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最近思うこと#17 電車が3分後にやって来る街

休日の各駅停車、すごく好きだなといつも思う。平日の各駅停車はもっと好きだ。

後ろの窓から日が差す座席に座ると、首筋に暖かさがじんわりと伝わる。冬なのに暖かいこんな日は服装もバラバラで、何を着てもいい日に感じる。今日という日の自分を選んでいい。向かい側のカップルがおそろいのコートを着ている。胸の辺りが少し暖かい。

読みかけだった本に目を落とすと電車が走るスピードで、手元に開いたページに光がキラキラと当たって街の影が走る。本の中の物語と今自分の住んでる街がシームレスに溶け合う。ページをめくると影も光も指先に触れるように本の上を跨ってくる。心と体とが繋がるような気がして、ギュッと抱きしめて電車は次の街へと走っていく。

きっとまた感じることのある胸の温かさを今日はここに認めておくことにする。


東京の街で生まれて、神奈川県で育った。

東京の街は3分で次の電車がやってくる。山手線の渋谷の駅のホームは端から端まで歩いてる間に次の電車がやってくる。人を運んで、また人を攫って、電車はグルグルと朝と夜を運び続ける。

中学生の頃には時々塾をサボって友達と渋谷や原宿、下北沢に遊びに行った。お金なんてたいしてないのに裏原や下北沢で古着を買ったり、当時あったHMVやタワレコで片っ端に試聴機で新譜を視聴して、最終的にラーメンを食べて帰ってくるのがルーティンだった。

いろんな人が東京の街を歌にする。
遠くの街からこの街に人がやって来ては去っていく。東京のことを勝手に誰かが歌にする。何も知らないのに決めつけたように歌にする。
僕にとっては帰る街はここしかないのだ。どこかからやって来た人は、好き勝手に東京という街に意味をつけて遊んでは、自分の元いた場所に帰っていく。羨ましいなと思う。帰れる場所があること、捨てられる場所があること。誰かにとってどんな意味があったとしても、居場所はここしかなかったわけだ。

今日もこの街は強い風が吹く。強いビル風が吹き抜けて、人の波が轟々と波打つように揺れる。街宣車、サイネージ、うねるように何かが変わっていく。

渋谷の街では長く仕事をしてきた。それでもコロナ禍の2020年、ロックダウンの期間の人の誰もいない渋谷の姿を見た時には驚いた。朝でも夜でもない晴天のお昼時の渋谷スクランブルに人が3人ほどしかいない。あの光景はきっともう二度と見られないと思う。カラスの鳴き声だけが響く渋谷の駅は世界の終末の光景のようだった。

そんなことを思い出しながら2023年、人混みの渋谷スクランブルを歩いた。世界は終わらなかった。時間は進む、時代は変わる。人を波に乗せて、音を立てて、ビルが建ってはまた崩れ、今日も電車は朝と夜を運んでいく。3分に一本、誰かを乗せて、人の住む街へと運んでいく。

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