもんじゃないね〜、ぽっぽ焼を知らないなんて。えっ、食べたこともない。あ〜若いもんは正直でいいさ。まあ、一本食いなせや。
……なじらね? もちもちしてるっしょ。この黒いのはね、黒糖を混ぜてるんよ。さあ、もう一本。
ぽっぽ焼っていうのはね、なんでもあの丘蒸気、蒸気機関車のことらしいよ。この新発田にもさ、蒸気機関車の音が響いていた時代があったんらて。赤谷(あかたに)線なんて知らんよな〜若いもんは。赤谷には鉄鉱山があってよ、そこから鉄鉱石を積み出すために引いたんだと。俺の知り合いのじっちゃんがさ、蒸気機関士をやってたんだけど、まあ並の苦労じゃなかった。特に冬場は。加治川沿いの渓谷を走っている時はまだいんらて。飯豊を望む豪雪地帯に入ってみ、東赤谷までの勾配ときたら、もう登れんのよ。そんな時は赤谷駅前引き返してよ、ホラってんで黒いマンマいっぺ食わせてよ、登るんよ。そんでもさ〜、荷物重たい時はどうしょもね。貨車切り離して、お客さんだけ運んだこともあったって。
今はもう機関車もないけどね〜、汽笛の音だけが「ぽっぽ焼き」になって残ったんだなあ。ぐすん。

お、あんた買うてくれるんかい。はいよ、九本で300円。えっ、十本じゃない。流行りの実質値上げじゃないかって。いやいや九本にはワケがあるんて。
この間の花火の夜のことだったわ。ここ2、3年、ほらあのコロリ、えっ名前違う、そうコロナでワシらもメシの食い上げだったけどな、3年ぶりの花火だって張り切って出店したのよ。まあよく売れてよ〜。ところがな、なんだか不景気そうなツラして買っていく若い姉ちゃんがいてな。ありゃ〜彼氏に振られたかなんかかな。わしのポッポ焼きをあんなにくっせ顔して買っていくなんてな。
花火がど〜んど〜んと上がってよ、こりゃ久しぶりのスターマインときたもんだ。お客さんも引きも切らずでわしもホクホクしとったんだがよ、さっきの姉ちゃんが気になってよ〜。どうしてるかなって思ってったらよ。
「あ、おじさーん、また来ちゃった。九本入りのやつ、くださーい」って声がすんでねえか。見たらさっきの姉ちゃんよ。さっきとは声も表情も変わってよ、ニコニコのホコホコなのよ。みれば隣に彼女さんいるだべ。こりゃあよおぉ、今流行りの「百合」ってか。いやあ、どんな相手でもなあ、仲直りするのはいいことだべな。
ほら、そういう時によ、一本おまけしてやんだ。二人でコッキリ五本ずつ。
はあ、おまえさんも彼女さん作ってよ。また来てくれよ。そしたらもう一本おまけすっから。
えっ、なんか思いついた!? 「ぽっぽ砲」? そりゃなんじゃい。 えっ、秘密兵器? オタクなんかヤバイ人かね。なんか最近ここらでペカペカ光るミカン色のつなぎ着た暴走族みたいな連中がたむろってるって評判なんよ。あんたな、若いのに道を誤っちゃいかんよ。困ってんならな、親方紹介してやっから。ぽっぽ焼屋も悪くねえぞ。

(了)

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