「雑誌」と「ウェブ」の飛距離
ちょうど1年前、世界三大広告賞の一つ「One Show」の取材で1週間のニューヨーク出張があり、その合間の時間で現地のメディア企業に取材して記事を書いていた。
張り切って書いたのに、残念ながら当時は(というか今もだけど)、どの記事もあまり読まれなかった。
ニューヨーク出張から半年後。それらの記事を思い切って雑誌に転載することにした。
これは、ウェブには日々たくさん良い記事がアップされるのにたった数日で消費されていて、それらを雑誌でうまくパッケージングすればウェブでは届かなかった人にも届くはず、と常々考えていたから。
で、まさにそれを実験してみようと、雑誌の7ページ分を割き、「ニューヨーク現地からのレポート」として収録してみた。
↑これが実際に雑誌に載せたページ
ウェブメディアだとフォーマットがあって流し込むことが多い一方、雑誌の場合はレイアウトから考えるからデザイン性も格段に上がる。
このときのはデザイナーさんに無理を言って突貫でつくってもらったとはいえ、デザインの力で一気に見せ方を変えることができた。
こうして記事の中身はそのままに雑誌に転載したところ、ウェブメディアに掲載をしたときよりも、はるかに大きな反響があった。
雑誌が出てしばらく経つと、「あのレポート記事面白かったよ」と、何人かからわざわざ連絡をもらい、「届いている」という実感が持てる反響だった。
そして、「文春オンライン」編集部から執筆依頼が来て、初の外部メディアに寄稿する機会に恵まれた。
ウェブではほぼ届かなかったのに雑誌だと本当に多くの人に届いた(極めて個人的な実感であって何のデータもないけど)。
それぞれの読者層が違うとか、それぞれの影響力との差とかの単純な理由は大いにあるとは思う。
飛距離という言葉で考えてみると、浅くてもいいから遠くまで飛ばすならウェブで、近くにしか飛ばないけど深くということなら雑誌で、というのもなくはないかもしれない。
ただ最も大きかったのは、雑誌という媒体特性を活かした「パッケージ性」にあったんじゃないかと思う。
ウェブメディアの記事は単体として、バラバラに散っていく。
今の時代、SNSのタイムライン上に流れてくる記事を読むことが主流で、わざわざメディアのトップページに来る人はほとんどいないから、影響力の大きい人にピックアップされたりしない限りは、なかなか届きづらい。
一方、雑誌はもともと数多ある情報をパッケージングして一つの特集に仕上げる。
マスメディアではなくターゲティングメディアになっている雑誌で、一連の記事をパッケージングしたことにより、届くべき人に届いたのだと思う。
要は、雑誌のパッケージ機能によって既出のウェブ記事も大いに再活用できるのだと認識したのが、このときの出来事だった。
そもそもウェブには良い記事がたくさんあって、それらが日々ただただ流れていってしまうのはもったない。
それは雑誌も然りで、雑誌記事はフロー情報も多いけど、流れてしまうにはもったいなさすぎるほど良い記事がたくさんある。
だから、たとえばメディアはバラバラでも特定のテーマのウェブ記事が何かの雑誌でパッケージングされたら面白いし、逆に、過去の雑誌記事のアーカイブをnoteで販売するみたいなことも大いにあり得るのではないかと思う。
前者は版権とか大変そうだけど、いずれもビジネスにはなるだろうし、紙とウェブとをうまく組み合わせることで、それぞれの記事の飛距離が伸び、メディアとしてのスケールにもつながっていくはず。
ウェブで流行った連載記事を書籍化するみたいなケースは最近よくあるけど、そうした動きを雑誌とも絡めてより複合的かつ横断的に仕掛けられれば面白いなと、雑誌を編集してきた経験から思う。
ちなみに、冒頭のニューヨーク出張中に書いた記事の中では、レイ・イナモトさんと古川裕也さんの対談はウェブでの反響が最も大きかった。
ただこれは雑誌に転載したところ、反響らしい反響はなかったのだけど。
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