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逢う魔が時は木の芽時(vol.2)

2017年3月21日
17:20

「帰ってください。」


「・・・え?」
今なんて言った?

「歩けるようになりました?」


「え・・・ええ。痛いですがなんとか足は動くようになりました。でもいたぃ・・・」

「ならお帰りください。ここではこの様な症例の場合、骨折しているか、排尿出来ない方しか入院は出来ないんですよー。痛み止めが効いているうちに早めのご帰宅をおすすめしますよ。」

カルテに追記しながら淡々と救急看護師は話す。

「待って痛み止めって切れますよね?もうあの痛みに耐えることは出来ないです薬が処方されてるわけでもないのにこのまま帰ったらまたみんなに迷惑かけま・・・」

被せるように

「聞こえました?こーこーでーはーこの様な症例の場合骨折しているか排尿出来ない方しか入院は出来ないんです。明日整形外科の予約取っておきましたんでーまたその時担当医が聴きますから。痛み止めが効いているうちに早めのご帰宅を。」

いやいやすっごい痛いんだって!!!何言ってんの入院普通でしょ?

痛み止めが効いて少し人間らしさを取り戻した淀にとっては罵倒にしか聞こえなかった・・・


ただ

耳に飛び込んでくるサイレンの音が10分程度に1回。


ストレッチャーの擦り切れる車輪の音と共に通達される救急救命士の伝達内容と救急看護師の質問。聞いたことのないカタカナの羅列とミリグラムを省略した小数点第2位までの数値。

数人のスリッパの音。


「男性ーー41歳ー車両事故による圧迫ー」



ギッギッギッギッギッギッギッギッギッギッ


「1,2,3,4,5,6,7,8,9,10!はいー!」


「意識レベル低ー声掛け10分対応その後脈拍低下無反応ーーー!心肺機能なーし・・・・・!」

ギッギッギッギッギッギッギッギッギッギッ


「1,2,3,4,5,6,7,8,9,10!はいー!」



救急搬送救命士の一定したリズムと掛け声。カーテン越しに見える膨らみしぼむ風船。

同じく

心臓マッサージの時にしか刻まれない心電図のアラーム音

「お願いします!!主人を!!主人を助けてください!!」
夫の名前を呼び泣き叫ぶ伴侶と思われる女性と共に運ばれるピクリともしない血まみれの人間の形をした



「塊」



カーテン1枚でしか遮られないプライベート。
そんなものがどうでもいい空間。優先されるものはただ一つ


「生存させる」という工程。


悲痛な声と折り重なるように再び到着する救急車とサイレンの音。


「21歳ー女性ーリストカットでーーす脈拍正常値内ーー」


「ちょっとさー深さ測ってくれる?動脈いってないと思うんだけどねーー」

「はーーい」

「あーー春だねーーー( ゚Д゚)今日2人目だっけ?」
「まーーねーーそーーいう時季だよねーー」

走りながら失笑気味の看護師2名。

「はいはいはいもういいかなー。ちょっとシーツ替えよっか(*´ω`)みんなびっくりしちゃうからねー(´・ω・`)。」

優しく

強く

静かに諭すように

声をかけ

淡々と血で染まったシーツを替える。

「よし!きれいになったからね(*´ω`)呼んでいいよー」

「はーーい」

看護師に呼ばれなだれ込むように寄り添う家族。
「なんで・・・・」

嗚咽が止まらない母親の横で、

呆然と声すらかけられない父親と

カーテンのきれた下に見える大小のスリッパ

「・・・・ごめ・・・・」
消えそうな少女の声


微かに思い出す


「誰か私を見つけて」


そう


見つけて欲しかったよね


「自分はここにいるんだ」


って



2017年3月21日
18:50

正美はママさんバレーを休み、帰りのタクシーを手配してくれた。
病院に1200円のレンタル料を払い、松葉杖を片手に帰宅。

姉とも連絡が取れ、明日病院に連れて行ってくれる約束を取り交わし

痛み止めが切れ、やむにやまれず「ロキソニンを噛み砕いてわざと気絶する」という禁じ手を使いながら


こんなのどけし春の訪れに

凍り付いた左足に隙間なくカイロを貼り

2時間ごとに独り


夜を明かす。



「3つの人間の顔を持った3本足の鳥」が

うようよ何匹もフローリングを這いつくばる中


ふと

あのご主人は多分「灰」になるんだ


とか


あの少女は「自分」を見つけてもらえたのか


とか

余計なことを考えながら人工的失神を繰り返した

2017年3月22日
10:40

姉に支えられながら再び赤十字病院へ。

車いすに座るのも耐えられない激痛が走る


VIP待遇 

ストレッチャーでの移動となった。

そんな中見かけた雑に仕切られたパーテンションの奥に

幾重にもシールが貼られ
所狭しと並べられた

何人分か分からない数のキャリーバッグ。


その隣には、紙幣や硬貨が入り乱れたパンパンの募金箱

「東日本大震災の義援金に使用します【日本赤十字社】」

まだ終わっていないんだ‥


そして

パーテンションの奥には、手書きで描かれた世界地図と顔写真

「国境なき医師団」に在籍する医師の配置図

世界中で命の危機に晒されている人を救うべく、奔走しているのだ。


「先生、昨日処方してくれた注射がよく効いたのでもう一度処方してほしいのですが・・・」

昨日淡々と看護師が書き記したカルテに目を通しながら

「あ、あれね・・・ごめんなさいね。依存性が強いので余程のことがないと処方出来ないんですよ(*^^*)ヘルニアの治療薬・・っていうか、神経性の痛みに有効なのがあるので、それを処方しますよ。」

ちなみに

【「その薬」を処方される症例として】

・震災や事故などでガラスや異物が刺さったまま病院で待たされて抜ける現状にないとき

・機械などに手足を切られたとき

・末期がん患者の疼痛緩和

・・・

モルヒネ(医療用麻薬)やん

どうりで変なもん見えるわけだ

あの人も

「3つの人間の顔を持った3本足の鳥」が見えたのだろうか

そうやって

私を忘れて

大学生になっていったのだろうか


「・・・分かりました」


「最近の椎間板ヘルニアに対する治療は、手術より自然治癒なんです。【マクロファージ】がヘルニアを食べてくれるのを待つんです」

「マクロファージ?」

マクロファージ(Macrophage, MΦ)は白血球の1種。生体内をアメーバ様運動する遊走性の食細胞で、死んだ細胞やその破片、体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化し、清掃屋の役割を果たす。とくに、外傷や炎症の際に活発である。また抗原提示細胞でもある。免疫系の一部を担い、免疫機能の中心的役割を担っている。 名称は、ミクロファージ(小食細胞)に対する対語(マクロ⇔ミクロ)として命名されたが、ミクロファージは後に様々な機能を持つリンパ球などとして再分類されたため、こちらのみその名称として残った。大食細胞、大食胞、組織球ともいう※ウィキペディア(Wikipedia)より抜粋

「ええ。ですから、一番の特効薬は【横になって、猫みたいに丸くなってジッとする】なんです!」

最近は手術で取り除いたり人工軟骨など手法はあるが、一生メンテナンスが必要な施術は行わず、出来る限り自然治癒力に頼るらしい。

私が思っていた日進月歩の医療とは逆行するけど、ヘルニアに関しては療養が一番の薬ですぐ根治には走らない。

天井がモニターになってくれと切に願った2ヶ月。
寝たままだから液体はストローのみで摂取し、トイレは絶叫と共に過ごしオムツは免れた。

正美や姉にお使いしてもらい大好きなチップスターとカルピス、サンドイッチと野菜ジュースで凌ぎ、体重は8kg増えた。

さ、作業着のズボンが‥(^_^;)

2017年5月23日
8:00

はい。太りましたよー笑笑
何回答えればええねん

朝の朝礼でみんなを集めて

今まで現場を支えてきた事への感謝と

命の重みについて

思うことを要約して伝えたが
きっとその身にならないと分からないな。


皆様は何に春を感じるのでしょうか

逢う魔が時は木の芽時の淀ですが

皆様にも

リストカットで春を感じる厳しい現場の人たちにも

暖かい日差しと美しい桜に囲まれた春を感じて頂けますように

切に願う今日です。

では、暖かな日差しと共に、皆様に幸運を🌸

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