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アジアンウーマン

 しけたポテトチップは不味い。
 昨夜から開いたままの袋に手を入れ、残骸を探る。手の中に全部出して、口に入れる。不味さを確かめるためにだけ食べる。しゃりっとボソッの中間、最悪。

 青い瞳がこちらを見ている。ポテトチップスじゃなかった。トルティーヤだったかも。あの晩、テーブルに残っていたのは。泊まっていくつもりだった。青空マーケットの古着屋で買った勝負下着も身につけていた。ドレスは濃紺に百合の花、前あき。アジアの女にしては精一杯の装いで。
 ホームパーティーに招かれたのは、アメリカを立つ数日前。大学より簡便なインスティチュートのクラスメイトだった。ちょうど1年の付き合い。国内はもちろん、ヨーロッパ各地からの雑多な入学者、黄色い肌は二人。私とチャイニーズアメリカンのエイミー。冗談みたいな青い瞳と金色の髪のヤツと親しくなったのは、お互いが苦学生だったから。足りない授業料の代わりに芝生を刈ったり、小屋のペンキをぬりをしたり、というミンシュシュギの好きな学校だったんだわ。
 背があきれるほど違うので小屋を塗る時はヤツが上を、私が下の方を塗った。上から垂れたペンキがお気に入りのキャップに模様をつけた。ソーリー、とあわてる様子が可愛かった。奴はモテたからね、特にヨーロッパ人種に。アイルランドの血が混じっていてさ。男女関係なかったけど、結局横にいるのはいつも金髪の女性だったな。
 気づけばよかったんだよ。車なかったから色々連れ出してくれたのも、カタコトの話を面白がってくれたのも、物珍しさからだったって。

 奴は料理も手慣れていたから、ホームパーティの時も一緒に作った。OSUSHIを所望されだけど、ライスサラダでごまかして。ああ、もう細かいことなんて覚えていない。残っているのは意外とトイレが汚かったことと、無理にキスした時の戸惑った表情と。もう会えないって思っていたからね、欲しいものはとるオンナなのさ。ベッドに押し倒したけど、それ以上できなくて冗談にして笑った。
 谷底にある奴の家から、ボロい車でエンジンかけて死ぬ気で登った。ここでエンストしたら、格好悪いだろうがぁ。

ああ、会ったよこの間、ホールフーズで。20年ぶりかな。相変わらず問題のある女と付き合っていて結婚はしてないと聞いた。造園業をやってるんだって。ピックアップトラックの荷台には犬がいてさ。もう奴のこと大好きで大好きで好きで離してくれない。だからランチは外で食べたよ。あそこのアジアンヌードルはイケるね。
 こっち帰ってくる時にFBで繋がって。たまに見ると犬と馬の写真ばかり。
あれでよかったのに、奴のそばにいる一頭の動物で。
アジアンウーマンはお好きですか?

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