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拝啓"いつものフジロック"様

今年も夏が来ました。いかがお過ごしでしょうか。キンキンに冷えたそうめんと、そよ風に風鈴がチリンと鳴る縁側でスイカでも食べていますか?それとも夏のスキー場でドロドロになりながら爆音の中踊り狂って、お風呂に入る裸の行列に並んでいますか?

今年もフジロックへ行ってから1週間が経ちました。
"いつものフジロック"を目指して開催された2022年のフジロック。来場者数こそ前夜祭を含む4日間で69,000人と、"いつものフジロック"の大体半分の来場者数ではあったが会場に集まる人の熱量や愛は強く、ひさしぶりにこの苗場に帰ってきた人の声も多くあったように感じた。

昨年のフジロックは"特別なフジロック"と銘打たれ、国内アーティストで組まれたラインナップで開催された。その昨年のフジロックの様子はnoteにもまとめているのでこちらを是非一読していただきたいと思います。

「いつものフジロック」へ

個人レベルの話としては昨年もフジロック、苗場の地には来ているのでそれほどの感動や感慨深さのようなものは正直なかった。それでも「今年も無事来れた」というなんとも生き延びた達成感のようなものは苗場に着いた瞬間感じていた。

もちろんここ数ヶ月で感染者も全国的に増え、陽性だったり発熱があればどんなに準備をしてようが、チケットを持っていようが、行きたい気持ちがどれほどあろうが一発退場なのである。SNS上でも今回惜しくも行けなくなってしまった人の声も多く見られたので、なかなかいつも通り「自己責任」でのフジロックまでの道のりは遠いなと思ってしまった。だからこそ、ここ数週間の緊張感みたいなものはすごくあったし、ある意味でストレスにもなっていた。それが苗場に着いた瞬間に一気に解れ、無事にここまで来れたことに対して安堵感でいっぱいになったのかもしれない。

会場内の感染対策は昨年同様のゲートでの検温であったり消毒、そしてフジロッカーには「めちゃくちゃいい匂い」でお馴染みになりつつあるシンプルデイのハンドソープは今年も多く配置されていた。

そしてステージ転換の際のMCで、前方エリアでの立ち位置の注意喚起や、マスクの着用のルール説明等もしっかりと主催側から発信されていた。ただ、このマスクのルールに関しては、国の定めたルール内かつ個人のモラルで判断を委ねる場面があり、そこに関しては少しあやふやではあった。そのため正直なところ会場内でのマスクの着用率は主観では6,7割程度(着けたり外したりのタイミングもある)だったように思う。ただ正直フジロックの開催期間は過去ないほどの晴天で、驚くほど暑かった。なので熱中症で倒れるくらいなら少し外していた方がいいように思えたので、個人的には特にそれが悪い環境であったとは全く思っていない。それはライブ中の歓声や声出しに関しても同様のことを感じた。少しずつ前進していくタイミングなのだろうと感じていた。是非に関してはきっとしばらくは分からないが、着実に歩んで行かなければいけない道はあると思う。現場はそういった状況であった。


おかえりなさいの前夜祭

昼過ぎに着いてテントを張り終えた時、ちょうど雨が音を立てるほどの強さで降ってきた。元々雨予報だった3日間、それなりの気持ちと対策はしてきているので寧ろ苗場が歓迎してくれている気がして嬉しかった。テントの屋根を雨が打ち付けるのは苗場からのおかえりのハグだと思っている。これがいつものフジロック。ナイスハグでした。

夕方にゲートがオープン。前夜祭に向かう。思えば世界がこういった状況になってから夏祭りに行ったことがなかった。どこのお祭りも花火大会も中止、ようやく今年になって少しずつ状況が変わっている。ゲートをくぐり、苗場音頭と祭囃子が遠くから聞こえてきた瞬間に、懐かしい気持ちでいっぱいになった。いつもの人の入りに比べると少し少なく感じたが、オアシスエリアには多くの人の笑顔と嬉しそうな声で溢れていた。

フジロックに着いたらやっぱりこれでしょの気持ちで、もち豚に並んだ。同じ気持ちの人たちが列を成す。元気なスタッフさんたちの声にお祭り気分も盛り上がる。串を手にした瞬間、後ろで花火が上がった。嬉しそうな子供たちの声、店の人たちも花火を覗き込む、大人も子供もみんなが一斉に同じ方角の空を見上げる。夏の風物詩とはこのことだったこと、すっかり忘れていた。こんな光景を見たのもいつぶりだろう。スターマインには花火が一斉に上がり、花火が終わると拍手が沸き起こった。帰ってきた前夜祭に心から「おかえりなさい」と思い、苗場の地も僕らに「おかえりなさい」と言っていたような気がした。

花火が終わるとレッドマーキーからギターの轟音が鳴る。フジロックが今年も始まることを感じた。


Vampire Weekendがいる

始まりはやっぱりレッドマーキーから。いつでもフジロックはレッドマーキーから始まる、そう思っている。Michael Kanekoが作り出す自然のグルーヴに心まで踊らされながら心地の良い朝が演出されていく。朝から全身に音が染み渡っていく感じが心地いい。フェスのいいところは時間帯に関係なく音を浴びれるところにもある。

そしてホワイトステージで始まったDOPING PANDA。2012年に解散し、今年待望の再結成。そして20年前のROOKIE A GO-GOに出演して以来のフジロック。ようやく時代が彼らに追いついたと言っても過言ではないほどに、ホワイトステージの固いフロアを揺らした。新曲も挟みながら名曲"Transient Happiness"や"Crazy"を鳴らすその姿にはまるで10年のブランクなど感じさせない元祖人力ダンスロックの風格を感じた。この場面で「おかえりフジロック」と叫ぶフルカワユタカには俺たちの見たかった"スター"の姿が詰まっていた。

初日の夜には見たいアクトが詰まりまくっていて、あっち行ってこっち行っての大移動。初日というのは毎年いつも欲張ってしまう。Hiatus KaiyoteからDawesJonas Blueとフェスだからできる2,3曲観て移動する大忙しな楽しみ方。来年もっと海外からの来日が増えれば、当たり前のようなこの忙しさにさらに苦労することになるだろう。苦しいけど楽しい。フェスにはそんな表裏一体の現実が存在する。個人的にはJonas Blueのステージにゲスト出演したBE:FIRSTが観れたので心は十分に満たされた。まさかフジロックで推しのグループを観ることになるとは思ってもいなかったので。

そして念願のVampire Weekend。もう本当にずっと待っていた。コロナが始まる前にも一番ライブを観たかったのがVampire Weekendだったし、この2年の間とにかくこの日が来ることを夢のように待ち望んできた。その気持ちのまま、前方ブロックの真ん中で"NEXT ARTIST"の予告をするステージ横のモニターを観ながら、すっかり暗くなった夜空の下グリーンステージに集まる人たちの期待感で膨れ上がるのを全身で感じていた。とても懐かしい気持ちだった。2017年のGorillaz、2019年のThe Cureを待っていた時の空気を思い出した。子供の頃に映画館に連れてこられた時のような、ああいった類の非日常的な期待感でいっぱいになる瞬間を大人になった今でも味わえること。やっぱり幸せだなと思う。

定刻過ぎて、彼らがAC/DCの"Back In Black"のSEで登場すると、いきなりイントロで演奏をとちってしまい演奏をやり直すエズラ。しかし持ち前の愛嬌で空気を和ませたかのように思ったが、何かがおかしい。この時点で少しバンドに違和感があった。途中で外のスピーカーからの音が消え、ステージ上の中音のみがグリーンステージに鳴っていた。様子を見ているとどうやらギターのエフェクターを踏むたびに音が消えたりついたりしていた。オーディエンスは音が消えるたびに「聞こえない」とリアクションしていたが、次第に謎のヤケクソな盛り上がりを始め、拍手や歓声が上がり始めた。こういったトラブルが起きてもバンドのことを信頼しているからこそ成り立つのだと思う。フジロックのオーディエンスの楽しむことを忘れていない気持ちは本当にリスペクトしている。
ギターを交換し、大丈夫かと思われたが今度はギター経験者なら馴染みのあるシールドのジャックが壊れている時のノイズが鳴り、これにはもうヤケクソ盛り上がりも通用せず一時中断になってしまった。グリーンステージにはAC/DCの"Back In Black"が繰り返し流れていた。

10分程度の中断の後、ステージ上にバンドが戻ってくるとエズラが"Thank you AC/DC"と彼のお茶目な人間性が窺える一言を発して無事演奏は始まった。しかし次何かトラブルが起こったらどうしようという気持ちが湧いてしまい、あまり集中して見ることができなかった。もちろんバンドの演奏もライブ自体も良かった。彼らの持っている陽気な音楽のバイブスはいつでもこういった状況を跳ね除けてきたが、暫くぶりのライブだったこともあって少し彼らも困惑してしまっているように見受けた。MCでは何度も「大丈夫?」「楽しんでる?」とオーディエンスを気にかけるように伝えてくれていたし、やっぱりいいバンドだなと何度も感じる瞬間はあった。ただずっと楽しみにしていただけに100%の状態で観ることができなかった悔しくもあった。でもきっと彼らはまた日本にすぐ戻ってきてくれる気がする。今回すぐに願いが叶ったようにね。


レッドマーキーというユートピア

2日目も朝から暑い。とにかく暑い。目覚ましがなくても日の暑さで何時に寝ても6時には自然と起こされてしまう。冷房で温度管理された日常に慣れている我々人類にとってはあまりに刺激的な朝である。キャンプで滞在していると常にフジロックの会場内に寝泊まりしていることになるので、いつでもレッドマーキーの音は聞こえるし、近くのテントで話している人たちの笑い声や音楽が聞こえる。普段生活してる都市では壁が隔たり、隣の人がどんな暮らしをしているのか知ることができない。しかしキャンプ生活をしていると、近くの人の生活や人生が少し漏れ聞こえてくるようで、ある意味でひとつの村で生活しているように感じてくる。僕はこういった環境も好きだったりする。
みんながそれぞれの生活リズムで朝は起き出して、トイレに行ったり歯を磨いたりお風呂に入ったり、ご飯を食べたりコーヒー飲んだり乾杯してる人もいたり、外で二度寝をしている人たちもいる。全てが包み隠されず、人々の暮らしが可視化されている。みんなそれぞれに生きている様が見えるのがすごく嬉しい。

朝から何を食べようか悩めるのもフジロックの楽しみの1つである。とにかく場内の様々あるエリアでは何を食べても美味しいのだ。値段はフェス価格ではあるけど、量も質も本当に満足できるので全く損した気持ちにならない。日本で一番ご飯が美味しいフェスなのではないかとすら思う。そしてどこのお店のスタッフの人たちも対応が素敵で、ずっと楽しい気持ちが途切れない。ある種ディズニーランドのようなテーマパーク性も感じる。それは決して管理されたものではなく、みんなの「フジロックが好きだから」ということが根底にある気がしている。好きなこの環境をなくしたくない、大切にしたいと根付いてきた文化が脈々と育ってきていることを感じる。

ゴミ回収のスタッフの人たちも「分別ありがとうございます!」と笑顔で言ってくれる。きっと暑い中、立ちっぱなしで大変だろうに素敵だと思った。ライブ中に踊りながら仕事をしていたり、空いている時間に楽しそうにスタッフ間で談笑したり、フランクにお客さんに声をかけてくれたり、ここにはスタッフとお客さんというような関係性は存在しなくて、全員がフジロックを楽しんでいる人たちなのだろうと思う。この環境をせめてこのフェスティバルの中だけでも守っていきたいと心から思っているよ。

2日目は前日の張り切り過ぎた疲れを引きずってしまったので、スローに活動を始めた。お祭り番長ことORANGE RANGEはいきなり平成の超ヒット曲"花"でライブを始めるなど、自分達のここでの役割をよく分かっている立ち回りをしていた。個人的にも小学生の頃に人生で初めて好きなアーティストとして認識したのがORANGE RANGEだったので、とてもエモい気持ちでいっぱいになった。きっとそんなアラサー世代の大人がグリーンステージに集っていたのであろう、気がつけばグリーンステージはお昼頃にも関わらずいっぱいだった。場違いと言われれば場違いでもあるような彼らのようなバンドが沸かせる瞬間があるのはとても嬉しい。"以心電心"や"ロコローション"などのヒット曲には懐かしさなのか楽曲の持つポップさなのかは分からないが、とにかくめちゃくちゃ楽しいライブだった。

毎年様々な装飾が綺麗に施されているステージ間のボードウォークは、秋頃に行くと枯れ葉が積もっていたり木が腐敗して崩れている箇所があったりもする。それを毎年フジロックの前に修復して綺麗にしている人たちがいるおかげで快適に過ごせるのだなと思う。ここにいない多くの人も関わってひとつのお祭りが開催されていることを思うと、自分のやっている仕事もきっとどこかの誰かの喜びを支えているのかもしれないと思えてきた。
そんな森の中のボードウォークを抜けるとその先に見えてくるフィールドオブヘブンから、優しく綺麗なtoconomaの演奏が聞こえてくる。2019年の同じくフィールドオブヘブンでやっていたライブは映像でしか見たことがなかったが、とても感動的なライブだった。ピアノの音が森に響き渡って空気をより澄み渡らせる。特に森に囲まれたフィールドオブヘブンはそういった音楽を歓迎してくれる場所だと思う。非常にこの場所に歓迎されているバンドのひとつだった。

そこから急いで隣のホワイトステージに向かう。インディロック好きとしては絶対に外せないSnail Mailを観るためだ。OasisのTシャツ(たぶんアダムエロペのやつ)に短パンの、少年のような出立ちで楽しそうに演奏するリンジーの姿がとにかく最高だった。音源で聴いているよりもずっとエネルギッシュで、ベッドルームポップとかインディロックと呼ばれるアーティストは基本的にライブが音源よりもずっと良かったりする。だからこそライブで見る価値がある、というかライブで観たい!という気持ちにさせてくれる。これまでのリリース曲を満遍なく演奏してくれるセットリストで嬉しかった。

ヘッドライナーのひとつ前のスロットの時間帯が一番好きだったりする。徐々に暗くなっていく中でライブが進み、照明やVJの演出も目立つようになってくる上、まだこの次のヘッドライナーのライブも控えている。そんな楽しめる余地がある中でのFoalsはまさにピッタリな抜擢だった。初っ端から"Wake Me Up"、"My Number"と、世界中を踊らせてきたバンドの地肩の強さと楽曲の楽しさを全開で感じる選曲には「これがライブバンドと呼ばれるわけか…」と思わず口に出そうになった。このライブだけで思わずファンになってしまった人も多いのではないだろうか。そして、とにかく大きいステージがよく似合う。次はきっとヘッドライナーで戻ってくるだろう。2017年にThe xxをグリーンステージで観た時と同じ予感がした。(The xx早く戻ってきておくれ)

レッドマーキーは新人アーティストや初来日のバンドの登竜門となっている。このレッドマーキーを沸かせたバンドは必ずビッグになっていく。先ほどグリーンステージで演奏していたFoalsや、今年のヘッドライナーのJack Whiteが在籍していたThe White Stripes、今や世界のスタジアムバンドにもなったThe Killers(早く戻ってきて)もかつてはレッドマーキーに出演していた。
そんな予感を今年これ以上ないくらいに感じたのがArlo Parksだった。これまでにも数々の世界中のフェスに出演し、出るところ出るところで既に大きな話題となっているので、新人扱いなどする必要は全くと言っていいほどない。それでも待望の初来日は誰もが目撃したいとレッドマーキーには多くの人が集まっていた。

コーチェラの時にもあったヒマワリが装飾された可愛らしいステージに先に上がっていたバンドメンバーの演奏が始まり、彼女が登場すると大きな歓声と共にレッドマーキーが緩やかに揺れ始める。いつも思うが夜のレッドマーキーには異様な熱量というか、最高なグルーヴが生み出される瞬間がある。今夜は久しぶりにその熱を感じた。オーディエンスの動きがそれぞれ自由で、好きなように踊り、好きなように動いている。誰に習ったわけでもない踊り方で音楽に乗り、遠い異国の地へ足を運んでくれたアーティストへのリスペクトを込めて全身で受け止める。そんな1人1人のバラバラな喜びが大きな1つの空間に集約されていく。

曲が終わるたびにオーディエンスは「ようこそ!」の気持ちも含めて大歓声と拍手で応える。その歓声はレッドマーキーの屋根を吹き飛ばしてしまうのではないかと思うほどだった。こうした盛り上がりを見せたアーティストは必ず次に大きなステージへとステップアップしていく。そんな歴史的な瞬間を目撃でしている最中なのではないかと、ここにいた多くの人が感じていたはずだ。

伸び伸びとしたパフォーマンスと特に今回印象的だった嬉しそうな笑顔と、今日のライブの充実感を感じさせる場面も多くあり、音楽的にすごく充実した活動が行えているのだろうと伺えた。最後の曲、"Softly"を歌い終えるとバンドを残してステージを降りていった。拍手と歓声は鳴り止まず、この多幸感でいっぱいになったレッドマーキーこそ"いつものフジロック"の象徴だと思い出すステージとなった。

その後は各メインステージのヘッドライナーの時間となる。グリーンステージでは今回注目されているヘッドライナーのJack White、ホワイトステージでは復活のCornelius、フィールドオブヘブンではBlack Pumasの代打出演となったHiatus KaiyoteのフロントパーソンNai Palm。とても悩んでしまうようなラインナップの中、僕は苗場プリンスの苗場温泉ステージを選んだ。昔だったらそんな選択はできなかっただろうが、キャンプ生活だとお風呂の入る時間というのはとても重要になってくる。どの時間帯に入るかで混み具合も変わり、生活のストレスレベルも変わってくる。これがいわゆるQOLというやつだ。よく知らないがきっとそうだ。
遠くから微かに聞こえる"Seven Nation Army"を聴きながら露天風呂に浸かる。きっとこれもそう味わえるものじゃない。大人のフジロックの楽しみ方を少しずつできている気がする。

お風呂を上がった後に苗場プリンスホテルのトイレへ向かうと、はしゃぎ回る海外の男の子たちの笑え声が聞こえてきた。なんだか若そうで仲良さそうな様子だったのでなんとなくジッと見ていたら首から下げているパスに「Black Country,New Road」の文字が。あー!と思い声をかけようか迷ったが、彼らは修学旅行テンションのまま階段を2段飛ばしくらいで駆け上がって行ってしまった。単純な人間なのでそんなことに運命を感じて、明日のホワイトステージには絶対行かなくてはいけないと誓った夜だった。こういうアーティストとの距離が必然的に近いのもフジロックの面白みの1つでもある。みんなでひとつのフェスティバルを作り上げているのだなと、1日ですごく感じた日だった。


本当のヘッドライナーとは

3日目の朝はピラミッドガーデン恒例の朝ヨガで始めていく。ピラミッドガーデンはキャンプサイトと直結したステージがあり、ドリンクやフードも充実していて子供の遊具もある、会場内でも一番ゆったりとした時間が流れるエリア。夜はキャンドルが灯される中で演奏が行われる。
朝から暑い日差しを送る太陽が仁王立ちする晴天の中、芝生に寝転んで全身を解していく。体内の空気や疲労が吐き出されて、新しい朝の風が全身を巡るように自然の空気を体内に取り込む。朝からヨガをやることで色々な邪念が取り除かれ、リラックスするこの時間がとても大切。そして終わった後に美味しいコーヒーを飲む。これだけでもうフジロックに来た充実感すらある。ようやく3日目くらいで自然との共存や、ここでの生活の学びを得ていく。次に活かせるのは1年後。きっとまた1からのスタートになることだろう。

フジロックは人それぞれの様々な楽しみ方ができることがいい。他の人の楽しみ方を否定することもなく、比較することもなく、純粋に自分の楽しいことに没頭できることは何より素敵だと思う。社会全体の空気もそうなればいいのにとフジロックに来るといつも思ってしまう。

この3日間は結果的に雨もほとんど降らず、長靴もレインポンチョの出番もないほどだった。むしろこの暑さにどう耐えるかが問われ続けた。そんな暑い日々の中でおそらく多くの人が訪れたであろう、ところ天国にある浅貝川。水質の綺麗な清流に足をつけるだけでもひんやりして気持ちがいい。例年この川沿いには多くの人が集まっていて、ここで1日ボーッとしている人やお昼寝をしている人もいたりする。いろいろな楽しみ方をしている人たちをただ眺めているだけでも愛おしい時間が過ぎていく。

家族連れがびしょ濡れになりながらはしゃぎ回っていたり、子供たちが叫びながら川の中を駆け回ったり。そんな光景を見ていると子供たちの夏休みを擬似体験しているような気持ちになって、脳内で久石譲の"Summer"が流れてきては思わずグッときてしまう。それほどにピースフルで心地のいい時間が流れる場所なので、ライブばかり観ていて普段あまり訪れたことがない人には是非来年ここでひと休みしてもらいたい。

フジロックは、家族連れでも楽しんでもらえるような施策にも多く取り組んでいる。キッズランドやKIDSの森のような子供たちが時間を忘れて遊び回れるエリアがあったり、KEENが主催するアウトドアを楽しめるキッズプログラムをやっていたりと、子供が大人に付き合わされるだけでなく、大人と子供が同じだけ楽しめる場所を提供しようとしている。
元気に遊んでいる子供たちの会話の中から時折聞こえてくる「お友達になろう!」の声には、大人になって見習いたい純粋さが致死量なほど詰まっていた。子供たちが幸せそうな空間は誰もが幸せでいられる空間だと思うので、こういった取り組みは本当に大切だし、もっとたくさんの子供たちに最高な夏休みを提供してあげてほしいと思った。

そんな子連れフジロッカー向けの情報を発信している「こどもフジロック」のアカウントもあるのでこれを参考に楽しむのも良さそう。いつか自分にも子供ができたらこうやって楽しむのもいいかもしれない…と、そんな風に思った。

3日目はヨガをやって、川で涼んでお昼寝をして、ほぼほぼまったり苗場の地を堪能しているだけに思えたけど、この楽しみ方が自分には合っていた(結局4日間で100km以上歩いていたけど…)。ようやく腰を上げて向かったのはホワイトステージ。約束のBlack Country, New Roadを観にきた。昨日トイレで男子チームに遭遇してしまったばかりに、今回絶対に観たいバンドの1つになっていた。

前日のヘッドライナーだったJack Whiteの"Seven Nation Army"をSEに登場すると、昨日遭遇した彼らのプライベートな雰囲気そのままに、緩やかな空気で演奏が始まっていく。Black Country, New Roadは1stアルバムが大きな話題を呼んだが、2ndアルバムをリリースしたタイミングでメイン・ヴォーカルのアイザックが脱退。つまり全て完全新曲という状況でライブが行われた。
サイケやフォークからの影響を感じさせる楽曲は青空の下の自然の中でよく映えていて、楽曲ごとに交代するボーカルは、それぞれが伸び伸びと歌っていて、バンド内の空気の良さを感じた。途中、ルイスが目の前に現れたトンボに驚いたり、演奏を少し間違えて照れ笑いをしたり、しまいにキーボードのメイとヴァイオリンのジョージアが演奏する曲で、他のメンバー全員がステージ上に座り込み、ビールを飲みながらオーディエンスと同じようにライブを観ていた。その様子が本当に昨日の修学旅行テンションだった彼らと何も変わりがなくて、とても愛おしくなってしまった。

最後の曲"Dancers"が終わると、ベースのタイラーが思わず感極まり、変わるがわるメンバーとハグをしながらステージを降りていった。かつてタイラーの父であるUnderworldのカールハイドに連れられ、フジロックに来たこともある彼女が、自分のバンドでまた来れたことに思わず感極まってしまったのではないかと感じた。いずれにせよ彼らの初来日を観れたことがとても嬉しかった。きっともっと大きくなって帰ってくるだろう。またその時は絶対に観たい。トイレでも遭遇したい。

ホワイトステージのライブ後は、坂を登った先にあるフードエリアで森のハイジカレーを食べる。フジロックの会場内でも様々な種類のカレーを食べることができる。3日間で全部のカレーを制覇した強者はいるのだろうか。もしいたらどのカレーが一番美味しいか聞いてみたい。ちなみに僕のおすすめはピラミッドガーデンのピラミスカレーです。

この時間になると朝霧食堂などのお店でも売り切れのメニューが増えてくる。もう3日目も大詰め、日が暮れるにつれて寂しい気持ちが押し寄せてくる。この日々のために1年頑張ってきたと言っても過言ではない。僕以外にもそんな気持ちでいる人たちもたくさんいるのではないだろうか。ライブやフェスが中止になったり、お預けを食らっていたこの2年。これを生き甲斐にしていた音楽好きの人たちは、本当によく生き延びたと思う。辛い気持ちや、苛立ち、悲しみを昇華することができずに、それでも社会で生きてきた人たちへの祝祭の意味もこのフェスティバルには込められていると勝手に思っている。人生において必ず生きる目標となるような日があることは、とても幸せなことだと思う。どうかこれからも続いていきますように。

そんなエモーショナルな気持ちをぶっ叩くようなステージをやってくれたのがSuperorganism。最新作の『World Wide Pop』も本当に最高なアルバムだったので楽しみにしていた今回のライブ。よりハッピーで、よりクレイジーで、簡単に言うとイケてた。前回フジロックに出演した2018年は、オロノがオーディエンスやライブの空気感に対して不満を抱いていて終始ブチギレていた印象しかなかったが、今回は落ち着いて堂々としたライブをやっていた印象だった。だからこそ、よりバンドとしてのサウンドや方向性が明確に提示されていて、最初は重めだったオーディエンスの空気も次第に盛り上がっていく。ステージに用意されたソファでだらけながら歌ったり、時折オーディエンスを煽ったり、オロノの「マジでどうでもいいけど楽しめ」みたいなバイブスが全面に出ていたパフォーマンスだった。

最後の楽曲"Something For Your M.I.N.D."の前には、ステージ上にオロノがオーディエンスの中から気に入った人たちを片っ端上げるという非常にオロノらしいやり方で、最高に笑った瞬間だった(ハーモニカを吹ける人を探していた時が最高に笑った)。結局ステージ上には20人以上の人が上げられ、全員で"Something For Your M.I.N.D."を合唱してライブは終わった。
オーディエンスがステージから降りるのを1人1人見送るオロノの、面倒臭そうだけどハッピーなバイブスがやっぱり癖になる、最高のフロントパーソンだと思った。いつかFlaming Lipsのようなド派手なステージングで行われるライブも観てみたいとも思った。

そして待ちに待ちに待ちに待ちに待ったTom Mischのステージ。2019年のGreenroom Festivalでヘッドライナーとして来日したライブを観てから、翌年の2020年のフジロックのラインナップで発表されて、すぐにまたライブが観れると歓喜していた日から2年半。とても長かった。振り返れば様々な環境も変わり、Tomもあれから2枚のアルバムをリリースしている。さらに今回、Tomはメンタルヘルスを理由にオーストラリアとニュージーランドでのライブをキャンセルしていたので、一時は来日も難しいと思われていたが、前日に渋谷のタワーレコードに来ている写真がアップされ、ちゃんと日本に来ている事実だけでも既に大きな喜びだった。

フジロックでのライブを待っていたこの3年の間に勝手に想像していたシチュエーション通りに空が暗くなり始め、グリーンステージにはTomが作り上げるグルーヴに酔いしれたい人たちが詰めかけていた。
いつもと変わらない穏やかなテンションでTomがステージに上がると「これぞTom Misch」と呼べるようなギターのサウンドを苗場に響かせていく。パーカッション、サックスなど様々な楽器が重なり合って生み出されるグルーヴが心地よく、少し涼しさを感じるようになったグリーンステージの空気を揺らす。"It Run’s Through Me"や"Disco Yes"などのアルバム『Geography』に収録された楽曲のキャッチーさでフロアを盛り上げると、"Nightrider"などの『What Kinda Music』に収録された重めのグルーヴの楽曲でがっちりと空間を固めていく。そのバリエーションのバランスが前回の来日時には存在しなかったので、よりTom Mischの魅力を押し広げているように感じた。

これまでの作品から満遍なく披露するセットリストは、しっかりとライブでのアレンジもされていて、前回の来日時よりも格段に良くなっていたように感じた。ただ踊らせるだけでもなく、ムードを作るだけでもなく、演奏面も含めてとにかくいい音楽を鳴らしていた。通常ではオーストラリアやニュージーランドも含めて来日公演のスケジュールもするので、日本もまとめてキャンセルになってもおかしくなかったはずだ。それでも今回Tomが日本をキャンセルしなかったのは、これまでの来日公演で作り上げられた、オーディエンスとの空気感があるからなのだと思う。最後に"Lost in Paris"と"South of the River"を続けて演奏したTomは大歓声と拍手の中、嬉しそうな笑顔を浮かべながらステージを降りていった。これぞ多幸感。夢の中でも踊っていたいライブだった。

いよいよもう最終日のヘッドライナーの時間になってしまった。グリーンステージではHalseyが想像以上にエネルギッシュなパフォーマンスをやっている中、そこを横切ってホワイトステージへと足を急がせる。こちらも2020年のフジロックのラインナップで発表されてから待ち続けていたMura Masaのステージ。
2019年に一度DJセットのMura Masaを観たことがあるのだが、いかんせんその日は体調がすこぶる悪かったためほとんど記憶がない。そのためほぼ完全初見のMura Masaくん。最後は完全に踊り切ってフジロックを終わらせるぞの意気込みでホワイトステージへと辿り着いた。

最終日のヘッドライナーということもあって、ここに集まったオーディエンスの熱量が異常なほどに高い。恐らく深夜のクラブと同じ客層なのだろう。ステージ上で猿が回り出しても熱狂しそうなほどにフロアは温まっている。"Nuggets"、"1 Night"と徐々にフロアを揺らし始めると、Mura Masaがギターを手に取り、始まったのはClairoをフィーチャーした楽曲"I Don't Think I Can Do This Again"。2020年にリリースされたアルバム『R.Y.C.』は個人的にも人生のベスト5に入るほどに大好きなアルバムだったので簡単にピークに達してしまった。サビで一気に解放していくエモーショナルな展開にはフロアが一気に熱狂へと変わっていった。その熱狂のまま"Deal Wiv It"へ突入。さすがDJをやってるだけあってセットリストの組み方や盛り上げる展開を作るのが上手い。

これまでライブ映像でもMura Masaの普段のパフォーマンスを観たことがなかったので、今回初めてどんな風にライブをしているのかを知った。ギター弾いたり、ドラムを叩いたり、パッドを叩いたりと、とにかく1人で忙しなく卓の上で動き回っている。プロなので当たり前とは思うが、よく間違えないな〜などと感心しながら踊り倒していた。
後半のキラーチューン、"What If I Go?"から"Firefly"までの流れは正直もう伝統芸能かのような佇まいすら感じる。"アガれる曲とりあえずやっとくから好きに踊っちゃってどうぞ"といったような冷静に煽ってくるスタイルが最高にクールで、とにかく最高だった。Mura Masaはライブで観て初めて完成するアーティストだとも思った。あの音響で、あの低音で聴かないと正しいMura Masaの音は聴こえてこない。最終日のラストを飾るのにふさわしい完全燃焼させてくれるライブだった。

Mura Masaが終わると、ちょうど見計らったように雨が降り始めてきた。寂しさの雨なのか、労いの雨なのか、ホワイトステージからキャンプサイトに戻るまでの道のりをシトシトと雨が降る中で歩き続けた。

お風呂から上がるとお腹が空いていることに気付く。フジロックは深夜であってもフードエリアがやっていることが本当にありがたい。ちょうどOasisのライブドキュメンタリー映画が上映している時間だったので、イエロークリフで腹拵えがてら映画を観に行くと、同じようなことを考えてる人たちがそこそこ集まっていた。僕のようなお風呂上がりに来た人、レッドマーキーで少し踊った後に来た人、帰り道にたまたま映画がやっていることに気付いた人、そんな人たちが集う深夜のプチ集会は、気が付けばOasisのプチ合唱盛り上がりを見せていた。やっぱりOasisというバンドの求心力はすごい。遠くから聴こえてくると、さもその場で演奏しているかのようにも聞こえる音響システムで、深夜の時間にOasisを聴くとやっぱり湧き上がるものは確かにある。なんだかこのくらいの温度感で、ゆるやかにみんなが楽しそうに過ごしている空気が好きで、俺の心のヘッドライナーはやっぱりOasisだったんだと決めてしまった。こうして今年の僕のフジロックはOasisで締めくくりとなった。


フジロックに思うこと

月曜日、やっぱり今日も清々しいほどの快晴で、テントを片付ける。フジロック自体は日曜日で終了となるが、月曜日の朝もこうしてフードエリアがやっていることがとてもありがたい。テントを撤収した後に、ピラミッドエリアでのんびりしながらコーヒーやカレーを食べて、ただひたすらのんびりしながらこの4日間のことを思い返していた。

どうして僕はこんなにもフジロックが好きなのだろう。どうして当たり前にこの場所に戻ってきたいと思うのだろう。アーティストのラインナップがいいからなのか、ご飯が美味しいからなのか、川が気持ちいいからなのか、自然が豊かだからなのか、音響がいいからなのか。もちろん今あげたことは全て正解ではあるけど、結局のところここに集まってくる人たちのことが愛おしく感じるからなのだと思う。ここで1年ぶりの再会をして、「また来年」と別れていく人たちがきっと多くいるだろう。決してチケットを一緒に買う約束をしなくても、必ずここに集まってきてしまう。そこにいれば必ず会える場所というのは大人になると作ることが難しくもなってくる。それでもフジロックは再会が信じられる場所になっている。若い頃に一緒に行った友達と数年後にお互い家族を持ってで再会したり、別れた昔の恋人に再会したり(?)、思いがけない出会いもきっとあるだろう。自然と人が集まってくる場所を提供し続けるのは難しい。それでもそういう場所を守り続けようとする運営スタッフの方々や、ボランティアの方、地域の方々、そして参加する人たちのモラルやマナー、そういった人たちの心が場所や文化を守り続けていくのだと思った。

僕はもう極力ネガティブなことを考えすぎたり、不安を煽ることは言いたくはない。そういう言説が世の中にあまりに増えすぎている。ネガティブに寄り添うよりも半歩でもいいから前に進めるように考えられるようになっていきたい。日本の音楽の状況や、ライブの状況、エンターテイメントがもっといい方向へ向かっていくように、本当に心から楽しかった!という気持ちで終わらせたい。本当に楽しかった!来年も絶対に行くぞ!

"いつものフジロック"を目指して開催された今年のフジロックはいつもよりも色々なものを大切に愛おしく思えたフジロックだった。いつでも僕らにとっては"特別なフジロック"なので、きっとこれからもそれは変わらないでしょう。
ありがとうフジロック。おつかれさまフジロック。

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