『スペル&ライフズ1』全文試読 #スペルラ #スペルラ全文試読

noteは放置垢と化しているのだけれど、このたび一般書籍の発刊前全文試読という貴重な機会を得たので、レビューを書いてみようと思う。というか、単にツイッターで感想をつぶやこうとしたらアホな長文になったので投げどころを探していただけなんだ。ただのもったいない精神なのでお目汚しかもしれないけれど、一応販促にでもなればいいねっていう。

全文試読:十利ハレ『スペル&ライフズ(1) 恋人が切り札の少年はシスコン姉妹を救うそうです』


 こちらはオーバーラップ文庫大賞第9回の金賞作品。作者さんのツイッターを見かけて応募したらおいでなすった。校正完了前のものとのことで、確かにこまごま妙なところはあったけれど製品版では修正されるんだろう(なお予約済み)。挿絵もなかったりして二重の意味で新鮮。

 さて中身は、金賞も頷ける”お上手”な作品で、なかなかポテンシャルも大きいという印象。
 簡潔に言えば「トレカ依存型異能LF」(LF=ローファンタジー)。選ばれし少年少女だけが異次元から"ドロー"できるカードでデッキを組み、カードに搭載されている異能を用いて己の目的のために動く。

 いわゆる販促漫画のようなカードバトルではなく、あくまで異能モノのコンテクストなのが特徴だろう。トレカやガチャゲーなどで見慣れたコンテクスト(レア度やデッキ等の概念)だけを活用している。カードゲームといえばルールを覚えるというハードルがつきものだけれど、この作品で覚えておくべきは「一日に使えるカードは10枚まで」という制約くらいのもの。登場人物たちが何を言っているかは理解しやすく、単純にとっつきやすい。

 バトルモノではあるものの、"異能バトル"とあえて表現せずにおく。プレイヤーたちにバトルフィールドは存在せず、戦闘以外もあらゆる場面で異能を用いて立ち回る。戦いに特化してはいてもそういう“異能”だからだ。
 また、その異能をプレイヤーが直接持たずカードという外部装置が預かる形になっている点はユニーク。この設定によって、カードはオーパーツのようにも解釈されているし、時には意思を持って独り歩きするキャラクターともなる。この特性はLF的な世界観に広がりを感じさせてくれる。

 ストーリーは連立して込み入った事情を簡潔に見せるという点で巧みだ。
 主人公も押しかけ型のサブヒロイン(物語的には主役)もそれぞれで人探しをしているのだけど、ふたりの利害が一致し共闘することで、“探されている側”も含めた人物・組織相関を自動的に強調し続けてくれる。キャラ数がそこそこ多いうえに相関が重要な作品なのだけれど、相関さえ理解すればあとは明快な内容でもあるだけに力の入れどころが適格だ。

 看板でもあるメインヒロインは主人公のバディに収まっている。それでヒロインとしては小ぢんまりとしてしまった前例には多々覚えがある……が、ここはこの作者さんの真骨頂、“かわいい”の一点突破でヒロイン:ミラティアの存在感をかすませず、サブヒロインとの棲み分けにも成功している。

 一方、主人公自身は過去があること以外はあまり特筆することがない。いわゆるラノベらしい主人公のうちの「ツン・ヤレヤレ型」だ。
 ただ、中盤あたりからは初見の印象ほど臭みがなくなり、親しみやすい側面や骨のある側面も見えてくる。それは「主人公全肯定型のメインヒロイン」という作者さんの采配と、やはり作者さんの腕前だろう。

 物語における主人公の存在自体は、解決装置に収まっている節がある。これはどちらかといえばサブヒロインが主体のプロットと言えるせいで、主人公自身の物語はこれからが本番だ的な感触のためだろう。
 ただし反面、シリーズ的展望においては十分含みがあると言え、期待を持たせる構成になってもいる。たった一巻で役者をそろえ、二極以上の勢力図まである程度認識させた。それもまだ増やせる予感(ヒロインも他勢力も)と共にだ。
 そもそもこれは“カード”という名のオーパーツをめぐるローファンタジー。カードが内包する謎も、それが人や世界に与える影響も計り知れない。一方そのような漠然としたもやの向こうに対する興味も、やはりトレカ、なじみ深いせいか持ちやすい。

以上。


実際の新刊表紙(予定?)

 うーん、最近そういえばマトモにLF読んでないぞ?(書いてはいたw)という感じだっただけに、欠けていた必須栄養素を補給した感。
 作者さんはヒロインの造形にはこだわりがあるとのことで、ナルホドカワイイ(*´ω`) 犬か猫かで言えば犬っぽいのに基本自由なミラティアちゃん。だけに、面倒見のいい主人公のリアクションのほうで笑ってしまうことが多かったのだけど、「お前が好きなのはプリンなんだよなあ」は好きなセリフですw

 あと夜帳ちゃんが推せる(*˘ω˘)✧
 願わくば、人気シリーズとなりますように。

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