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【創作童話】1000のこどもたち

あるところに、好奇心旺盛な女の子がいました。
女の子が森で絵を描いていると、
ひげを生やしたおじいさんが話しかけてきました。

「きみはとても素敵な絵を描くんじゃな。
 でもなんだかつまらなそうにしておるのう」


女の子は言いました。

「まいにちポピーに話しかけたり、稲の穂と一緒に踊るのは
 とても楽しいけれど・・・
 本当はおはなしの世界のような、
 わくわくするような冒険がしたいの」

おじいさんはひげを撫でながら言いました。

「そうなんじゃね。もう少しよく絵を見せてくれるかのう」

女の子は有名な絵を真似して書いた絵を見せました。

「うむ。とても上手だけど・・・他の絵はあるかな?」

女の子は1枚の絵を恥ずかしそうに出すと、おじいさんは驚いて言いました。

「これはとても良い絵じゃね!きみが考えて書いたのかい?」

「そうです・・・もじもじ」

おじいさんは急に、真面目な顔で言いました。

実はもうすぐこのあたりで、とても大変な事が起こるんじゃ。
 そうなった時、きみの絵は
 傷ついた人々を助けることができるかもしれん。

 わしはこの世界を救うために旅をしている者。
 きみはおはなしの世界のような冒険がしたいと言っていたが
 待っているだけじゃつまらないじゃろう。
 じぶんで物語をはじめればいいんじゃ」


なんとおじいさんはこの森に住む大賢者だったのです。
女の子は目を輝かせて言いました。

「それはすてき!
 私の描いた絵で誰かを助けることが出来るなんて
 まるで魔法みたい!」

大賢者はさらに真面目な顔で言いました。

「だけど簡単なことではないぞ。
 つらい事も苦しい事もあるかもしれない。
 誰かを助けるためには、たくさん作品を作り続けることが必要なんじゃ」

女の子は言いました。

「わかったわ
 ずっと探していたの。
 何か夢中になれることを…
 わたし、やってみる!」


女の子はさっそくクロッキー帳に絵を描き始めました。
けれど最初はうまくかけません
女の子は大賢者に言われたことを思い出しました。

「まずはとにかくたくさん描くことじゃ。
 だけどこのことは忘れてはならん。
 それは、どんなにたくさん描いたとしても、
 ひとつひとつに名前をつけてあげること。
 描いた絵はきみの子どもと同じじゃからな。
 綺麗な洋服を着せたり、お化粧をしたり、
 大切に育ててあげるんじゃ。」

それから女の子は毎日毎日、夢中で絵を描き続けました。

100枚描けたところで、女の子は大賢者に絵を見せにいきました。
彼は難しい顔でこう言いました。

「きみの絵は晴れた日が多いようじゃな。
 今日の天気はどうかね?
 きみの好きなポピーや野菜たちは雨が無いと育たないし、
 かえるやなめくじだってそうだろう。
 それに、夜の闇も必要じゃな。
 暗い空なら月や星の輝きに気づくことが出来るじゃろう。


女の子は大賢者に言われたことを忘れないようにノートに書きました。
そして家に戻ると、雨の日のミミズの喜びや月と太陽の恋など、
夢中で絵を描きました。

気付けば絵の数は300枚になり、また大賢者に見せに行きました。
彼はまたまた難しい顔でこう言いました。

「きみの絵にでてくる者たちは笑っていることが多いんじゃな。
 少し想像してみて欲しいんじゃが、もしきみに元気がないときには
 どんなふうしてもらうと嬉しくなるかね?
 きっとこうじゃろう。
 そっと隣に座って、だまって一緒に涙を流す。
 悲しい時に思い切り泣いてみることが、
 笑顔になる近道ってこともあるんじゃ。
 悲しみの色は何色かのう。」


毎日楽しく元気いっぱいに過ごしてきた女の子には、
すぐには大賢者の言っている事がわかりませんでした。
しかし、また言われたことをノートに書き、
つらいできごとを思いだしたり悲しい事があればすぐに絵を描きました。
悲しみと共に色を塗り重ねていくと、優しく美しい色になりました。

こうして女の子は絵を描き続け、気付けば部屋のじゅうたんは
たくさんの絵で見えなくなっていました。

なんと女の子は1000枚もの絵を描き上げたのです。
大賢者にそのことを話しに行くと、
彼はにっこりと笑ってこう言いました。

「よくがんばったのう。きっとその絵は後になって
 多くの人や、きみ自身を助けてくれるじゃろう。
 さあ、このあともその絵を大切にしながら
 新しいものも生み出していくんじゃよ。」



女の子は1000枚の絵のうち、気に入った絵を
家の外にかざることにしました。
すると村の人や動物たちが、
その絵を見に来るようになりました。

ある日お金持ちがうわさを聞きつけてやってきました。

「君の絵はいろんな時間や天気や色が合わさって、なんだかおもしろいね。
 僕に譲ってくれないかなあ。」

お金持ちは金貨の入った袋を見せながらいいました。
それをみた女の子は大喜び。

「わあ!こんなにたくさん!
 何枚も買ってもらえば
 お母さんやきょうだいたちに
 大きな家を建てたり、美味しいものを食べさせてあげられるわ!大賢者のおじいさんにピカピカの馬車を買ってあげられるかも!」

お金持ちはにやりと笑いながら言いました。

「じゃあ、まとめて…100枚くらいもらっていこうじゃないか。金貨はこのくらいで良いかな。」

女の子が絵を渡そうとすると、ふと
大賢者の言葉を思い出しました。

「どんなにたくさん描いたとしても、
 ひとつひとつに名前をつけてあげること。
 描いた絵はきみの子どもと同じじゃからな。
 綺麗な洋服を着せたり、お化粧をしたり、
 大切に育ててあげるんじゃ。」

女の子はお金持ちに絵を1枚だけ手渡し、こういいました。

「絵はたくさんあるかもしれけれど、
 1枚1枚が私のかわいいこどもです。
 どうか大切にしてあげてくださいね。」


こうして女の子は、心から絵を大切に思い、
1000枚の絵のお母さんになりました。



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